三十二日目:拠点
「資材はこんなものですわね?」
何件か家を巡り、エウレカが探し出したものは二つ。
手押し車のような大型の人力運搬車(?)と、大量の木材(?)だった。
他にも色々道具(武器っぽいのもあった)とかを奪取したらしいけど、それ以上にエウレカが探していたものがこれだった。幸か不幸か、結構な量がとれた。
いや、取れたというよりは、盗ったといった方が正解なのかもしれないけど。
どちらにせよ、既に所有者たちは髑髏でしかない。
頭を下げて、ぼくはエウレカの後をついていった。
「で、コレ何?」
エウレカによって手渡された、よくわからない、薄い何か。
裏側は透けていないけど、なんとなく、地面肉に通じるものな印象だ。
ぼく同様の手押し車みたいなのに色々積んでいるエウレカは、こっちを向いて、真顔で言った。
「干し肉ですわ。ディーゼルボアの」
「……へ?」
で、ディーゼルボアの?
いや、え? え? ちょっと待って?
「……ラスシャイターンの人たちって、あれに勝ってたの?」
「当然のことですわ。でないと、普通は生きられませんの、こんな劣悪な食料事情な場所では」
「地面肉を食べれば良いんじゃ……?」
「そんな暴挙するのは、リンドさんくらいだと思いますわっ!」
突然怒鳴ったエウレカだった。
いや、そんなに酷いものなのかな、地面肉。
なにぶん、味がしないので判断もつかない。
しかし……。ぼくの記憶には、雨に降られて真っ赤になり、蒸気を上げながら突進してくる巨体の姿が思い起こされていた。
あれにどうやったら勝てるというのだろう。
というか、ぼくはどうやって生き延びたのだろう。
全く思い出せない。
そのことをエウレカに聞くと、彼女は難しそうに頭を傾げた。
「別な『外部容量』に格納された……というわけではありませんわね。覚えていらっしゃいますし」
「すと、すとれ……?」
「お気になさらず。下手に思い出そうとすると、おそらくまた頭痛が来ますわ。今倒れられると、私としても困りますの」
「り、了解」
流石に倒れる関係で、エウレカに迷惑をかけるのも嫌なので、素直に彼女の言うことに従った。
「それと、一応お食べになって? せっかくありましたのに」
「大丈夫なの? 明らかにだいぶ時間が経っていたと思ったけど……」
「魔術的には……、さほど経過しておりませんが……。まぁ、カビが発生していたら他のマグマスライムに食べられていますわ。腐っていても同じですわ」
「どいういう理屈だ……」
「少なくとも、地面の肉を食べてお腹を壊さなかったリンドさんでしたら、問題はないですわ?」
「…………ねえ、地面肉ってさ。実は相当やばい代物だったりするわけ?」
「さあ。大丈夫なら大丈夫なんでしょう。私、あれを食べようという人間には初めてでしたし」
すごく不穏な発言をされている。
でもね、だってあの時は他に食べるものもなかったし。
詳しく聞こうとしてもはぐらかされるばかりなので、ぼくは諦めた。
諦めて、肉を齧った。
……。
何だろう、地面肉よりずいぶん柔らかい。
噛めば噛むほど味……はしてこないけど、べろの所々に、地面肉とは違う刺激が回ってくる。
何故だろう、よく分からないけど――とにかく、ぼくは一心不乱にそれをかんでいた。
「うぃ、お気に召したようで何よりですわ?」
「……いや、味はしないんだけど」
「そうであっても、地面の肉よりは栄養豊富ですわ。一食で補える栄養素も圧倒的に違いがありますの。もっとも私は必要ではありませんが」
そういうものなのだろうか。
飲み込んで、もう一回噛み千切って、そしてエウレカに聞いた。
「というか、これから何をするわけ?」
エウレカは、普通に返した。
「建築ですわ」
※
階段を手押し車で移動するのは、ちょっと大変だった。
後ろから下る形で、でも荷物が落ちないように、自分が足をすべらせないように、という動作で、何度も荷物を運ぶのは、結構な作業だった。ラスシャイターンのあった場所から移動するのに、半日以上はかかった(時間計測はエウレカ調べ)。
結局探索も含めて、安全地帯に帰るまで一日くらいはかかってしまったらしい。
途中で例の間欠泉もどき、エウレカ曰くオアシスを発見して水補給したり、デッドウォーカーたちに追われていたのをオアシス近くに誘導して足止めしたり(どうも彼らは水場が苦手らしい)。
流石に眠いので、一晩寝てから建築という話になった。
そう、建築だ。
「で、何、どうやって作るっていうの? というか何をつくるの?」
「お家に決まっていますわ? とりあえず、ここから探索を開始するとだいぶ時間をとられますし、もっと色々と、境界面やモンスターたちの跋扈する近くにこれを立てれば問題ありませんの」
「いや、危ないじゃん」
「ところが、実はそうでもありませんわ? さあ、やりますわよ!」
目が覚めると、エウレカは妙にはりきっていた。
なんでこんなに元気なんだろうか。微妙に不安にかられる。
「図案とかは引かないの?」
「これでも私、昔は自前で家を建てたことがありましたの」
それはそれは。
「拠点を発見してからとなりますが、さて、ではどこに致しましょう」
とりあえず、二人で地図をにらめっこ。
拳が三つ並んでいるような地図は、エウレカによって少し脚色がなされて、多少まともな陸地みたいな形になった。
ちょっと細長いジャガイモを連結させたみたいな形状なのは余談だ。
「昨日行ったラスシャイターンがこの、北側で――」
エウレカが、凸と凸の間みたいな場所(Yの字の上のVの真ん中と言えば良いか)を指差した。そこから指でなぞり、右側のところに持っていく。
「おそらく、こういう配置で激突していたのだと思いますの」
「ふぅん……」
「大陸移動の際、ここの部分に入る陸地は、割合、モンスターが少ないのですわ?」
「どうして?」
「狭いからですわ? もっと言えば、資源が少なくて餓死率が高いということです」
「ずいぶん滅茶苦茶な理由だなぁ……」
「ボアもデッドウォーカーを食べられなくなれば死にますし、“悪魔”たちも、好き好んで狭い大地に住みはしませんし」
「……ん、悪魔?」
「ストーンワイズたちも、流されやすい土地なので定住はしませんし、まあ、そういう理由ですわ」
いや、なんだか新しい単語が出てきて逆に訳分からないんだけど。
悪魔? いや、地獄めいたところではあると思うけど、悪魔?
いるの、本当にそんなのが。
エウレカに聞いても、彼女は何故かそのことだけは無視していた。
それが逆に、何かこう、恐ろしいものを感じさせる。……とりあえず、警戒はしておこう。
「じゃあ、どこに行くべきだと思う?」
「陸地関係だと、高いほうが良いですわ? ラスシャイターンのあれは、ちょっと特殊な理由からですし」
おそらく、あの、下の方に扉とかがあったというアレのことだろう。
確かにそう考えると、大陸上陸を前提とすると、高い立地の方が色々と面倒がないのかもしれない。……帰りはどうするんだろうという、そこはかとない謎は出てくるけど。
「あら、言ってませんでしたっけ。私、飛びますわよ?」
「……へ?」
「あんまり長時間飛べはしませんが、変身する形態にそういうものがありますし。ただ、上陸前に全体を俯瞰できるのなら、そちらの方が色々不都合もないかと思いまして」
「なるほど……」
ぼくの「安全から飛んでいけば良いんじゃ?」という疑問を、先回りして封殺された。
まあ魔力とかも消費するとか言っていたし、ひょっとすると結構疲れるのかもしれない、変身は。
「とすると、場所としては――」エウレカが、Vの又の中央より、少しだけ東側に点を打った。「――この位置あたりが、妥当だと思いますわ?」
「ここって、結構高いの?」
「ラスシャイターンの立地ほどではありませんが、それなりですわ?」
「ふぅん……」
というような流れで、今日はそこに向かうこととなった。
ちなみに変身にかかる魔力は、どこぞのメイドテレポーターが疲弊するくらいの魔力量です。常人なら意識が飛びます。




