十五日目:対話
「元は人間……のようなものでしたの」
良い所の出のような口調で、少女は雄弁に話し出した。
「それが、色々ありまして。具体的には“岩石の賢人”たちを庇った際、軽く呪いを受けてしまいまして。解呪にだいぶかかってしまいましたわ」
肉の大地の上。ぼくの真正面に座るこの少女、もといエウレカは、何が恥ずかしいのか照れたように話を続けた。
「幸運にも、今回は元素と魔力が溢れていましたから何とかなりましたわ」
「……えっと、ごめん。わけがわからない」
とりあえず率直に、ぼくは現状について質問した。「何でエウレカが、いやエウレカはスライムで、マグマスライムで、それがお嬢様で、ストーンワイズたちが、お姫様で、光って、というかちゅーって、」
「あの、申し訳ございませんわ。とりあえず落ち着いてください」
膝を付いて頭を下げ、謝りだすエウレカだった。
「私は……、先ほども言いましたとおり、もとは人間のようなものだったのです。そして“地底の女王”共々、この地でそれなりに長く暮らしていました」
「……スライムではなかったってことで、大丈夫?」
「ええ」
「……で、だいぶ長生きしてると」
「誰がおばあちゃんですかッ!」
怒りどころがよくわからないエウレカだった。
というよりも、既にぼくらの会話そのものが色々とわけがわからなかった。
とにかく、この女の子……、ぼくより少し下くらいと思われるこの子は、あのエウレカであると。
いいだろう、そこは納得してやる。本人の自己申告とあの姿から考えて、そこは認めてやってもいいかもしれない。
だったらばだ。
「何で今になって、そんな姿になったの?」
「……簡単に言えば、呪いを解いたのですわ」
「そう、それ。どうやって呪いを解いたの? さっき魔力と元素がどうのって言ってたけど」
ぼくのその言葉に、不思議そうに頭を傾げるエウレカ。「え、だってリンドさん、さっきあんなに得意そうに魔法を――」
エウレカの言葉を聞いた瞬間、ぼくの頭の中は弾けた。
「あ、気付かれましたか?」
「……はい?」
ぼくの目の前には、上下逆さまになった少女の顔があった。
いや、というかエウレカの顔だった。
ん、何だろうこの視界。そして頭の後ろがなんだかふかふかとした柔らかさがあって――。
「って、あ、膝枕?」
「ええ。そのまま転がしておくのも忍びなかったですし。スライム姿で枕代わりでも良かったのですけど、気を抜くと元素溶解液を吐き出してしまいそうで」
やっぱり吐くのか、それ。
「冗談ですわ」
くすくすと笑うエウレカの顔が、なんだか気恥ずかしい。
とりあえず、いつまでも膝枕してもらってるのも悪いので起き上がることにした。
「えっと……、どうしてぼく、エウレカに膝枕してもらってたの?」
ぼくの言葉に、エウレカは真顔になった。そして、ぼくの髪を掻き分け額を露出させた。
驚いて身じろぎしようとすると「動かないで」と真剣な顔で言われたので、なんとなく恥ずかしいのを我慢することにした。
エウレカは、唇あたりに指をあてて思案する。
「……『精神封印』を受けているわけでもありませんわね。いえ、他の封印はかけられているみたいですけど」
「?」
「リンドさん、元素を集めたり出来ますか?」
言われるがままに、魔力を用いて元素を集める。とりあえず火の元素。
やっぱり何か、こう、網にでもかけられているかのように、上手くつかめない感じがする。
すると、エウレカも同様に元素を集めたらしい。ぼくのと違い、既に火が彼女の指先で点火していた。
「『燃える』性質は持たせませんので、大丈夫ですわ」
そう言いつつ、彼女はぼくの両腕のあたりにその火を近づけた。
輪郭は見えるもののどこか薄暗い地下帝国の中において、その光は普通に少しまぶしい。
でも、彼女はそれを使ってぼくの手首と甲を照らし出した。
「分かりますか?」
そこには、刺青のようなものが浮かび上がっていた。
簡素な線で書かれたスペードと、クラブのような文様。
それらを見た瞬間、一瞬だけまた頭痛が走った。
エウレカが、反対側の手でぼくの額を撫でる。
「大丈夫ですの?」
「……うん、まぁ」
とりあえず強がっておくことにした。
それでも、ひんやりと冷たいその手によってか、少し落ち着いた気がした。
頭痛のお陰かは知らないけど、ぼくはその両手の痣についての知識が頭に浮かんだ。
「……『魔力制限』と『発動制限』」
暗がりで見えなかったそれらは、つまり魔法の発動を制限する封印術式だ。
左手のスペードは、発動できる魔法の制限。
右手のクラブは、魔力構成そのものの制限。
魔法の発動阻害と、元素集めの阻害の両方がぼくにはかけられていた。
「これは、どういうことだろう?」
「わかりませんわ。ただ少なくともリンドさん。あなたは――かなりの悪意のもとに、この場所へ送り込まれたのだと思いますわ」
エウレカのその宣告は、軽くぼくの心を打ち砕くのに充分なものだった。
別作品の番外編にて、どこぞのメイドテレポーターが使った封印術はこれの片方です。




