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三十日目:発掘



 ラスシャイターン。

 少なからず、かつてこの場所には多くのヒトが暮らしていたらしい。

 大きさはよくわからないけど、少なからず例の安全地帯よりは広いだろう。

 おまけに、一つの小さな街のように、ある程度の建築学に基づいた建物が建てられていた。

 はじめてみるような人工物の数々に、ぼくは息を飲む。

 強いて何か問題があるとすれば、材料の関係かほとんどの建物が真っ黒な材質のもので出来ていることだ。真っ黒な材質、といったけれど、これはたぶん、地下帝国に生えている、滅茶苦茶堅いあの木だろう。

 エウレカに確認をとるまでもなく、触ってみてはっきりとした。

「いやー、すごい。加工する技術があったのか、これ……」

 感心してるぼくの隣で、エウレカが周囲を見回しながら言う。

「以前に比べて、ここも小さくされましたわ……」

「……ちょっと待ってほしい。え? もしかして、昔はもっと大きかったの?」

「ええ。島の大きさの関係上、建てられる場所にも限界がありましたが。以前はそこの先の――」

 エウレカが指差す先は、確かに町の一部が抉れてるような形状になっていた。

「――崖の部分に、溶鋼樹(ようこうじゅ)で出来た陸地がありましたの」

「……ようこうじゅ?」

「そこにある、黒い木の正式名称ですわ。そこから先に続いて谷になったり山になったりしていて、延々と連結させて大きな都市になっていたのですわ」

「光景が想像できないよ……」

「うぃ!」

「なんでエウレカが胸張るのさ……」

 両手を腰に当て、得意げに威張るようなポーズをする彼女は、なんというか見ていて癒されるものがあった。こういうところ、どことなくスライムの時のエウレカを思い起こさせる。

 しかし、ここの大きさだけなら強いて言っても村が良いところだけれど――そうか。もっと大きかったのか。

 よく見れば、エウレカの指し示した先に、ここのような感じのものが見えるような、見えないような……。彼女の言葉を信じるのなら、丁度、橋が落ちてしまったような状態なのだろう。

 そんなことを考えていたら、エウレカがぼくの手を引いて、一つの建物の扉の前に来た。

 大きさ的に、小さな民家といった印象だ。

「ふう。まだ大丈夫そうですわね」

「……何?」

「リンドさん、一緒に体当たりしますことよ?」

 なんで?

 とは思ったけど、「鍵が掛かっていて入れませんの」と言うエウレカ。何か考えがあるのかもしれない。

 もしかしたら、以前彼女がここに住んでいたりしたとかかん? そして、長い間で鍵を紛失してしまって入れないとか。

 体当たりは、何度か繰り返した。

 確かに一人だけでは開かなそうなくらいには頑丈な扉だった。

 でも、ぶつかっているうちに裏側で「ぎしぎし」ときしむような音が聞こえて、最後には金属が割れたような音が響いて、扉は内側に開いた。

「いてて……。あ、鍵は鉄製みたいだな……」

 たぶん老朽化していたんだろう。いや、そこのところよく分からないけど、他に理由があるのかは知らない。

「ほら、行きますわよ?」

 一足先に立ち上がり、片手を差し伸べるエウレカ。

 それにつかまりながら、なんとなくぼくは聞いた。

「それで、何をするわけ?」

 それに対するエウレカの回答は、

「決まっています。――家捜しですわ!」

 得意げな顔で言う、盗賊宣言だった。





「み、見つかりませんわー……」

 死んだ人間――しかも、死んでから百年近く経っている人間に対して、盗賊は成立しないし、なにより今は生き残ることを優先しなければならない。

 エウレカはそう言って、積極的に家の中にあるものを荒していった。

 ……いや、確かにそうなんだけどさ。言ってることは理屈として間違ってはいないだろうさ。

 でもね。

「もう、邪魔ですわねッ!」

 多少容赦しようよ。

 死体蹴り……というよりも、骨蹴り? を嬉々として行う彼女に、なんだか嫌な感じがする。

「ほら、頭の骨を蹴っぽったりするんじゃありませんっ」

「うぃ!?」

 軽くエウレカにデコピンした。

 なんだろう、閉じた目と眉が寄って、目元のあたりが「×」みたいな感じになって可愛い。

 って、そうじゃなくて。

「何で死者に対してそういう扱いをするかなぁ……。もうちょっと丁寧にあつかおうよ」

「何か問題がありまして?」

 なんでそこ、心底不思議そうな顔で聞いてくるかなぁ。

「……別に、デッドウォーカーだっけ? たちみたいに、襲い掛かってこないんだから。資源剥ぎくらいは必要があればするだろうけど、それでもわざわざ、鞭打つような扱いはしなくても――」

「あら、おかしなこと言いますのねリンドさん」

 エウレカは、ふふっと微笑んだ。


「死んだら、ただのモノ、ですわよ?」


 エウレカは、ぼくに一歩歩み寄る。

 上目遣いにこちらをのぞく瞳は、いつものエウレカのそれであり――何故か、少し怖いものに感じた。

「滅ぶ時は滅びる。やがては朽ちて、風に舞う土くれですわ。そこら辺に落ちている布切れや、道端に転がっている地面の破片と、何ら変わりありませんこと?」

「……それでも、お願い。少し気分が悪いから」

「何故ですの?」

「なんでも。だから、頼むよ、本当に」

 出来る限り微笑んで諭そうと思ったけど、今、ぼくはきちんと笑えている自信はない。

 内心、ちょっと動揺しているところがある。

「は、はぁ……。判りましたわ」

 ぼくの言葉に一応納得してくれたのか、エウレカは白骨に手をやり、どけるくらいはしてくれるようになった。

 木でできているだろうクローゼット(驚いたことに、これは例の黒い木ではない)の扉を「ばーん、ですわ!」とか言いながら、楽しそうにあけるエウレカ。

 その背中を見ながら、ぼくは思った。

 さっきのエウレカの言葉は――誇張なしに、彼女の本心だろう。

 うっかり、失念していたことなのかもしれない。

 エウレカは、人間のようなものであって、『人間ではない』のだ。

 その感性や物の感じ方、考え方は、ぼくとは大きく異なっているのかもしれない。

 その事実が、ぼくには結構、衝撃的だった。

「……ん」

 ーーもしかしたら。

 エウレカと一緒に居るのは、危ないのかもしれない。

 ふとした直感が、頭を過ぎる。何ら経験則に裏打ちされていない直感だけれど――経験則以上の何かが、ぼくの身体の内側で蠢いているのが判る。


 ―― アレ ハ アブナイ ――


 この気持ち悪さを、何と表現したら良いだろうか。

 地下帝国で意識を取り戻してから、かなりの時間が経過している。

 その間で、ぼくはエウレカに対して、かなりの信頼と安心感を置いていたのだろう。

 それが、突如として失われるような、そんな感覚を今味わっている。


 でも――愛らしい少女のようなエウレカの姿を見ながら、ぼくは、嘆息した。


「……もともと、エウレカが居なかったら死んでいた身だしな」

 そうだ。初心を思い出してみればいい。

 最初から、ぼくはここに居た段階で死亡が確定していたのだ。

 ストーンワイズに言われるまでもなく、あの時、水不足のまま錯乱して干からびていたに決まっている。その後にデッドウォーカーとして蘇ったとしても、それは、ぼくの意識がない別な何かだろう。決して、ぼくではない。

 ならば、今のぼくが居るのはエウレカのお陰だ。

 だったら、何を恐れる必要があるのだろうか。

「……ただ、多少ぼくの感性とすり合わせたりはした方がいいかもな」

 その呟きが耳に入ったのかは知らないけど、エウレカが不思議そうに振り向いた。

「どうしましたの?」

「……何でもないよ」

 つとめて、笑顔でそう言ったぼく。

 ふと、右手が動く。

 その手は、エウレカの頭の上に、ぽん、と置かれていた。

 驚いた顔のエウレカに、ぼくは、自然と感謝を口にしていた。


「ありがと、エウレカ」

「――っ、うぃ、な、な、何ですの? いきなり……」


 ちょっと顔を赤らめるエウレカ。その頭を、ぼくは軽く撫でた。



価値観の違う生き物には、恐怖を抱くものだと筆者は考えています。同じ人間同士でも同様、それが戦争の引き金になったりもしたり。互いに思いやりがないと、共存は難しいのです。


さて、家捜しするエウレカが探しているものとは・・・?

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