十三日目:予兆
『以前は力になれなかった。こちらも急ぎの用事があったものでな』
『だから、今回は同行しよう』
『不運にも落とされし者よ』
『我等が叡智を貸し与えよう』
「あ、ありがとうございます」
『うぃぃ?』
何故かストーンワイズたちが同行することになった。
全員ではない。ストーンワイズたちのうち、比較的傷の浅いものたちが一緒についてきてくれることとなった。
どうしてこうなった、と思わなくもないけど、向こうは好意でやってくれるみたいだし、お言葉に甘えることにする。
とりあえずぼくは、一旦よく寝ているあの場所まで引き返すことにした。逆さまの塔が建っているあそこだ。今日も相変わらず、しんと静まり返っている。
ぼくの背後で、ストーンワイズの一人 (?)がつぶやいた。
『楔。確かに、ここが一番安全か』
「くさび? って、えっと……」
『多くは語れぬ身だが、少しだけなら話せる。
あれは、“太陽と月”を封じ、“地底の女王”をこの世界に縛り付けるものの一つだ』
「……へ?」
思わず空を見上げる。
地上に建っていたらかなり高い塔であろうそれは、こちらから見上げても果てしないくらい高い。
高いうえ、遠い。遠近感を狂わせられる。天球に一切遮るものがないためか、妙に距離感がつかめなかった。
『あれは、女王にとっては忌むべきものであろうな』
『しかし、かの竜にとっては文字通りの劇薬、毒に他なるまい』
『そして、この地下帝国のモンスターたちにも同じことが言える』
「……みなさんは、モンスターじゃないんですね」
『嗚呼、そうだな。古い定義で言えば「人造巨人」に近い存在だと言えるかもしれない』
残念ながら、その違いがぼくにはよく分からなかった。
いや、でも違いはあるか。モンスターは、自然界に溢れる元素を多く取り込んだ生物なんだし、そう考えれば岩で構成された彼らを、モンスターと言うのは少し違うか。
と思っていたら、少し引っかかりを覚えた。
「……ん、エウレカ? そういえばお前はどうなんだ」
『うぃぃ?』
不思議そうに、下から見上げてくるエウレカ。
考えてみればエウレカも、マグマスライムというれっきとしたモンスターだった。
彼らの話が正しければ、そもそもここにはモンスターが近寄れないらしい。原理は全然分からないけど、実際こちらもそれを体感しているので、今更異論はない。
そうならば、だ。
おかしい。
エウレカがここに来るのを嫌がらず、なおかつ痛手を負っていないとなると……。
そう思っていたら、衝撃的なことが起こった。
『うぃぃ……、ぁう、ちぁう』
「……はっ?」
え?
ちがう?
違うって今言った?
途端、頭が真っ白になった。
そんなぼくとは違い、ストーンワイズたちは『うぅむ』とか意味ありそうな相槌だ。
『そうか、まだ“姫”の封印も完全に解けてはいないのか』『残念』『無念』
「……封印?」
質問できるくらいには、思考が多少回復した。
ストーンワイズたちは、重々しげに言う。まるで何か後悔でもしているかのように。
『うぅむ。彼女に対して、我々は力になれないのだ』
「どういうことですか?」
『元はと言えば、我々をかばって彼女は今の姿になったのだ』
「……?」
理解が追いつかない。
ストーンワイズたちは、なにやら話し合っている。どう説明したらぼくに分かりやすいかというのを考えてるみたいだったけど、少し待って出た答えが、
『そのうち分かる』
だったあたりからして、やはり彼らは色々駄目だと思う。
賢いのかもしれないけど、全然生かしきれていなかった。
そんなぼくの考えが表情から伝わったのか、途端に焦ったようにわたわたする(わたわた跳ねる)ストーンワイズたち。
『めんめ』
「まぁ、そうだね」
たぶん「駄目だね」っていったんだろうと思う。
慌てたストーンワイズは、こちらに近寄ってきて言った。
『な、ならば! 何か欲している知識があれば、我々なりに対応しようぞ!』
「いや、そんなに切羽詰らなくても……」
なんか、やけ起したみたいなノリになっている。
見た目のごつごつしさに反して、意外と心とかは弱いのかもしれない。
「……んじゃあ、とりあえず地形についてなんですけど――」
こうしてストーンワイズから聞いた話は、さっきとは真逆なほどにためになるものだった。
まず、この肉で出来た陸地について。
どうやらここは、海みたいに流れるマグマの上に浮かんでいて、漂っているらしい。
周期は分からないけど、一定期間ごとに地形の形が変わるため、逆さまの塔の位置も毎度毎度あんなきちんとした地面の上にあるわけではないらしい。
また、間欠泉 (?)の周期は、実は長くても七日間おきには発生するらしかった。
「なんでまた七日おき……?」
『あちらとのバランスだ』
「……あちらって何ですか?」
『こちらと反対側のような場所だ。位置としては、そうだな。この地図で言うなら……、はるかに北の方にある』
東西南北がわからない、というと、彼らは地図に魔法をかけた。地面に置けと言われたので置くと、かたかたと地図の方向が変化する。
その地図の、こちらからみて上方向――最初にぼくが目覚めた方向を、ストーンワイズは向いた。
『北にも入り口があり、落とし穴がある。ゆえに貴殿もそこから落ちたのだろう』
「落とし穴……?」
『我々から見て、落とし穴のようなものだということだ』
やっぱりよくわからなかったけど、それでもさっきよりは色々役立つことを教えてくれた。
もしかすると、彼らなりに話が要領を得ないことについては、何かしらの制限でもかかっているのかもしれない。
……ん、制限?
「制限っていえば、そもそも何かをやろうとすると、それに対して停止がかかるってことなんだから……ッ!」
一瞬頭痛が走った。
でも、魔法関係について考えている時ほど酷いものではなかった。
「……何で今、頭痛が走ったんだ?」
頭を押さえながら、地図を見るぼく。
そんなぼくの様子を、エウレカがしたから伺っていた。
『うぃぃ?』
「あー、うん、大丈夫」
『うぃ』
そう言うと、ぴょんと跳ねてぼくの肩に乗ってきた。
特に何をするでもなく乗っかるエウレカ。別に重くもないので振り払ったりはしない。
そんなぼくらを見て、ストーンワイズの一人がつぶやく。
『これならば――解放の日も、遠くないやも知れぬ』
当時のぼくには、その言葉の意味が分からなかった。
果たして何の予兆なのか
そろそろ少し急展開来ます




