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五十二日目:落下

 

 

 エウレカに運ばれて、ぼくは久々に塔の下に来ていた。

 相変わらずここら辺だけは、周囲の空間とは隔絶されていた。

 そして――その場には、ストーンワイズたちがたむろしていた。

『また異なるものよ』『落されたにしては、かの者は身奇麗すぎないか?』『しかし邪竜がしたにしては、意味がわからない』『むぅ、判断に迷うな……』

 遠目で彼等が観察できる位置。ぶつぶつと話し合っているストーンワイズたちは、何と言うか、結構不気味だった。

 そんな彼等に向かって、エウレカは疾走し、飛び膝蹴りを喰らわせた! お嬢様風な服装からは想像し辛いほどの、軽快な一撃だった。

『がっ――! あ、貴女様は――』

「はいはい邪魔ですわ? いいからさっさとお退き遊ばしなさい」

 エウレカの登場に驚愕と、飛び退くように離れるストーンワイズ。

 前から思って居たけど、やっぱり彼女とストーンワイズたちとの関係がなんとも……。ていうか、スライムだった時と応対が違いすぎやしないか? 前はもっと親しげだったような。エウレカはエウレカでよくわからなかったけど、それはともかくとして。

 ストーンワイズたちに囲まれていたのは、女の子だった。微妙に薄暗くて分かり難いけど、たぶん茶色。体の凹凸はまあまああって、手足は細く華奢。少し丸っこい顔立ちの、可愛らしい女の子だ。感じとしては、エウレカとは違うタイプな気がする。

 服の所々にやぶれと血の跡、その下に白い肌が見えた。

「治療は致しましたの?」

『体表面については問題ありませぬ』『姫よ、だからなにとぞよしなに……』

「そ、そんな悪代官みたいなことを言わないでください! リンドさんに勘違いされたらどう責任を取りますの、粉微塵に致しますわよ!」

『『『ひ、ひぃ!?』』』

 本当何やったんだよエウレカ。

 いや、たぶん今の脅迫もある程度は冗談なんだろうけど……、冗談だよね?

 ま、まあともかく、悲鳴を上げる野太い声のストーンワイズたち。どうやらこの女の子を治療したのは彼等であっているらしい。

『墜落者……、ともう呼べないな。名を教えてもらえぬか』

「リンドだよ、リンド・ターナー」

『そうか。……ではリンドよ。そこの娘を介抱してはもらえぬか?』『我等の会議では、とりあえず地下帝国に迎えても問題はないと出た』『そして、生憎我等に手はない』『治療を行うにしても限界がある』

「まあ、言われなくても放置するのも駄目だとは思うし、そのつもりだったけど……」

 何となく、ぼくはエウレカの顔を見る。彼女は、女の子を見つめながら、不可思議そうに頭を傾げていた。

「……」

「エウレカ?」

「へ? あ、いえ、どうなさいました?」

「いや、えっとその女の子を助けてあげようって話なんだけど……」

「あら何故私を見るのです? それを決めるのは、リンドさんですわよ? 私は意見を挟みません」

「いや、何となく……。まあ、良いなら良いんだけど」

 何となく彼女の、ぼくに対する執着みたいなもの違うかな、という違和感は覚えた。

 エウレカと一緒に、女の子を持ち上げる。ぼくが彼女を背負い、エウレカがそんなぼくの腰に抱き付いて連れて行く、といったところか。

 飛び経つ直前の体勢になったところで、エウレカがストーンワイズたちに言った。

「では、引き続きお仕事なさってくださいまし! 岩盤の小僧の子らよ」

『『『……う、承りました』』』

 エウレカと彼等の上下関係が酷く気になったけど、なんだろう、聞かない方が長生きできるような気がしてきた。

 そして現在。ツリーハウスにて、ぼくは女の子の額を冷やしていた。彼女の服の袖、千切れかかっていた部分を短剣で破き、水を滴らせ元素を集めて、温度を多少さまして頭に乗せる。水が蒸発したら入れ替えて乗せを繰り返していた。

 ツリーハウスに運んでくると、女の子には熱があった。

 ぼくの腕の中でむずがる彼女。その額にエウレカが手をあてると、ぎょっとした顔ですぐさまぼくに下ろすよう指示を出し、水と薬をとってくると言って出かけてしまった。

「地下帝国での発熱など、普通に死にますわよ! いけませんわ、薬を作ろうにも“第三の島”は遠すぎますし……っ!」

 基本的に熱量の高い地下帝国。数週間かけて慣れれば脱水になりにくいらしいけど、初めてここに来た段階で、体調を崩したりすると一発で死にかねないらしい。エウレカの登場で生活環境がかなり改善されはしたものの、やっぱりここで人間が生きるのは、かなり大変なようだ。

「本当は冷やせば良いってわけじゃないって言っていたけど、少しは押さえられるかな……?」

 赤い顔をして、呼吸の乱れる少女。

 彼女の口に水筒の口をつけ、少量ずつ水を飲ませる。咽ない程度に調整するのは本来大変なはずなのだけど、どうしてかぼくは、自然な動作でそれをしていた。まるで「どうやれば」「この少女に対して」「適切な処置ができるか」をわかっているような、そんな感覚が――。

「痛っ」

 一瞬割れるような頭痛が走るけど、ぼくはそれを無視して看病を続ける。

 改めて彼女の全身をみてみる。……別にやましい意味じゃない。エウレカと違って、彼女の服装はかなり露出が押さえられている。生地はちょっと粗いし着ている年数も多そうだし、修理跡もそこそだけど、エウレカのあのお嬢様風のドレスよりは防御力が色々高かった。

 その所々、腕や足首のあたりに傷跡が見える。ストーンワイズたちが回復したそれなのかもしれないけど、足首には、まるで鎖につながれていたような、皮膚が捩れたような傷跡が残っていた。

「罪人ってことなのかな? でもストーンワイズたちは、受け入れても問題はないって言っていたし……」

 とすれば冤罪か、誰かに罪を着せられたのか。

 心の中から湧いてくる、この感情は哀れみか、同情か。

 と、彼女の顔を見つめていたら、ふとその目が開かれた。

 焦点が定まって居ないその目は、起きているのか寝ぼけているのか判別が難しい。

「あ、起きた?」

「……おにぃ、ちゃん?」

「へっ――」

 一言を言うと、彼女は再び目を閉じた。どうやら寝ぼけてたみたいだ。

 でも――何だろう。


 女の子のその一言に、ぼくは、猛烈な違和感に襲われた。


「……何だろう、これ」

 そのよくわからない感覚の正体が、つかめない。

 冤罪だとすれば、この女の子は兄にあたる人物と引き離されたということなのだろう。

 だったら別に、その言葉はおかしな点など何もない。

 なのに――どうして、ぼくはこんな、拒否感みたいな、違和感を覚えるのだろう。

「――只今戻りましたわ! ……って、リンドさん?」

 結局その後、エウレカが帰ってくるまでの数刻、ぼくは怖い顔をしながら女の子の看病をしていたようだった。





 エウレカが作った薬を飲ませてから(ちなみに緑と紫に発色する、とても見れたものじゃない見た目をした液体だった)相談した結果、女の子の様子は彼女が見る事になった。

 彼女なら一日とか寝なくても平気らしいので、ぼくもそれに甘えさせてもらおう……と思ったのが運のつき。いつものごとく蹴飛ばされ、ぼくはと言えば、例のごとく鍛錬を続けている。今日は桑を振り下ろしながら、元素を集める練習だ。

「ほら、もっと大きく振り上げて!」

 病人が横に居るのに、それはどうなんだろうと思いながら、ぼくは桑を振り下ろす。

 残念ながら注意しようにも、叫ぶ体力がない。

 魔術師ならば体に元素をとりこめば多少疲労感が薄れるらしいけど、生憎とぼくの両手首の封印は、今日も絶賛動いているらしかった。

 エウレカの指示通り八百回振り下ろした後、ぼくはハウスへ登り、五体を投げ出す。地面で投げ出すと再び登るのが億劫になるので、事前に登るようにしていた。

「はい、お疲れ様です♪」

「う、うん……」

 上機嫌な声を出しながら、エウレカはぼくの額をなぜる。エウレカの手は、地下帝国に似つかわしくない程、ちょっとひんやりとしていて気持ちが良い。あとわずかに鼻の奥をくすぐる臭いも、色々とぼくをドギマギさせる。

 気付いて居ないのか確信犯なのか、くすくすと笑うエウレカはたいそう可愛らしかった。

「リンドさんのそういう、子供っぽいというか、思った事が顔に出やすい所とか、私けっこう好きですよ?」

「ぼくは、エウレカのそういう言葉がどういう意味合いなのかってのがすごく怖い」

「あら、どういう意味合いが宜しいですの?」

 悪戯っぽく笑うそういうところがだ、と言おうと思いはしたけど、結局ぼくは何もいわず、彼女の手の冷たさを堪能した。


 そんなタイミングで、エウレカに女の子が突進して、部屋の端までぶっ飛ばされた。

 

 

現状:女の子がエウレカの上に覆いかぶさっている状態

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