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三十六日目:訓練

 

 

 視界は薄れている。

 鈍い色は、まるでノイズがかかったような視界だった。

 ぼくは、その視界から世界を眺める。

 おそらく、青空。

 そして、目の前には女の子。

 茶色い髪をした可愛い少女。

 建物から出てきた彼女は、無邪気にぼくにじゃれ付いてきているようだ。


――行ってらっしゃい! お兄ちゃん。


 口がそんな風に動く。

 それに対して、()は鷹揚に返事をした。

 気のない返事に、彼女は口を膨らませる。

 俺は、そんな彼女の頭をなでようと――。


「痛っ」

 激痛で意識が戻ると、目の前で大きく伸びをしたエウレカがいた。

「さあ、今日も訓練ですわ!」

 寝ぼけまなこなぼくを、元気良くエウレカが叩き起したらしい。後頭部が痛い。

 正直どう足掻いてもしゃっきりとはしないのだけれど、ぼけっとしてたら部屋の内部を光で満たされ、流石にどうしようもなかった。

「……何それ?」

「周囲の元素、特に火と風の元素を集合させて電気エネルギーに変換、したものを内部で通わせて発光させる仕組みの道具……、といっても理解していなさそうなので、雷属性の魔法具だと思ってください」

 室内を猛烈に照らす、一つの照明装置。エウレカが持ってきた照明のうちの一つだ。

 なんとなく、雨の雫とかが妙に太ったような形状をしている。

「それも、地下帝国の技術?」

「いえ、魔法具としての改良はともかく、どちらかといえば転移者(ノウバディ)の技術ですわね」

「……の、ノウバ?」

「えっと、異世界人のことですわ?」

 えっと、異世界人?

 知識にはある。

 こことは別世界の、運命の女神アエロプスが知りえぬ場所より流れ着く開拓者のことを指す、らしい。時に法を、時に武を、時に知を、そして時に救いを大陸に齎すのだとか。

 やっぱり、熱心にそういうのを勉強していなかったんだろう、かつての自分。

「大体それを言うなら、リンドさんも一つ持っているじゃありませんの」

「持ってるって?」

「ノウバディたちの技術を」

 言いながら、エウレカはぼくのズボンのポケットに片手を突っ込んできた。

 全然容赦がない。

 イチモツに激突したため反射的に蹴飛ばしてしまったものの、彼女は特に両方とも気にせず、目当てのものを探し当てた。

「これですわ」

 取り出したのは、最近あんまり使っていない金色の装置だ。

「これは、火の元素を集中させる装置ですわ? 底に油のようなものが入っていますの」

「……へえ」

 としか、ぼくは答えられない。

 そうと言われてしまえばまあ、そういう道具なのだろうという話だ。

 ただ、そうなると、ぼくがこれを入手した死体のことが気になる。

 そう、ぼくはこれをストーンワイズたちに倒された、デッドウォーカーから入手したのだ。

 つまり、それは異世界人がこの地下帝国に居たから――『落とされたから』で、

「痛っ」

 一瞬、頭に電流が走ったような痛みがあった。

 そんなぼくの様子を心配しつつ、とりあえず、とエウレカが干し肉を口に突っ込む。

 租借。相変わらず味はしない。

 ただ、地面肉よりは柔らかかった。

「落ち着きました? では、改めて特訓ですわ!」

「って、ちょっと落ちるってば! ここ高所!」

 叫ぶぼくにかまわず、エウレカは、明るくぼくの背を思いっきり押した。





 家が建って二日、いや三日かな? エウレカが特訓だ、訓練だのと言い出したのには、当然わけがある。

「干し肉が、あと四日でおそらく切れます」

 分厚い干し肉一枚で一食分。それを食べている時、エウレカが言ったことだ。

 雨の後、エウレカを探してくたくたになり、結局力尽きて家 (でいいよね、このツリーハウス)で寝ていたぼくだけど、起きたらエウレカが膝枕しつつ頭を撫ぜていたのには妙に驚かされた。

 驚いたというか、挙動不審になったというか。

 下から見て、鼻と口が胸元で隠れているエウレカという絵面は、大層心臓に悪かった。

 それはともかく。

「そしたらまた地面肉生活か……」

 一緒に朝食をとりながら、エウレカに言われたことを踏まえてのぼくの発言。

 それに対して、彼女は異を唱えた。

「いえ、それは拙いですわ? リンドさん、かなり栄養不足だったということをご理解なさっています?」

「栄養不足……?」

「ディーゼルボアの肉ならば多くの栄養素を補えますが、地べたの肉だけではとうてい、ままならないということ、理解していますの? 第一、加熱したってきたないですし」

「お腹は下してないけれど」

「それでもですわっ!」

 ぺちぺちとぼくの胸元を平手で叩くエウレカ。

 そして、

「なので、貴方にはディーゼルボアを狩れるようになってもらいますわ?」

 彼女のその発言により、めでたくぼくの新しい毎日の習慣が誕生した。


「ほら、もっと素早く!」

「いや、これそういう道具じゃないから……」

 両手を、声を拡散させるような形でそえてエウレカがぼくに、家の上から叫ぶ。

 ぼくはと言えば、エウレカが「照明をとるついでに」持ってきたという、あるものを振るっている。……本当のところはどうか知らない。でも、気が付けば彼女が「ぽん」と出していたので、ぼくとしてはそれ以上の追及はしていない。

 さて両手もち、構えは中段。眼前にヒトガタがいれば、一撃で伸せる動きだろう。

 もっとも、残念なことにそれは武器ではない。

 剣とかじゃない。

「……この構えを維持するだけで、相当痛いんだけど」

 それは、桑、だ。

 はい、冗談じゃありません。

 桑を、剣を構えるようにして、そのまま振りかぶって動かしています。

 材質は、持ち手の部分は溶鋼樹。先端部分は……何? すっごいキラキラしてる。魔法石ではないと思うけれど、黄金色だ。

 いや、というか。ぼくの知識が正しければ、これは金だ。

 金貨の材料。富の象徴。どう考えてもこんな風に使う物品じゃない。

 なんで、金で出来た桑なんてものがあるんだろ、ここ。

 あと、これがまた無駄に重い。

 全体として、何か色々と間違ってるような気がしてくる。

 そして、これをやることでどうやってディーゼルボアを倒せるのだろうか。振りかぶりつつエウレカに大声で質問すると、

「どんな罠をはっても、最後は物理ですわ! 案外、ディーゼルボアは硬いんですの」

 とのことだった。

 う~ん、両手が悲鳴を上げている……。

「でも、あと五十回は振らないと――」

 なんとか気合で、ぼくは振り下ろしを続ける。

 一心不乱にやりつづけるのだけれど、段々と意識が遠退いてくるのは気のせいじゃないと思う。

「んー……」

 そういえば、寝ぼけていた時。

 何かとてつもなく懐かしい光景を目にしていたような気がしたのだけれど――。

「ほらリンドさん、気を抜いてはいけませんわ!」

 エウレカの言葉で、ぼくの雑念はかき消された。

 

 

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