十二日目:共生
結構な時間が経過した。
ぼくの体感として、十数日くらいは経っていそうな感じがする。
でも水の量の余裕具合からして、まだそんなに経っていないのかもしれない。
なまじ時間を計る道具も方法も存在しないので、ぼくの体内時計は狂いっぱなしのようだった。
エウレカもエウレカで、毎日決まった時間に寝るというよりは、寝れる時に寝てしまうという生態をしていたので、その時感覚の喪失に拍車をかけていた。
『うぃぃ……』
そういえば、エウレカの食事量は本当に少なかった。
水筒の蓋一杯分くらいの水で、どうも一食分ことたりるらしい。なんとも羨ましいほどの節約(?)っぷりだった。
なのでぼく自身、水の心配は全然していなかったわけなんだけど。
『うぃ!』
立ち止まるエウレカ。しばらくその場で待っていると、地面に亀裂が走り――。
まあこうして、エウレカがちょくちょく間欠泉を発見してくる。
服を引っ張られてつれられた先には、高確率で水が噴出していた。……以前、あれほど苦労していたのは何だったのかというらいに。
ネザーエンパイアへおこしの際は、ぜひぜひマグマスライムを愛玩してください。
誰も来ないとは思うけど、間違いなく一つの教訓として言えるだろう。
あと、元素溶解液についても驚くべき形で解決をみていた。
わざわざ穴を掘って、ここで寝ろと言って、エウレカを寝かせた。……驚いたことに、本当にそこでエウレカは寝ていたのだけど、その際、口から垂れていたよだれ(?)に注目した。
別に穴がよだれで一杯にはなっていなかったものの――どうやら、マグマスライムの体液は元素溶解液とはまた違ったものであるらしい。
翌日、手持ちの布切れを穴の下に敷いて寝かせてみても同様の結果だった。若干泥臭いような気はしたけれど、それだけだ。布は全然溶けていなかった。
「本当ならもうちょっと色々検証してみて、一緒に寝てやりたいところなんだけどなぁ……」
『うぃぃ?』
噴きだした詰めたい水と、瓶に入ってる古い水とを入れ替えながら、ぼくはそう呟く。
毎回就寝する際、どうもエウレカはこちらに飛びついてきたいのか、妙にうずうずしていた。それでも起きたときに飛びつかれていないことからして、しつけの行き届いたスライムだった。
でも、実際エウレカの吐き出しているものが、元素溶解液でないというだけなので、こちらとしてもそれは仕方ない。もしかしたら別な、もっと人体に有害な液体の可能性もあるのだ。あんまり接触しない方が良いだろう。
ならなんでそんなのと一緒に生活してるかと言われそうだけど、もう今更だ。
水の発見能力だけではなく、やっぱり一人で生きている時よりも生活に余裕があった。
むろん、精神的なことがらだ。何もないのに、エウレカの一挙手一投足を見て、ゆたかな心持になる。理屈付けすれば赤ん坊を見ているようなものなのかもしれない。
父性みたいなものが刺激されるのだろう。
あとは、食事に関してあんまり手間がかからないというのが理由の一つかもしれない。
さて、そんなわけで食事だ。
地面をちょっと深く掘り、表面からある程度離れた場所まですすめてから、その場所を掘る。精神的に余裕が出たからか、普通に考えて地面が汚いだろうと判断して、足に踏まれていないと思われる場所を掘ることにしたのだ。
ある程度とったら、つい最近発見した小さい鉄片の上にそれを乗せる。鉄片の下に黒鉄木(とりあえずそう呼んでる)の枝を敷いて、簡易の調理場にする。
そして、ぼくは魔法を使った。
「ラムド・ケリア」
この魔法を思い出したのも、エウレカと一緒に居たからだろう。ふと、エウレカの頭のぐにぐにつっつていた時、エウレカの体温がぼくより低いことに疑問を感じた。そして頭の中の知識を探していたとき、ちょっとの頭痛とともに天啓を得たように、この術を思い出した。
幸い、ネザーエンパイアは「火」の元素が多い。四大元素のうちで、どう考えても圧倒的多数を占める。だから、そんな火の元素を鉄片に集めて、ぼくは鉄片の熱量を上げる。
例の金色の着火装置も、壊れたわけじゃない。
それでもわざわざ魔法を使うのは、ひとえに練習のためだ。
「……う~ん、」
やっぱり、上手く魔法が成立しない。
周囲の元素が集る量が、自分の想定している量の半分にも満たない。
これではいつまで経っても地面肉が食べられるようにならないので、止むを得ず出力をあげることにした。
大体倍くらいになったところで、腰から力が抜けていく。
後ろにぐでっと行くか――と思ったところで、エウレカが背後に回ってぴょっとぶつかり、バランスを取り戻すのを手伝ってくれた。
「ありがと」
『うぃ!』
そんなわけで、肉が焼けた。
相変わらず味はしなかった。
ちなみにエウレカも食べるかな? と思って差し出してみると、あからさまに嫌がっていた。
『久しいな、墜落者よ』
お肉をもちゃもちゃ租借してると、背後からそんな声がかけられた。
この渋い声、どっしんどっしんという移動音。覚えがある。すごく覚えがある。
振り返ると案の定、巨大な顔面を象った岩たちがそこに居た。って――。
「……ど、どうしましたか? みなさん」
『う、うぅむ……』『過労だ』『休みなしだ』『力が持たない』
ストーンワイズたちは、みんなボロボロだった。
所々欠損していた。……穴とかはあいてなかったけど、だいぶ痛々しそうだった。
「って、大丈夫なんですか?」
『仕方なし』
「いや、仕方なしって……」
『我等が同属の骸が葬られているところがある』『そこに行き、調達するほかなし』
「……何を調達するっていうんですか?」
『本当に聞きたいか?』
「あ、いや、やっぱり結構です」
ストーンワイズだから問題ないんだけれど、たぶん人間で考えたらだいぶ血なまぐさそうなことが行われそうな予感があったので、ぼくはあえて聞かなかった。
なんにしても、ストーンワイズたち。
この地下帝国で目をさましたぼくに、多少なりとも知識を与えてくれた岩の賢人たち。
妙に渋い声と、黒々とした外観からなんともいえない威圧かがあるけど、話してみるとなんとなくいい人達(?)な感じがした。
思えば、もうあれから十数日くらい経ってるんだよなぁ……。時間が経つのは早い。
というよりも、あれ、なんでそんな長期間彼らと全く遭遇しなかったんだろう。
そのハナシを聞いて見ると、
『砕けていた』
とのこと。
いや、意味がぜんぜん分からないのですけど……。
困惑するぼくを、エウレカが『うぃ?』と膝の上で見上げていた。
ストーンワイズたちは、そんなエウレカに注目する。
『ほう、“原始の姫”に好かれたか』
『結構結構』
『これはまた珍しい……』
「……えっと、原始の?」
『“原始の姫”。そのマグマスライムのことだ』
エウレカを見ると、きょとんとしていた。そのまま見ているとくてんと転がって、胡坐をかいたぼくの膝上を左右に行ったり来たりしていた。
『“原始の姫”は旅人に力を貸してくれる。以前ならば生き残れる可能性は低かったかもしれないが、極端なほどに生存率が上がったぞ』『喜べ、“墜落者”よ』
「え、そんなに?」
『少なからず、かつて“原始の姫”と共に居たものは、この国で三十年は生きていた』
「それはそれは……」
改めてエウレカを見ても、いまいちそんな実感はわかない。
ただ、確かにエウレカが他のマグマスライムたちと何か違うってうのは納得できるところがあった。妙にヒトに懐いているし、あの後二回くらい間欠泉を発見したときに見たスライムたちより、運動能力が高い(飛び跳ねる高さがちょっと高い)。あと言語も理解している気配があるし、なにより鳴き声がちょっと違う。
そんなことを考えながら、ぼくはストーンワイズたちに質問を続けた。
「“原始の姫”って、どういう意味ですか?」
『かつて我等が怨敵たる邪竜を滅却する際、勇気あるものに力をかしたものだ』
『神秘の与えし加護があったとはいえ、よくやったものだ』
『あやつによく懐いていたものだ』
「あやつって……? えっと、エウレカお前って結構お年寄りなんだなぁ」
『ういいいいッ!?』
ぼくの一言に、突拍子もないほど飛び上がったエウレカ。そのままこっちの顔面に追突してきた。……んー、何、機嫌でも損ねた?
というか、えっと、そういえば今、姫と言ってたか? てことは、エウレカってメスなのかな……? いや、言語がわかるなら女の子というか、女性って言った方がいいのかもしれないけど。
女性ならば、年齢関係の言葉は禁句。
知識として、そのことが何故か強く刻まれていた。
とりあえず顔面から引き剥がし、「ごめんごめん」と言いながら頭をなでる。ご機嫌取りだ。そして、予想していた通りすぐエウレカは懐柔された。
ストーンワイズたちは、そんな僕らを見てほがらかに笑い声を上げた。
『ういぃ#』(ぷんすか# 的な泣き声)




