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一日目:半覚

 

 

挿絵(By みてみん)

 

 

「……おはようございます」

 そう呟いて、ぼくは目を覚ました。


 目を覚ました途端、ちょうどその時、ぼくの頭の上に熱の塊が降ってきた。


「……ッ!?」

 思わず、顔が笑顔で固まるぼく。

 え、何? 一体何がどうした?

 暗い空を見上げながら、思わずそう思う。

 だけれど、そんなこと考えている場合じゃないみたいだ。

 遠方に流れる滝みたいな何か……、赤というか黄色というか、熱を含んでいそうに発光している滝から飛び散った液体状の何かが、こちらに向かって降り注いでくるのだ。

「ひっ……、ひぃッ!」

 変な声が口からもれる。

 かまわず、ぼくは立ち上がった。

 とにかく、ぼくはその場から逃走する。

 なんかぶよぶよしてる地面なんか無視する。

 そりゃもう、全力疾走で走るにきまっている。

 後ろで地面に落ちたそれらは、なんだかじゅーじゅーいっていてとても振り返って確認なんてできるような状況ではないけれど。

 それでも、ぼくは灼熱の弾丸のようなそれらから、逃げなければならない。

 じゃないと、死ぬ。

 自然の摂理だ。

「ま、マグマとか意味わかんないって――ッ!」

 息を切らしながら、とにかく走る。走る。走る。

 ころんだけど、すぐ立ち上がって走る。

 胸が苦しくて大変なんだけど、それでも走らないといけない。

 やがて、ぼくは陸地のはしっこ、崖のようになっているところにたどり着いた。

 そこまで行って、ようやく飛び跳ねる溶岩から解放された。


 一息ついて、ぼくは座る。息切れしている。空気が足りないのか呼吸の頻度が激しくなるのだけれど、ここら辺りすべての空気は、あまりに生暖かかくて気持ち悪い以外の感想は抱けなかった。

 呼吸が整ったあたりで、ぼくは、崖から下を見下ろした。

「……何だよ、これ」

 眼下の光景は、溶岩のようなもの。

 いや、溶岩だけではない。赤く光るその液体の中に、黒い巨大なシルエットがうねる。どうやら中に、何か巨大な生き物が動いているみたいだった。

 上を見上げる。

 真っ暗な闇色の空だ。

 でも不思議と、視界は大丈夫。たぶんマグマの放つ光のおかげだと思う。

「……ここ、どこだ?」

 当然の疑問なんだけど、当たり前のように、答えてくれる相手は誰も居ない。

 ぼくは、とりあえず持ち物を確認した。

「……これだけ?」

 食べかけの携帯食が一つに、ウィスキーボトルを改造したような水筒が一つ。

 ナプキンみたいな大きい布が二つくらい。

 そして、血みどろのナイフ。

「どうしてこんなものしか持ってないんだよ、ぼく」

 そう言って、思い出そうとしてぼくは気付いた。


「ぼくは――誰だ?」


 リンド・ターナー。

 十九歳、人間の男。

 思い出せるのは、その素姓ばかり。

「……で、本当にここどこだろ」

 覚えのない、まるで地獄みたいな光景。

 御伽噺とかに出てくる地下帝国――地底の女王が支配するとかではないと思う。

 いや、そんなことを検討している段階で、もう相当、ぼくも混乱していた。


 そんな風にぼうっとしていたら、ぼくの顔のすぐ近くを――火の玉がかすった。


「ひ、ひぃッ」

 思わずのけぞった。そのまま手と足でじたばたして、後ろに逃げる。

 火の玉は、その場で止まりこちらを振り返った。そんなことわかりっこないのだけれど、何故かそんな感じがした。

 しばらくこちらを見つめると、やがてどこかへ消えていった。

「……なに、今の?」

 気にしないでおこう。

 気にしだしたら、まずいような気がしてくる。

 というか、見てはいけないものだったという確信が何故かあった。

 とりあえず、もう一度ナイフを取り出した。何故かわからないけど、このナイフを持っていると気分が落ち着く。

 血がはりついたままというのも不恰好だから、水筒から水を垂らして、ナプキンで拭いた。

「水につけっぱなしっていうのも錆びちゃうからいけないけど、血がついたままだと、そもそも切れ味が落ちちゃうし使い物にならなくなるからなぁ……。って、誰に話しているんだか」

 誰も居ないこの状況。

 なんとなくだけど、独り言が多くなるのも仕方ないと思った。

 っていうか、あれ? ぼく、何でナイフの知識とか覚えているんだ?

 そういえば、この原型を留めない水筒も、元がウィスキーボトルだって覚えているわけだし……。

 不思議に思っていると、なにやらヒト? 生物の気配を感じた。


 振り返ると、頭が燃えた男のヒトが立っていた。


『GRURURURURU……』

 うなりごえを上げる男のヒト。

 その顔は、なんだかミンチにでもされたみたいに崩れかけている。

 というか、全身肌の色が白い。服に所々着いている血のあとも、もう黒ずんで大分たっているみたいだ。なんだか見た目で、もう既に死体だった。

 死体なのに歩くとは、これいかに。

 確か、おとぎ話とかだとこういうのを……。

生ける屍(リビングデッド)とか呼んだっけ?」

 その言葉を合図にしたように、そいつは巨大な斧をこちら目掛けて振り下ろした。

 反射的に、ごろごろ転がってかわした。速度はそこまで速くないらしい。

「……って、冷静に判断してるところじゃない、逃げないとッ」

 というわけで、立ち上がりぼくは走り出した。

 走り出すと同時に、さっきのリビングデッドのお仲間みたいなのが、ぞろぞろと現れた。

 足こそ遅いものの、リビングデッドたちはぼくを取り囲もうとしているらしい。

「……あれ、ぼくこのまま死んじゃうんじゃないかな?」


 こうして、ぼくの地獄めいた世界での生活がはじまった。

 いや地獄めいた世界というか、本当にここ、地獄か何かでしょ。



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