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二十九日目:連結

 

 

 あれから二週間ほど過ぎた。

 日にちについてはエウレカがしっかりと時間を計ってくれているらしく、おおよそ何日経過したのかということが明確にわかるようになった。

 そこで一つ判ったことは、ぼくはどうも妙に睡眠時間が長いらしい、ということだ。

 人間の活動時間は寝ている時間より起きている時間の方が長いらしい。そういう知識がある。

 しかし、どうもエウレカの時間計測が正しいと、ぼくは一日にけっこうな時間数寝ているらしい。

 これはどういうことなのだろうか、エウレカに相談してみた。

「流石に半日以上は寝すぎなんじゃないかな……?」

「そうですわね。用足しに一度起きてもよさそうなものですけど」

 あ、そうそう。エウレカはあれから、定期的にスライムの姿に変化する。食事の時とか、用足しの時とか。

 どうやらスライムのそういったのは、何をせずとも大気中に元素として排出されるらしく、恥じらいの強い彼女としては、とうてい人間の姿で長く居られないということでもあるらしかった。

 それはともかく。

「こういうと変かもしれませんが、リンドさんは――病気なのかもしれませんわ」

「どういう病気?」

「生活習慣が乱れている、という病気ですわっ」

 びし、とぼくの額に指を突きつけるエウレカ。「記憶がない、とのことでしたが、リンドさんはもともと地上人でしょう。とすると、まず太陽が昇ってから活動しているのが平常だと思います」

「そりゃそうだろうけど」

「とすると、身体が太陽を基準に動いているので、太陽のないこの場所では、身体が時間を計測する術を持っていないというところでしょう」

 なるほど、それには納得できる部分がある。

 割と最近、ぼくの感覚で一日たったと思ったくらいの時間が、エウレカによる正確な時間合わせによると、だいたい半日よりちょっと多いくらい。要するに、一日というには少なかったのだ。

 そこまでずれが生じていたのか、というのには色々と衝撃だった。

 もっともエウレカに言わせれば、まだまだ序の口というくらいらしいけど。

「ついで、私が現れるまできちんと寝れていなかったというのも原因だと思いますわ」

「それはあるだろうね」

「食事の時間も食生活も、その関係でかなり乱れていたでしょうし……」

 改善しないといけませんわね、とエウレカ。

 えっと、改善とかできるのかな、そもそもこの環境下で。

「……えっと、ちょっと、ごはんにしない?」

「むぅ、わかりましたわっ」

 何故かむくれてそっぽを向いたエウレカ。ぽん、と音と光をたててスライムの姿に戻った。

「な、何?」

『うぃぃっ』

 何か機嫌をそこねるようなことを言っただろうか。

 別に、露骨に話題を変えたわけじゃなかったんだけど……。

 甚だ疑問だったけど、とりあえずエウレカの口に水を入れてあげ、ぼくはぼくで地面肉をいつものように調理して食べた。

 ものすごく謎なのだけど、スライムの状態で食事をとった場合、その後に人間の姿に変身しても、一切お腹も減らないし問題ないとのことだ。

 やっぱりこの娘、人間ではないのだろうなぁと思う一方で、それでも食事とらないでどうして身体が持つんだろうという疑問もわいてくる。

 ま、そこは追々聞いたりしよう。

 食事が終わると、彼女は再び人間の姿になった。

「……いちいちスライムの姿になって、面倒じゃない?」とりあえず、疑問一つ。

「燃費が良いのですわ。スライムの姿で食事しておなか一杯になった後、人間の姿にもどれば状態はそのまま引き継がれますの」

「何度目かの説明ありがと。……まあ、またよく分からない理屈だけど……。食べなくて平気なら、まぁいいか」

「……むしろどうして、そんなものを食べてリンドさんは平気なんですの?」

 何だろう、その言い方。少し引っかかるなぁ……。まぁ確かに衛生的にはどうかという問題はあるけど、今のところお腹も大きく壊しては居ないし、大丈夫だ。

「いえ、そういうことではなく……。もっと味覚的な……っ! リンドさん、少し舌を出してもらってもよろしいです?」

「へ? まぁ、別に良いけど」

 何だろう、以前べろちゅーされたことがあるからか、少し微妙な心境になる。

 でもエウレカの顔は真剣そのもので、ぼくはそういった雑念を振り払うことを意識した。

 んべ、っと突き出したべろを見て、エウレカは涙を……、へ?

 エウレカ、なんで泣いてるの?

「い、いえ……、その……、う、うぃぃ……」

「何、何かそんなに酷いものでもあった?」

「…………み、見れなくて、リンドさんが確認できなくて幸いですわ」

「ねぇ、本当に何があったわけ、ぼくの舌」

「……もう一度、出してください」

 エウレカは、ためらいがちにぼくの舌の表面を、指先でなぜた。

 なんとなくくすぐったい。と同時に、ある種の違和感を感じる。ざらついている表面とは別に、もっと大きなざらつきというか、隙間のような感覚があるというか。

 あるいは、所々でエウレカの指先の感覚を感じ取れないというか。

「……少し、分かりました?」

「……あんまり愉快そうな状態じゃないってことくらいは」

「うぃぃ。端的に言って――焼かれて、傷つけられてますわ」

 お、おう、それはまた……。

「斬ろうとでもしたのか、ざっくり抉られているところもあれば、肉の表面がぐずぐずに無理やり固まっているみたいな箇所もあったり……、あと何より、色が……」

「あー、うん、具体的なことは言わないで。苦手ってわけじゃないけど、積極的に聞きたくない」

「そうするのが賢明だと思いますわ」

 いや、いやいやいや。

 え、いや、ちょっとそれは……。

 改めて意識して、舌先で自分のベロの腹をなぜる。

 ……って、あーもう、この段階で既に舌先の感覚が既に半分なくなっているのがわかる。なんだかこう、いらないノリみたいなのがこびりついているというか、味のしない樹液がへばりついているというか、上手く説明できないけど……。

 エウレカは、呆然とする僕の手をとって、指先を見る。

 黒々とした指先を、哀しそうな目で見て一回頷いた。

「……そうですわね。過去()欠損よりも、今の健康ですわ」

 そう言うと、彼女はスライムの姿に変化した。

 なんでまた、と思っていると、少しぼくから離れて、ぴょんぴょん跳ねる。


『うぃっと、いっち、いっち』


 どうやら、ついて来いということらしい。


明確には言及していませんが、リンドの身体状況とエウレカの言葉からある事実が照らし出せます。

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