三十日目:遺跡
ろすとわーるど
「……遠いな」
『うぃぃ』
どれくらい時間が経過しただろう。
とにかく長距離を歩いている、ぼくとエウレカ。
あそこの安全地帯からはそれなりに距離が離れている。北の方なのだけど、地図上での位置関係は大きく変わっていた。
エウレカ曰く、どうもここの島々は、あの安全地帯の場所を覗いて日々変動しているらしい。
つまり、ここの島のみ位置が固定されていて、他の島はぐるぐると動いている、ということだそうな。
でも、いくつか島の形状があるので、何枚か地図を描いてそれを繋ぎ合わせる形で現在の島の状態を把握している。
ぼくが探索した島の数は、ここを含めて二つ。
以前、山と谷くらい落差のあった島が、競りあがっていた時に探索したのだった。
結果は……、紙と、衣服くらいしか収拾できたものはなかった。
直後にリビングデッド(デッドウォーカーだっけ?)が現れて、エウレカと必死で逃走したのは言うまでもない。
まぁ、それはおいておいて。
ぴょんぴょん目の前で跳ねるエウレカは、一定の歩幅(?)を保ったまま早歩きくらいの速度で移動していた。よほど燃費が良いのだろうか。
『うぃーうぃうぃ、うぃーうぃうぃ』
「元気だなぁ……。少し休憩させてくれない? ちょっと足痛い」
「わかりましたわ」
いつの間にやら、ヒトの姿に変身するエウレカ。
ぽてん、とその場に腰を下ろす。膝を立てて尻餅をつくような形で座ったため、ふわりと舞ったスカートの下がちょっと見えた。
かぼちゃだった。
「……別に色気を期待してたわけじゃなかったけど」
「何か失礼なことを言われた気がしますわっ」
頬を膨らまして、げし、とぼくのスネを蹴るエウレカだった。
ひざを下ろすと、エウレカの顔が正面に見える。……何だろう、本当にいいところのお嬢様って感じだよな。顔は可愛いし、服は高級そうだし。あと気のせいじゃなければ少し良い臭いがしてるような気も……。
なんにしても、このエウレカの姿は色々な意味でこの地下帝国で場違いな気がする。
ぼくの求めに応じてこういう姿になっているというけど、本当のところはどうなのだろう。
案外本人の趣味……、じゃなくて、性格とかが反映されているんじゃないのかな。
でも改めて思うのは。
「エウレカ」
「何ですの?」
「……何でもない」
「うぃ? 変なリンドさん」
こうして、呼びかけて言葉が返ってくるというのが、何より嬉しかった。
たぶん今、ぼく相当変な笑顔を浮かべてるんだろうな。
苦笑いともつかないエウレカの顔からそう判断して、とりあえず口元だけ手で覆う。
とりあえず、沈黙もなんなので何か会話を振ろう。
「いきなり先行っちゃうからついてきたけど、エウレカは、今どこに向かっているの?」
彼女は両手を腰にあて、ふふん、と笑った。
「ナ・イ・ショ ですわ」
「いや、内緒って……」
「おそらく、見たらリンドさんもびっくりすると思いますの。なので、直前までは隠させていただきますわ」
なんだか妙に得意げなエウレカ。
そんなにびっくりするようなものなのだろうか。
変に機嫌を損ねるのもなんなので、とりあえずぼくは黙ってついていくことにした。
※
……どれくらい歩いたろう
一日くらい経過したんじゃないだろうか。
いや、時々休憩挟んでいるんだけど、そもそも既に未知の陸地を三つまたいでいるというかさ。
これ、今日中に帰ることが出来るのだろうか。……果てしない疑問に襲われるぼくだったけど、エウレカは相変わらずうぃうぃ言うだけだった。
段々とエウレカも、人間の姿に変身するのをやめてきている。どうも変身するのにも多少は力を消費するから、しばらくはスライムの姿で居た方が楽だとのこと。
だけど、半分は違うんじゃないだろうかとぼくは考えている。
あんまり質問されると、ボロが出るってわけじゃないけど、つい口を滑らせてしまうから、本当に直前まで変身しないというのも理由の一つなんじゃないだろうか。
……まぁモンスターが出たとき、逃げるのが多少面倒になるだけだし、それくらいのことだったら甘受しよう。
そう思っていると、エウレカが足を止めた。
『うぃぃぃぃぃ! ここ!』
「ここ?」
『いぇぅ!』
ぽわん、と光ってヒトガタになると、彼女はぼくの手を引いた。
「ここからなら、さほど歩きませんわ?」
ちなみに現在、ぼくらの目の前には巨大な崖みたいな陸地が聳え立っている。
当たり前のように、独特の赤さを持つ地面肉だ。
壁面のように暴力的なまでの質量をもつそれは、圧巻だ。
「おお……、ここを上るの?」
「違いはありませんが、少々違いますわね。……ところで、陸の上部に、何か見えませんこと?」
言われて、意識してその陸地の頂上を注視する。
微妙に光源が鈍いので判り難いけど――どうやら、何かこう、壁のようなものがあるらしい。地面肉ではない、きちんとした人工物のような。
そしてエウレカが足を止めた時、確かにぼくは驚かされた。
「はい、つきました」
「……あれ?」
ぼくの目の前にあったものは――扉。
大きなものではないけど、陸地の崖の途中、突然、ぼくらが通れるくらいの位置に現れたその扉。色は錆びたような銀色のそれは、明らかに地面肉の中において浮いていた。
エウレカはそれに触れると、何らかの魔術を使って扉を開錠した。
「ささ、行きますわよ」
扉の向こうには、ただただ階段が上に向かって伸びていた。真っ黒な石材のようなもので舗装された階段。靴で少したたくと、なにやらコンコンしている。
これ、もしかしてあの黒い木?
後ろ手に扉を閉めると、エウレカは再びぼくの手を引いた。
ゆっくり上っていくぼくら。階段の行き着く先から来るのが鈍い光なので、なんとも距離感を狂わされる。足取りも転ぶと危ないのでゆっくりなため、なおのこと長い距離に感じられた。
「エウレカ、ここってもしかして……?」
「うふふ、リンドさん。地下帝国なんて言っても、何が帝国なのかというのが謎ではありませんでしたか?」
やがて到着したその場所――門のようなものを潜った先は。
「嗚呼――――うん、確かにこれはすごいや」
地下帝国ではじめて見るほど、多くの人工物が密集した町だった。
基本的には例の黒い石材と、地上から持ち込まれたのか灰色の石材とが入り交じっている。建築様式はどこか古く、しかしきちんと柱やら基礎組みらしきものがされていた。
「何で基礎組みとか知ってるんだろ」
相変わらずここに来るまでのぼくについては謎だったけど、いや、でも。
うん、何か壮観。
「驚いていただけましたか?」
「うん、一応。よく分からないけど、すごいって言葉しか出て来ない」
少なくとも結構な時間ここで過ごしたのだから、いかにこの地下帝国の環境が人間にとって悪いものであるかということは、嫌って程理解している。
そんなここで、人間が暮らしていただろう場所が存在するというのが――あまつさえ、大勢のヒトたちで賑わっていただろうコトを想像することが出来る場所があるというのが、ぼくにとってかなりの衝撃だった。
そんなぼくの様子を見て、エウレカはくすくすと笑い、この場所の名前を明かした。
「地下帝国最後の都市――ラスシャイターン」
その声は、どこか懐かしむような――悼むような感情が含まれたものだった。
ようやくラスシャイまできました。
当然のように本編以外でも、エウレカと何かしら話したりしているリンドです。
ただそこまで書くと冗長を通り越して終わる見込みがなくなるので、色々とそこは勘弁を・・・




