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十四日目:変貌

 

 

 目が覚めると、ぼくの目の前には少女の顔があった。

 ……はっ?

「ここは……」

 とりあえず起きて、周囲を見回す。

 見回すまでもなかった。いつもの、塔の下だった。もはや生活圏として定着しつつあるこの安全地帯だった。

 だというのに、頭上に真っ黒な傘みたいな、屋根みたいな何かがあるというのはどういうことだろう。視線を落としてみれば、ぼくと少女の足元に柱らしきものがあり、それが伸びて……というか、えーっと、うん。

 これ、大きな芽だ。

 色が真っ黒だからもしやと思って叩いてみると、案の定こんこんといい音。

 感触は例の木とかと同じようだ。

 巨大な、巨大な芽の葉っぱの下で、ぼくと彼女は寝ていたようだ。

 そしてよく見ると、葉っぱの端っこからぽたぽたと少し水が垂れている。

 本当に屋根代わりみたいな使われ方をしていたのかもしれない。

 って、いやそうじゃなくて。

「すぅ……、すぅ……」

 小さな寝息をたてる少女。

 可愛らしい顔立ち。

 黒っぽいツインテール(ツインポニー?)を頭に垂らし、その根元は大きなリボンが羽飾りのようになっている。

 服装は、胸元とか足の根元とか所々露出しているけど、全体的にフリフリ。いいところのお嬢様っぽさのある雰囲気だ。

 ……露出度がある段階でいいところのお嬢様ではないと思うんだけど、まぁ顔とかの雰囲気だけならそうだろう。

 えーっと。

「幻覚でも見てるのかな?」

 と思いはしたけど、そこを問いただすと現在いる地下帝国そのものの実在を疑わなきゃいけなくなりそうだったので、とりあえず保留しておくことにした。

 すると。

 ふわわ、と言いながら、少女は起き上がる。

「ぬあぁ……。うぃ? あら、お目覚めになられましたか」

「え、えっと……」

 あー、うん、口調もお嬢様っぽいそれだ。

 あと、声がだいぶ可愛い。

 普通に喋ってるはずなのに、耳元で囁きかけられているような感じだ。

 鳶色の目は光もうすいのに爛々と輝いているような錯覚を覚える。というか目が大きいから、光の入る量が多いのか。

 少しフクロウとかも連想したけど、それだと色が違うからどちらかというと大型の鳥類をみたいな感じと言えばいいか。

 少し鋭い印象を受けるものの、それでもやわらかな雰囲気だった。

「あの……、じっと見つめられると、困ってしまいますわ」

「へ? あ、すみません、すみません!」

 ついつい彼女をじっと見つめていたぼくだったが、流石に不躾だ。

 思わず平謝りすると、彼女は困ったように微笑んだ。

 地下帝国で初めてぼく以外の人間を見たためか、思わずガン見してしまったようだ。

「そこまで慌てるほどのことでもございませんよ」

 何と言うか、所作の一つ一つが優雅だった。

 おおよそこんな地獄めいた場所に似つかわしくない相手のように思えた。

「って、いうか、あの、どちら様でしょうか? 貴女」

「うぃ?」

 頭を傾げる彼女の様子に、ぼくは何とも言えない既視感を覚える。

 この反応、どこかで……?

「あ、そうですわ。貴方、お名前は何というのですの?」

「へ? ああ、リンドといいます。リンド・ターナー」

 あと唐突に質問されたものだから、つい反射的に答えてしまった。

 それを聞いた彼女は「リンド……、リンドさんですか……」と、なんだか嬉しそうにぶつぶつ何か呟いていた。

 と、そう考えていたときだ。

「……ッ!」

 気付いた。

 エウレカが居ない。

「どうかされました?」

「……あの、すみません、このくらいの大きさのマグマスライムを見ませんでしたか? うぃうぃ言ってて、ぴょんぴょん跳ねて、人語を解して無駄に愛くるしいやつなんですけど」

「愛くるしい……」

 何故か頬を赤らめる彼女。

 だが、そんなこと構っていられない。

 周辺を見回して、どこにもエウレカの姿が確認できない。

 迷わずぼくは、その場から駆け出そうと――。

「お、お待ちになって!」

 ぼくの両足にタックルして抱きついてきた少女。

 なんだかフリルだけではない柔らかさを両足に感じるけど、そんなのは置いておく。今はまずエウレカだ。

 あの後どうなったのかは全然知らないけど――少なくとも、あの場にエウレカが居たのだとすれば、無事ではすまないだろう。

 一刻も早く助けにいかなくては。

 もしかしたら手遅れかもしれないけど……、そうでない可能性にかける他ない。

「……何をするんです。俺は今、急いでるんです!」

「いえ、待ってもらいます。今それどころでないと思っていらっしゃるかもしれませんが、おおかた見当違いですわ」

「……たぶん、俺を助けてくれたのが貴女なんでしょうけど、それにはお礼を言いますけど。それでも、止めないで下さい!」

「いえ、まず落ち着いて話を――」

「大切な、仲間なんです! 記憶にある中ではじめて出来た友達なんです! だから――」

「う、ういいいい、うれしいこと言ってくださってますが、もう、面倒ですわッ!」

 ふっと。

 あまりにも自然な動作で、彼女はぼくの唇を奪った。

「――ッ! な、なにするんで……、す……、か……」

 虚をつかれ、驚いて彼女を突き飛ばしたぼくだったけど。

 目の前に居たのは。

『うぃ……』

 ぼよん、と地面で一跳ねして転がり、「いてて……」とでもいうような表情をしているエウレカだった。

 ……へ?

「は?」

 口元を確かめると、以前エウレカに水を飲まされたときみたいに湿っていた。


 呆然とするぼくの目の前で、エウレカが四色の光に包まれる。

 一瞬だけ輝いたかと思うと、そこにはさっきの少女が座っていた。

「……お尻が痛いですわ」

 その姿を見て、ぼくは。

「……へ、幻?」

 我ながら、何意味の分からないこと口走ってるんだと思わなくもない。

 そんなぼくの困惑を見て、彼女はくすくすと笑った。

「では、改めて――」

 彼女はその場で立ち上がり、片足を半歩引く。

 頭を少し下げ、スカートの両端をつまみ。


「エウレカですわ――リンドさん」


 可愛らしく微笑む彼女の顔を見て、ぼくは、誰か納得のいく説明をしてくれと思った。

 

 

割とよくある超展開だと思います。

これでようやく、初期イベントは九割終了です。(正転編はまだまだ続きますが)


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