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一日目:遭遇


 昼寝してました。

 え? と思うかもしれないけど、気が付いたら昼寝していたみたいです。

 いや、本当は緊張状態が長続きして気絶しただけかもしれないけど、正直わからない。直前まで、色々とこの状況からの脱出方法を考えてはいたことは覚えてる。もっとも、全然意味なかったけど。

 圧倒的な空腹感と尿意に促されて目覚めた時の最悪さと言ったら、もうなかった。

「……よく落ちなかったなぁ」

 悪運の強さ? に苦笑いしながら下を見る。

 見なかったことにして、真っ暗闇な空を仰いだ。

「…………」

 諦めて再度下を見て、ぼくは盛大なため息をついた。

「……ああ、そりゃね。そりゃみんな、非常食も私刑も終わるだろうさ。時間もたってるんだし」

 もう一度、見たくはないんだけど僕は眼下の現実を直視した。


 ぼくの下側には、見渡す限りのリビングデッドたちがぴょんぴょん跳ねていたのだ。


 こっち見んなって。そんなもの欲しそう? な目をされても、ぼくに渡せるものなんてないさ。

 命が欲しいって? それは断固、拒否したい。

 というか、えーっと、更に状況が酷くなったことだけは確実だった。

「というか何故寝てたんだって、ぼく……」

 いや、もうその部分はいいや。

 どうでもいいということにしよう。

 我ながら自分の謎行動には困惑するばかりだけど、過ぎたものは仕方ない。

 さて、この状況どうしたものか。

「……よし、死んだな! はははははははははははははははは!」

 絶望的状況で、逆に気分が高揚したぼくだった。

 無論、その心境は錯乱の二文字だ。

「すぃ、よ……、どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうでしょうどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう……」

 コンディション最悪状態における、逃走不可能状態という非常に嫌な組み合わせに、ぼくの錯乱は止まらない。

 留まることを知らない。

 止める方法を知ってるヒト、ぜひともご連絡ください。

 いやともかく、そんな変なことを考えるくらいには錯乱していた。

 現実逃避したところで、現状は良くなることもない。

「……本当にどうしよう」

 とりあえず色々限界なので、ここから用を足すことにした。

 緊急事態だ、背に腹は代えられない。

 放物線の先端を、見事に避けていくリビングデッドたちが印象的だった。

 というか、野蛮なくせしてそういうのは見事に避けるのか。そっかー。衛生観念とかは存在するのか、モンスターっぽいのでも……。

 いや、もしかしたら攻撃でもされていると考えたのかもしれない。

 そう思って、少しだけ水をキャップにとってかけてみる。

 避けなかった。

 微動だにしなかった。

 さっきみたいに、飛び跳ねるように退避することもなかった。

「……何かごめん」

 なんとなくだけど、思わず謝るぼくだった。


「本当に襲ってこないのなぁ……。まあ下りたら殺されるんだろうけど」

 どれくらい時間がたったか、正直わからない。

 というか、太陽も月もあったものじゃないので、時感覚なんてどこへやらだ。

 まあ、しばらく経った後。実は若干、リビングデッドがこの場から居なくなっていた。

 何やらお互い『GRU?』『GRU!』みたいな会話をして、何処かへ消えていったのが何体かいた。それでも、まだ沢山居ることに変わりはない。

 まあ、ぎゅうぎゅう詰めではなくなったんだけど。

「って、それよりみんな身体燃えてるのに、燃え尽きたりしないのかな……?」

 全てのリビングデッドは、上半身のどこかしらが燃えていた。

 例えば頭、例えば右肩、例えば心臓、例えば腕とか。

 それでもみんな、当たり前のように長時間立っている。

 これはもう、そういう生態なんだろうと思う他ないのかもしれない。

「……まあ、もしかしたらその火が弱点なのかもしれないけど、生憎水筒も残り少ないからねぇ」

 どうしたものかなぁ、本当。


 事態が急変した。

 いや、急変したんだけど、なんとも説明が難しい。

 いや、難しくはないんだけど、えっと……。まあ好転したって言っていいのかな? 状況。

 リビングデッドたちが、襲われています。

 なんとも形容しにくい何かに襲われています。

 細長い岩……、岩? 岩みたいな、黒い何かが彼らを襲っていた。

 大きさは、一つでヒトの身長の一・五倍くらい。

 その岩は、まるで人間の顔が掘り込んであるみたいな感じだった。

 いや、掘り込んであるっていうか、人の顔そのものだ。

 鼻の穴と口のあたりからは湯気を出し、どっしんどっしんジャンプしながら移動している。

 らんらんと輝く両目は真っ赤で、見た目の印象は独特の恐さと、なんだかすごいって印象が同居している感じだった。

『立ち去れ! “忘れられし者”共よ』

 しゃ、しゃべったあああああッ!

 しかも声、ものすっごい渋いッ!

 そんな岩の顔が、数体群れをなしてやってきていた。

 どっしんどっしんして、時にリビングデッドを押しのけ、時にリビングデッドを押しつぶし。

 ……目の前でぐしゃあって音が聞こえた瞬間、なんとなく胸元がおえってなったけど、無視することにしよう、うん。

『輪廻を脱した骸よ、汝らはひとえに土へと帰ることも叶わぬぞ』

 岩の顔さんたちは、あっという間にその場を制圧しきった。

 ものの十秒もかからず、全部が全部、酷い有様になっていった。

 見た目すんごく動き難そうなのに、案外早く動いてる上に、強かった。

「……でも結局、ぼく降りられないんじゃないかな?」

 そして、それが結論だった。

 リビングデッドがあの岩の顔に変わっただけで、状況は全く好転していないといっていい。

 いやむしろ、あの岩の顔たちだったら、この木くらい簡単に吹き飛ばせてしまいそうだ。

 状況は悪化していると言っていいかもしれない。

「と、とりあえず気付かれないように、静かに、静かに……」

『落とされし者よ、安心せよ。危機は去ったぞ』

「うひゃあッ!」

 下から声がかけられた。

 目を瞑って木と一体化するために頑張っていたのだけれど、びっくりして足を滑らせた。

 あ、やばい、頭から逆さまに落ちて――。

『世話のやける』

 岩の顔の一体がそう言った。

 次の瞬間、ぼくの落下速度が落ちていく。

「え? え? え? え?」

『落ちる速度を遅くした。これで、首を打ち死ぬこともないだろう』

 無駄に尊大な口調で、何言ってるのこの岩石顔面。

 でも彼(?)の言ったとおり、ぼくはがんっと地面に激突することもなく、ごろんと転がるだけで済んだ。

『“忘れ去られし者”ではない、“落とされし者”は久々だ』

『僥倖である』

『見聞』

『このものは、無実である』

『害意もなく、心がここにない』

 ぼくの周囲で、顔面岩さんたちが次々に何事か言い始めた。

 えっと……一応、ぼくを助けてくれたってことでいいのかな?

『さもありなん』

「あ、ありがとうございます」

『礼には及ばぬ。久方ぶりの“落とされし者”よ』

 落とされし者?

 意味がわからない。

 けれど、ぼくが次に発した言葉は、その疑問ではなかった。

 次々とこっちの内心を混乱させてくれるようなことが立て続けに起きているから、ぼくも自分が何やってんだかわかんない。

「え、えっと、すみません。あなたたちは……?」

『創造主は、ストーンワイズと呼んでいた』

 ストーンワイズ。賢き石像?

「えっと、じゃあそのみなさんに聞きたいんですけど……。ここって、何なんですか?」

 ストーンワイズさんたちは、みな顔をそろえて、しばし沈黙した。え、何この空気。

 やがてそのうちの一人(?)が、口をひらいてこう言った。


『ネザーエンパイア。――“地底の女王”ケライノの眠る地下帝国に他ならない』

「……へ?」


 どうやらぼくは、冗談抜きで本当に地獄にいたらしかった。



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