後悔の綴り
それからというものの、私の心は荒んでいた。ガラスのハートとはいかないが、ぼろぼろな雑巾のようにぐしゃぐしゃ。畜生。
私はいつも後悔する側、損する側だ。あそこまでしたのがいけなかったんだ、あそこまで許したのがいけなかったんだ。もう二度と彼に触れることもないのに、甘い過去が自分の胸には痛かった。甘いものが好きな私でも飲み込めないほどの、甘さを通り越した、毒々しいほどの甘い過去を、私は飲み干すことはできなかった。
色々なものを捨てた。
大事なものでも、ツラくても捨てた。
だが、それでも、彼にもう一度会いたかった。
会って話がしたかった。
「佐々木さん、ここ間違ってるよ?」
ハッと前を見ると、そこに私の2つ年上の細い人がいた。
職場の先輩の楓さんだ。彼女はいわゆる、私とはちがうタイプの女性で、可愛らしい見た目の中は漆黒で、氷のように冷たい人。
「ごめんなさい」
一週間に3度くらいにはなったものの、入社5カ月、注意されることも多い。
またやってしまったのかと思うと、反省する気持ちも多かったが、度々憂鬱になった。
私は何かと、嫌なことを沢山思い出すタチで、小学校の頃の恥をかいた記憶や、家族と喧嘩して泣いた記憶がチクチク胸に針を刺してくる。
その中に、彼のことも思い出す。
泣きたくなって、つらかった。
「佐々木さん、これ現場の人に渡してきて」
楓さんの冷たい声が、グサグサ刺さる。
楓さんに嫌われている理由は、鈍臭いからだけだと信じたいが。
クリアファイルに、書類一枚入れて。
こんないい天気、学生は夏休みなのに…
「あいたいよ」
私の声は天をいく飛行機の音にかき消される。
SNSで見た、彼の最新情報。
彼は大学生活が忙しくて大変だと、私に口を酸っぱくして言っていたがなんだかんだで楽しく暮らしているみたいで、彼女と思わしき人物とのツーショットの写真も投稿されていた。写真の中は彼のお家。私も行ったことがあるあの部屋には、場所は変わったが、私があげたぬいぐるみが置いてあった。それが何とも憎らしく、未練たらしいこの心は嬉しがる。
”顔出写真……悪用されちゃえばいいのに”
あの人の横にいたのは、私だけで。他の女なんか入り込む隙もなかったはずなのに。
いつしか、彼の横にいたはずの私はひとりぼっちになっていた。