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七日目:追尾



 荷物の総量が重くなるものの、それでも次にいつこの間欠泉(?)にめぐりあえるかわかったもんじゃないので、使える瓶と水筒に水を補給した。

 どうしてか周囲の温度に比べて妙に冷たいこの水だったけど、そのうち周囲の温度に負けて生ぬるくなることは簡単に予想できた。そう考えると、なかなか日持ちしないというのは大変だ。何か対策を考えないといけないかもしれない。

「魔法使って、温度を一定に保つようにしたり……ッ」

 そして、また思考が弾かれる。

 これは一体どういうことなのだろうか。

 たぶん、ぼく自身の記憶に関わる事柄なんだろうけど、こと魔法関係にいたっては、思い出そうとすると妙に頭痛がする。

 まるで何か、意図的にそういう制限が掛けられているかのような錯覚すら受けるのは、はたしてぼくの気のせいだろうか。

「……考えてもはじまらないか」

 水筒の蓋を締めたあと、底の浅い池で、ばしゃばしゃ顔を洗った。

 でも、こうして見ると何か自分の容姿に違和感がある。

 髪の色は銀髪、くすんだ青色の目に、不健康そうな顔色。両手と両足の爪は黒く変色していて、さっき気付いたのだけど右手の小指の形状が少し反り返っている。

 指については、何か事故にでもあったのだろうかと思いはするけど、顔色とか、髪色は何か変だ。記憶がないからだろうか、水面に映る姿が、本当に自分の姿なのだろうかと疑っている自分が居た。

 当然、頬をつねれば水の中の青年の頬もつねられるわけだし、耳を引っ張れば……って、あれ、耳たぶの形も何か変な気が……。

「……気持ち悪いな」

 一度立ち上がって、ぼくは軽く運動する。腕を振り回したり、足を伸ばしたりたたんだり。

 何と言うべきだろうか。こう、まるで自分の体が自分のものではないような感じすら受ける。

 あたかも、まるで自分の心だけが全く別な入れ物に入れられているという例えができるような……。出来の悪い蝋人形を動かしているというべきかな。そんな感じだ。

 でも、当然指を切れば血が出てくるし、意識しなければ何も問題がないくらいの話でもある。

 たぶん、自分の中にある肉体のイメージと、実際のぼくの肉体のイメージがつりあっていないのだ。そしてそれは、たぶん記憶を失っているというのが理由だろう。

「とりあえず、まずは想像するところからはじめるか」

 だからこそ、ぼくは今一度、さっき見た映像を頭の中で再構成する。

 ぼんやりとうかぶ自分の全身像を思い浮かべながら、自分の体を動かす。

「おいっしょ、どっこいしょ」

 自分のイメージと肉体の操作感覚をすりあわせる作業をしているぼく。

 そんなぼくを、周囲でマグマスライムたちが不思議そうに見上げていた。




『Wii!』『Wiiii!?』

 水の吹き出しが止まると、池は結構早く干上がった。

 半日もかからず、だからといってあっという間でもなく。

 やっぱり先に水を保存しておいて正解だった。なんとも暑いここに気候だと、池が維持できる時間も少ないということだろう。

 驚いて周囲をきょろきょろしているマグマスライムたちだったけど、彼らはだんだんと、間欠泉の噴きだした穴に自分の体を変形させて沈みこんでいた。……あとどうでもいいことだけど、この場に居たマグマスライム、みんなコア持ちだった。そのコア持ちたちが、『どけよ』『お前邪魔』とかみたいな感じの声を出しながら、我先にと穴に潜る姿は、なんとも言えないものがあった。

 そんな彼らから目をそらして、ぼくはため息一つ。

「さて、ぼくもどうしたものかな……」

 とりあえず急場の水を確保することはできたけど、それだっていつまで持つかは分からない。

 間欠泉の上手な見つけ方とかを考えないと、今日と同じようなトラブルで今度こそ死ぬだろう。

 それだけは、ぜひとも避けたいところだ。というか絶対に死にたくないところだ。

 水を手に入れ、食料(?)も手に入れて、ぼくが感じたことが一つ。

 とにかく、生きたい。

 目標とかじゃなくて、そんな欲求がぼくの底から出てきていたのだ。

 それは、何とも不思議な感覚だった。当たり前のように生きたいと思える自分のその心の動きに、正直戸惑うくらいだ。消極的に、とにかく逃げていた時は全然反れどころじゃなかったというのもあるかもしれないけど、半飢餓と飲尿はそれだけ、ぼくに堪えることだったのかもしれない。

 そんなことを考えていると、スライムたちの一団の中から、一匹のスライムがぼくの足元に跳ねてきた。

『うぃぃ?』

 ぼくを見上げるその声は、ぼくをこの場に導いてきたマグマスライムのものだった。

「あー、ありがとなさっきは」

『うぃぃ……』

 ごくごく自然な感じで、ぼくはその小さな命の恩人(?)を撫でていた。それが気持ちいのか、光る目を細めるスライム。

 せめてものお礼とばかりに、水筒の水を少しかけてやる。一瞬びっくりしたようにぴょんと跳ねたけど、スライムは地面に零れた水を舐めて嬉しそうだった。

「本当にありがとう。君が居なかったら、普通に野垂れ死んでたと思う」

『うぃぃ!』

 びょん、と一回跳ねたスライムの動きは、なんだかやっぱり誇らしそうだ。

 本当にこちらの言ってる言葉を理解していそうな気配すらある。

 しかも、なんとも言えない可愛さも併せ持っていた。

 なるほど、古い文献とかでは「コア持ちのスライムを飼っていた時代がある」と言われるだけのことはあるかもしれない。端的に言って、かなり癒される。

 そのスライムを抱きかかえ、頭をもう一度なでてやった。

 そして、地面に下ろす。

「じゃあ、もうぼくは行くよ」

 この後、こいつも他のマグマスライムたちと同じように、間欠泉の奥へ向かうことだろう。

 そうなるなら、ぼくはその先に行けないのでお別れということになる。

『うぃぃ?』

 体を少し斜めらせるスライム。

 まるで疑問符でも浮かべているような仕草だ。

 そんなスライムに背を向けて、ぼくは塔の下を再び目指す。

「やっぱり言ってることは通じないよなぁ……」

 少し名残惜しい、というより寂しい感じがしたのだけれど、これ以上ここに居ても収穫はなさそうだ。

 なにより、あんまり同じところにずっといるとリビングデッドとかに襲われてしまいそうだ。

 そんなわけで、一刻も早く安全地帯へ向かうぼくだった。

 そして、塔の下について、地面に腰を下ろしたときだ。

「あー、疲れたぁ……」

 ごくごく自然な動作で腰を下ろすと――おしりに、ぐにっといった変な感触。

『うぃぃ!?』

 そして、珍妙なその叫び声を聞いて、ぼくはなんとも言えない顔になった。



マグスラ『うぃ☆』(着いてきちゃった、てへ☆ 的な鳴き声)

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