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三十七日目:戦略

食糧事情続きます。

 

 

「実際、問題、これって、どう、いう、役に、立つの?」

 ぼくは、素振りをしながらエウレカに聞いた。腕にかかる負荷は相当だが、なんとなくあと何日かで慣れるんじゃないかという予感がするのが怖い。

 エウレカは、梯子を下ろしてぽすんと下りてきた。

「そういえば、リンドさんには作戦面を話しておりませんでしたわね。後で話しますわ」

「作戦? って、ディーゼルボア捕らえるためのだよね……」

「ええ。といっても、多少魔法が使えることが前提となるので、リンドさんも魔力を扱いなれないといけませんの」

「慣れるって……」

「感覚的に魔術の発動に違和感があるのならば、ある程度安定するまで使用して、感覚をつかみ直すといったところですわ?」

 まあ、そうなんだろうけどさ。

「体力と精神力や魔力も比例はしますし、その意味もありましてよ?」

「だからって何で桑?」

「……少し、昔話を致しましょうか。リンドさん、振るのを止めない」

 エウレカがぼくの首筋に手刀をたたきこんだ。痛い。

 でも、抗議できる空気ではなかったので黙々とぼくは金の桑を振る。

 エウレカが、ぼくの後方に回った。なんとなく、木にもたれ掛かってるかもしれない。首を回せば、ぎりぎり視界に入るような位置だった。

「……もうどれほど前か数えるのも面倒ですが、かつて、ここにはヒトビトの暮らす国がありました。リンドさんも見ましたわね?」

「ラス、シャイ、ターン?」

「ええ。当時は石のクソが……、ストーンワイズたちも居らず、む――」

「今、石のクソガキって言おうとした?」

「『ストーンワイズ』、たちも居らず」エウレカは、強調するように言い直した。「むしろ彼等が居なくとも、安定できるような場所でしたの」

「安定ねぇ……」

 周囲を見回す。

 この灼熱をそのまま具現化したような空間を安定というエウレカの心理がよく分からない。

 まあ逆に考えれば、ストーンワイズたちが仕事をしていなければ、この場所はもっとひどいことになっているということだろうか。

 安定というのが何を指し示す言葉なのかは曖昧だけど、十中八九、ストーンワイズたちが言っていたそれだろう。

「そして一度、その安定が失われ、『邪悪なる竜』が蘇ろうとしたんですの。それを、みんなで食い止めて――残ったものが、あの有様ですわ。もっとも経年劣化も多いのですが」

 エウレカは、どこか自嘲するように言う。

「それから長い長い間、一人で居ましたの。何度かヒトが落ちてくることもありましたが、結果は、芳しいものではありませんでしたわ。

 足を引っ張りあうこともありました。

 お互い、殺し合いを始めるモノたちも居ました。

 仲間の死体を食べなければ、生活できない状況に陥ったヒトビトも居ましたわ……」

 エウレカの表情は、なんとなく、それ以上の追求が躊躇われるものに感じた。

 少し憂いを帯びているように見えるエウレカ。でも、落ち込んでいるという訳ではないようだ。

 でも、なんとなくだけど、エウレカの価値観はそこで形成されたんじゃないだろうか。

 と、こちらの顔を見て、エウレカはふふっと微笑んだ。

「過去のことですし、そんな顔はお止めなすって? ……話が脱線しましたわね。ともかく、その古い時代に、地下帝国は多くの、『邪悪の芽』で覆い尽くされました。それとの戦闘で、多くの武具が失われております」

「多くの武具?」

「ええ。当時は金がとれていたので、武器もそれを用いて造られて居ました」

「どんな恵まれた環境!?」

 思わず叫んで、桑の先端を二度見した。

 地上知識との明らかなカルチャーギャップに、戸惑いを隠せない。

 エウレカは、そんなぼくに「仕方ないなぁ」という風な感じで笑いかける。

「貨幣などとしての価値は、むしろ銀の方が高かったと思いますわ。……それはともかく、結果として、武器どころかほとんど探すのも難しいといったところだったのですわ。むしろ、桑でも残っていた方が僥倖というべきでしたの」

「はぁ……。でも、この肉の地面から金がとれるっていうのが、全然想像できないんだけど」

「……」

 エウレカは、何も言わずににこにことぼくを見つめる。

 どういう意味があるのだろう。何もいいたくないということだろうか。いや、考える材料はそろっていると言うことか?

「鉱石を掘る余地がある、そういう地形があった? にしては、ここの整備具合というか、そういう跡がほとんど見受けられないのは……つまり、かつてのこの場所は鉱石が掘れたと言うこと?」

 だとするならば――。


 ダメダ。

 ソレイジョウ、カンガエルナ。


 突如、脳裏に言葉が響いたような気がした。

 頭痛は伴わなかったけど、その一瞬、電流が走ったように頭の中をかけ巡る。

「……」

 結局、エウレカもぼくもしばらく無言のままだった。





「そのいち、溶岩で囲いますわ」

「それ、前提が無理じゃないかな?」

 エウレカが地面に絵を書く。いや、書くというよりも移殖ごてで地面を削っているというのが正しい表現なんだけど、とりあえずそれは置いておいて。

 ぴょこぴょこと頭の髪飾りの羽根を動かし、エウレカは胸をはって言った。

「いいですか? リンドさん。前にも言いましたが、ディーゼルボアは足場がこの地面でないもの、もっと言えば溶鋼樹のような材質が挟まっていたりなど、均質でない場所を嫌いますの」

「なんでさ」

「おそらくですが、あの巨体で疾走するのにこれが一番適しているのではないかと。

 それ以外で言うなら、水辺も嫌いますわね。凶暴化する理由は、本来苦手とする水を体に浴びることによる、生存のための暴走といったところですわ」

 そこのところは、わかるような分からないような。

「この特性を利用して、まずは動きを封じますわ? ……本当はもっと色々準備しておくべきだったのですが、それもまた難しいので、とりあえずすぐに出来る方法からいきましょう」

「うん、だからそれがおかしいんだって」

 そして、結局何一つ説明できていないエウレカだった。

 え、何? 溶岩で囲うってどうやるのさ。

「誘い込みますわ?」

「……誘い込めるものなの?」

「私の特性、お忘れになって?」

「……水を探すことは出来たよね?」

「ええ。それの応用で、溶岩が噴き出す場所を私が探しますの」

 エウレカは、地面に「コ」の字を描く。「そして、吹き出す箇所でこの形にあらかじめ穴を掘って、溶岩を流し込みます。後は、この場所までディーゼルボアを誘導し反対側を塞げれば、ですわ?」

「そういうこと出来るの……?」

「そこは、私も手伝いますがリンドさん次第ですわ? 何のためにトレーニングしたと思っていますの?」

「……ひょっとして地面掘り返したり?」

「も当然しますわ。溶岩を流しこむ際は魔法も併用しますが……。それ以上に、リンドさんはディーゼルボアの生態を理解してもらいますの」

「生態?」

「そんなに難しいお話ではありませんが、覚えてもらわないと困ります。……私も、いつ何がおこるかわかりませんので」

「何か起こる?」

「ええ。所詮は、私も『運命の女神』の掌の上ですわ。何かの拍子に、うっかり死んでしまうこともありえますの」

「それは――」

「ですから、リンドさんは自力で、健康に生きられるようになってもらいますわ。もう――同じ失敗は、後悔はしたくありません」

 ニコニコと笑いながらそういうエウレカだったけど、ぼくは、彼女に何も言えなかった。

 エウレカが死ぬとか、同じ失敗とか――自分が生き残れるかより、一人になることの方が何倍も恐ろしいということも、結局言えなかった。

 

 

エウレカの過去は、そのうちそのうち。

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