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五十二日目:落穴

ちょっと短め



「ささ、もっと足を高く上げましてー!」

「はぁ……、はぁ……」

 絶賛、エウレカとトレーニング中。

 ツリーハウスのある場所から、例の「逆さまの塔」の場所まで、走って往復中のぼくら。

 一往復十割と考えると、三往復目で大体四割くらいの地点だ。

 この移動だけで、既に数時間が経過している。休憩は何度か挟んでいるけど、流石に足がいたい。

「……そういえばだけど、魔法で生成した水を飲んだりするのってまずい?」

 ふとした疑問を、エウレカにぶつけてみた。

 ぼくの隣にエウレカは腰を下ろして(ちなみに服装は短パンの水兵さんみたいな感じ)、「ぜったい駄目ですわ」と断言した。

「地上ならばともかく、地下帝国で集める水の元素、結構ばっちいですわよ?」

「ばっちいの?」

「鍋などがあれば蒸留することも出来ますけど、ともかくあんまり飲まないほうがいいですわよ? お腹壊します」

「はぁ……」

「どうしても駄目な際は止むをえませんが、積極的には取らないほうが無難ですわね。陸地の肉と同じく。

 ひょっとしたら大丈夫かもしれませんが、できれば遠慮してください」

「……そろそろ本格的に、この地面が何だったのかというのを聞いていい? エウレカ」

 ぼくの言葉に、エウレカはそっぽを向いた。

 まだ語るべきではない、ということなのだろう。

 しかし、それでもいくらか類推できるところはある。

 一つは、彼女が口にしたことから、間違いなくこの地面肉は、本来食用ではないということ。

 そしてもう一つは、地面肉はもともと別な何かが元になったものであるということ。そして極め付きが、それをぼくが知った際にある程度のダメージがあるだろうということだ。

 これだけヒントを出されていると、色々考えられるところはあるものの、追求はしない方がいいように思えてくるから不思議だ。

 何より、ぼくのために言わないでいてくれる、というのに、二種類の感情が出てくる。

 嬉しいというのと、何でだという疑問が。

 単純に彼女がぼくを大事に思ってくれている、というのが嬉しいのが一つ。ぼく自身、記憶を失って彼女(当時はスライムだったけど)と出会い、現在まで生活しているけれど、その間で相手から大事に思われる、くらいに仲良くなれているかもしれないというのは、なんとも言えない嬉しさがある。正直、可愛い女の子が自分を思いやってくれているというだけで――おっと、煩悩退散。

 でもそれと同時に、エウレカの存在に対する疑問と疑念とが、胸の奥に潜む。原始の姫、だったっけ。ぼくの知識にある「地底の女王」の話しには出てこない人物だ。そんな相手が、何故こう、見返りもないだろうぼくに優しくしてくれるのだろう。

 双方とも真逆にも近い感情であるけど、とりあえずぼくは素直に喜ぶ事にしている。

「どうされました? リンドさん」

「……いや、何でもないよ。それよりさ、何かエウレカ話してよ」

「え、ええ!?」

 突如ふられたぼくからの振りに、彼女はものすごく驚いた。

「え、いえ、でも……、そ、そんなに面白いお話なんて出来ませんわよ?」

 おどおどして、申し訳なさそうなエウレカがたいそう可愛らしかった。

 そんなちょっと不純なことを考えつつ、彼女がかつて一緒にここで過ごしたヒトビトの話しを聞いたりしていた。

 この後に何が起こるかなんて、考えていたわけでもなく。





「……つまり、ラスシャイターン以外にもここには都市があったってこと?」

「ええ。元々、何らかの理由で迷い込んだり、あるいは落されたりしたヒトビトが寄り添い、発展したのがこの地下帝国ですの。だからこそ、『邪悪の芽』によって蹂躙される前のこの地下帝国は、そういったヒトビトに優しい場所でしたわ」

 邪悪の芽というのが何であるか、一切かたらずエウレカは言っている。

 どこか懐かしそうに目を細めて居るのは、気のせいじゃないだろう。

 過去を語るエウレカは、やはり寂しそうだ。

「地下帝国は……元々、『邪悪なる竜』が封じられた後、地底の女王に対する人柱、生贄たちが暮らすようになった場所です」

「生贄? ……ああ、地震は女王の嘆きだと言われてるからか」

「ええ。そのため、地上での地割れなどを鎮めるため、よく地下帝国へヒトが送られて来ました。

 私は――そんな彼等を哀れんだ女王が使わした存在で、彼等を時に導く役割を持って居ますの」

「導く役割か」

「ええ。もっとも、出来ていたかどうかは今でも怪しいのですが」

 肩をすくめる彼女に、なんとなく納得できるぼくだった。確かに彼女は、自分が思って居るよりおっちょこちょいなところがあるかもしれない。

 エウレカの話しを総合すれば、地下帝国とは、何らかの理由があってここに送られた人々が集って出来た国。国が誕生して以降も、同様に送られてきたヒトビトで集り、それなりに平和に過ごしていたということらしい。

「とすると、ストーンワイズたちが来たのは、ひょっとして最近なの?」

「最近――というほどではありませんわね。でも年代記としては新しい方だと思います」

「なるほどね……。だからついつい、ガキ共とか言っちゃったと」

「そ、そんなこと言ってませんことよ!?」

 慌てるエウレカ。なんとなく微笑を浮かべるぼくの両肩を持ち「わーすーれーてーくーだーさーいーましっ!」と言いながらぐらんぐらん揺らす。

 そんなやりとりをしていたから、一瞬気付かなかったのかもしれない。

 でも、ぼくははっきりとそれを視認した。


「……エウレカ、あれって何?」


 手をほどいてから、ぼくは上を指差す。

 塔の近くの方角から、白い光に包まれた何かが落下してきていた。位置的に辛うじて塔の影を見ることが出来る場所だったのが幸いしてか、地下帝国でも珍しい「自ら光る何か」ははっきりと見ることが出来た。

 それはまるで流星のように、尾を引く光だった。

 エウレカは、目を見開いた。

「――っ、リンドさん、行きますわよ!」

「へ、どうしたの?」

 突然立ち上がると、彼女の頭には例の羽根が出現していた。


「――また、ヒトが落されましたわ?」


 彼女の慌てた様子からして、どうやら悠長にかまえている暇はないらしい。



新キャラ登場は次回までお預け

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