三十二日目:建築
ネタバレ:似非建築技術
生きた樹木を建築の基盤につかい、柱や土台のような役割をさせる建築。
エウレカに説明されたツリーハウスを、まとめると大体そんな感じだろう。
大体が木の上に建築され、下方向の外敵から身を守るという構造でもある。
「この木なら大きいですし、枝分かれも多いですわ。
基本的によほどのことがなければディーゼルボアはこちらに来ませんが、デッドウォーカーくらいは紛れ込みますゆえ。したがって、下方向の安全性さえ保障されれば、大体は恐れるに値しませんわ?」
肉の地面をぼくの短刀で削り、簡単な図案を描くエウレカ。
その設計図を見て、思わずぼくは一言。
「これ、ほとんど家の強度を木に依存してるじゃ……?」
「確かにそうですわね。しかし――」
エウレカは、ぼくらの持ってきた木材を一つ取り上げ、叩いた。「この溶鋼樹、簡単に壊れるように見えまして?」
「う~ん、確か逆に硬い方がしならない分、無理な状態を続けると、どちらにせよ長持ちしないというような知識があるんだけど……」
「確かにそれもそうですが、これは樹木です」
「……ん?」
「つまり、こうして一見して硬いのですが、ある条件の下でだけ、異様にしなったり、強度が弱くなるのですわ?」
言いながら、エウレカは短刀に魔力を込める。と、集まりが悪いものの、何種類かの元素が刀に集中していく。
「リキ・オバー・フリド」
短刀を例の黒い樹木に当てると――は?
え? いや、かなり簡単そうにエウレカは樹木に短刀を突き刺した。
「このように、自然属性を用いれば、加工も可能なのですわ? リンドさんは、使えますの?」
「ん……、一応、できなくはなさそうだけど」
別に持っているナイフに元素を集てみる。水の元素は極端に少ないけどないわけじゃなく、土の元素は地面肉より更に下……なのかな? たぶん、そこから湧き出てきていた。
集ったには集ったけど、やっぱりこう、エウレカに比べて燃費が悪い。
両腕の封印術は、今日も絶好調に起動しているらしかった。
「では、リンドさんは表面のやすりがけをお願い致します。そのナイフでなぜるだけで、かなりつるつるとする筈ですわ?」
言いながら、エウレカはさもリンゴの皮でもむくように、するすると木材を切断していく。
それぞれの木材に対して「これは、出っ張っているところは斬っちゃダメですわよ?」などの注意をしつつ、山のような木材を切り崩しにかかっていた。
「……今更ながらに思うけど、どうしてわざわざ木材を運んできたの? ここにあるのを斬れば良いじゃん」
「木を隠すのなら森の中。ヒトを隠すのはヒトの中。周囲一帯が丸裸の中に、一つだけ木が残っている状態って、色々とまずくはありませんの?」
「なるほど……」
要するに、目立たなくさせる必要性があると。
いくらデッドウォーカーたちの知能が低くても、多少は学習能力くらいあるだろう。
そうすれば、あからさまに目立つ木があるとすると、流石に何かおかしいと気付いて上ってくるかもしれない。
エウレカの設計図を見る限り、木材と一緒に持ってきた綱で上り下りするらしい。流石にデッドウォーカーたちが綱を握れるとは思えないけど(ほとんど両手がぐずぐずで、武器を掴むのも一杯一杯のようだった)、木を上ることができるとしたら、ちょっと問題だろう。
「ところでリンドさん」
「何?」
「案外手馴れてるように見えますけど、そういう知識ってどれくらいあります」
「ん……、んー、結構ありそうかな」
普通に一軒家くらいなら、建てようと思えば建てられる予感がした。
もちろん地上でという意味でだけど。
何よりぼくの知識を活用しようとすると、圧倒的に資材が足りていなかった。
※
木材の加工は続く。
う~ん、流石に集中してると、会話が途切れるな……。
エウレカもあらかた木を切り終わったため、ぼくと一緒に鑢がけをしていた。ただ所々、へこんでいたり出っ張っていたりする箇所は「摩擦を上げるために放置ですわ?」と言って、特に手をつけていない。
最初の頃、エウレカがどうやって家を建てるか予想もつかなかったけど、なんとなくイメージがつかめてきた。それはともかくとして、エウレカは確かに、過去に建築的なことをしたと言っただけあるようだ。簡単な外観の図を描いた後は、特に資材の工数を確認したりもせず、ぱっぱときって作っている。実際にこれで木材が足りない、というような事態に陥ったら本末転倒なんだけど、何本かに一回言ってる彼女の台詞によって、その可能性はことごとくなくなった。
いわく、「私がそんな初歩的なミスをすると思いまして?」とのことだった。
「……よし、終わりました!」
完成した家の材料をみつつ、ぼくとエウレカは食事をとる。二人とも、例のディーゼルボアの尾肉を食べているところだ。
「……ちなみにエウレカさんや。味がするヒト代表に聞きますけど、これって美味しいの?」
「脂っぽくなくて、さっぱりしていますわ」
味の説明にはなっていなかった。
でも、ぼくの役立たずな舌にもわずかにビリビリと焼かれるような刺激があるので、塩っ気くらいはあるのかもしれない。もしそうだとするなら、この地下帝国にもそういうものがあったということか。ちょっとだけ希望のある話だ。まあ、ぼくはそれを感じることはほとんど出来ないんだけれども。
さて、建築に入る。
食事の後、エウレカは地面をならしてから、もう一度短刀で線を引き出した。
「構造を簡単に言えば、このように格子状に組み合わせますの。これをまず床に使って、四方に柱を立て、中央の木を用いて安定をはかりますわ?」
「その言い方だと何言ってるかわかりにくいけど、なるほどね……」
構成としては、家の真ん中に木の幹が入っていて、そこに天井、鍼を経由して四方にある柱へと重量を分散させようということだ。更に広がる枝の上に家自体を乗せ、幹へのつっかえ棒みたいなものを組み合わせたりと、ぎりぎりバランスをとれるようにしている。
「そして、これですわ」
更に、彼女は緑色の魔法石を取り出した。それなりに大きいものである。
「これを木の幹と、天井との接触面に埋め込むことで、地震などが起きた際の衝撃吸収に用いますわ?」
「ごめん、それは何っているかわからない」
地上の建築技術なんかに、当たり前のように存在しない技術だ。ただ、
「地下帝国の技術、ということで納得してください」
こう返されてしまうと、ぼくとしては納得するより他にない。
まあ、そこは仕方ないと諦めるほかないだろう。
「先にこちらで床を二つ組み立てて、私が飛んであちらで完成させますわ」
エウレカの指差す先は、それなりの高所で、木を上った先でくみ上げるには確かに大変そうであった。そんな理由から、エウレカは空を飛ぶつもりらしい。
「この小さな木片は何につかうの?」
「簡単に言えば滑り止めみたいなものですわね。ここの、上下で挟み込んだ後に通した木が外れないように」
「だからここは滑らかにしてないのかな?」
「まあ最終的に、組み合わせてから滑らかにして、お互いを半分結合させるという狙いもあるんですけどね」
くみ上げながらエウレカに色々聞いて見るけど、うん、どうも地下帝国の建築は、ぼくの知識にある普通の建築に比べて、かなり特殊なものであるようだった。
「では、飛びますわ? ちょっと離れていてくださいまし」
仮組み状態の床板二つ(ちょうど木の周りを囲うもの)を手に取ったエウレカは、うぃぃぃぃ、という謎のうなり声を上げながら目を閉じていた。
そして。
ばさっと、エウレカの頭に羽根が生えた。
「……え?」
エウレカの髪留め付近、ちょうどそこに羽根飾りみたいなものがあったのだけれど、そこを起点に髪色と同じ色の大きな翼が展開された。
よく見ればツインテールも消滅している。それが材料なのだろうか。
「では行ってまいりますので、他の木材も並べて置いてください」
呆然としているぼくを尻目に、エウレカは飛び上がった。
下から見上げて目に入るのは、特に恥じらいもしないスカートの下。
やっぱりかぼちゃだった。
やすりがけというよりも、粘度細工をならす要領と言ったほうが近いですかね。
次回は完成品お披露目です。




