第一話 彼女の名は -ルーニ制圧戦①-
「なんか人間臭いなぁ…むっ!美少女の匂いも混ざっている!行くぞお前達!私の妾に相応しい女の子を食いに行くぞ!」
少女の号令で20体ほどの吸血鬼が一斉に動き出した。他にも街の各地に居る吸血鬼が人間を察知し、動き出す。
◇
『パァン!』
何かが弾ける音。どこかで戦闘が始まった様で、ステラ達はその音を聞き、警戒を強める。
「皆!警戒体制。他の人間の戦闘を邪魔しない程度に広がって動け」
「「了解!」」
その時だった。ステラの前に現れた人影。その気配をいち早く察知し、ステラは身構えるが、その人物の顔を見た瞬間、ステラの表情、内心、全てが驚きに包まれた。
「うわぁ美少女!!ていうかステラちゃんだ!!こんばんわ♡こんな所で会えるなんて運命ね!私と一緒になろうステラちゃん!」
「ミシェル…何でお前がこんな街にこんなタイミングで来てるんだよ!」
各々が戦闘体制に入る。ステラ隊は異能者のエリートのみを集めた精鋭隊。それでもこの女には敵わない。
吸血鬼の王であり、最高に強くて最高に美しい金髪美少女、ミシェル。欠点を上げるとすれば彼女はガチレズだ。
「私はステラちゃんと1on1で話がしたい。お前ら!ステラちゃんの回りのゴミを片付けろ!美少女が居たら私の元に連れて来い!」
建物と建物の間に潜んで居た大量の吸血鬼がステラ隊に向けて突撃し、散開した。
ステラ隊も各々が武器を構える。槍、銃、ワイヤー、手。
一見弱そうなワイヤー使いと手を構える謎の女に狙いを定める5体の吸血鬼。だがその攻撃はワイヤー使い…マイの元に届く事は無かった。マイの手から放たれる5本のワイヤー。伸びたワイヤーは吸血鬼の動きを正確に捉え、縛り付ける。5体の吸血鬼は身動きが取れなくなっていた。
「まず私の異能で動きを止める」
「そして私の電撃でトドメっと」
もう一人の女が、マイのワイヤーに手を触れる。その手は電気を纏っている。その手をワイヤーの上で前方へ勢い良くスライドさせた。するとワイヤーに電気が流れ、その電流は吸血鬼が縛られている方へ向けてただひたすらに進んで行く。
電流が吸血鬼の下へ届いた瞬間、吸血鬼は感電。苦しむ暇も無く、一瞬にして吸血鬼達の息の根を止めた。
「ユリカの電撃は今日も絶好調だね」
「マイが居なきゃこう上手くいってないよ!」
二人はハイタッチを交わす。それをミシェルは羨ましそうな顔で見ている。
「あの二人凄いコンビネーションね。私がお相手してあげようかしら?」
「…お前の相手は私でしか務まらないよ」
「あらぁ…///ステラちゃんそんなに私の夜の相手になりたいだなんて…嬉しすぎて殺る気湧いてきちゃった♪」
全員がミシェルの方を向いた。それほどの殺気。ステラもそれに合わせ、剣を構える。そして剣に灯る蒼き炎。
開戦は一瞬。互いに前方へ跳躍し距離を詰め、ステラは常人の何倍もの速さで剣を振るうーーが、全て空を切った。
「活性化」ステラのみが使える力。簡単に言えば肉体強化。それでもミシェルは避ける、避ける、全て避けてそのまま蹴り…瞬間ステラは後ろに半歩下がり、そのまま剣戟を繰り出す。
その光景は正に『死の舞踏』ミシェルの人間には不可能な動きから繰り出される拳、蹴り、回避。ステラの細かいステップ回避は正にダンス、ステラの剣戟で舞う蒼き炎は夜を照らすに相応しい照明となり何者も近づく事の出来ない二人だけの舞踏会を彩っていた。
その光景に人間も吸血鬼も、ただ見惚れる事しか出来ずにいた。
だが、吸血鬼の王は笑っていた。ステラの表情には焦りが見える。舞踏会は間も無く終了する。
「ステラちゃんおっそぉい!」
「かはっ…」
ミシェルの蹴りがステラの腰に直撃、ステラは建物の壁面に叩きつけられた。
「クソッ!まだ…まだ動け…むぐっ!?」
立ち上がろうとするステラの唇をミシェルの唇が塞いだ。
「!?!!??ぷはっ!貴様!なっなにを///」
「ステラちゃんの唇奪っちゃった♪私ったら罪な女ね♪このままだとステラちゃん死んじゃうから今日はこれで帰ってあげる。こんな街くらいくれてやるわ!リリーディ!後の雑魚はここに残して帰るよ!」
何も無かった空間から、どこからともなく赤い髪を肩まで伸ばしたスーツ姿の男が現れた。
「良いのですか?雑魚とはいえ、我らの眷族。救いの手を差し伸べてやる事は…」
「私たち上等の吸血鬼と違って見た目気持ち悪いし増やそうと思えば増やせるんだからちょっとぐらい減ってもいいでしょ?不満ならお前だけ残れ」
「わ、わかりました…急いで帰りの支度をさせますので、少々お待ちください」
男は音も無く夜の闇に消えた。ミシェルもステラ達に向けて微笑を浮かべながら、何処かへ去って行く。残ったのはステラ隊隊員と吸血鬼の死骸のみ。長い様で短い10分間の戦闘が終わった。
◇
「もうここには雑魚しか残ってない。これよりスローネ隊はユーキの隊と合流。道中の吸血鬼を全て殺しながら進む。見逃さない様に少し速度を落として進むからそこんとこよろしくな」
「ういーっす」
「了解でーす」
スローネ隊のメンバーはリーダーのスローネを合わせてたった三人。この隊で何よりも重要視されるのは「速さ」。加速できる異能を持つ者のみで構成された癖のある隊。
中でもスローネは全ての異能者とは異なる異能者。その能力はーー
「全員ストップ!居るぞ!」
「って囲まれてんじゃん!何でここで止まるんだよ!バカ隊長!」
「やっぱりあんたに隊長なんてやらせちゃダメなんですよ…」
周りには40体ほどの吸血鬼。奥にスーツ姿の他の吸血鬼とは違う雰囲気を放つ男が一人。
「帰り仕度の最中だったんですが…まあいい。ミシェル様には走って帰っていただきましょう。お前ら!さっさと片付けろ!」
「スローネ隊戦闘準備!ルカは右後方、バッツは左後方!残りは全部俺が殺る!始めるぞ!」
ルーニでの戦いは既に終盤へと進み始めていた。
To be continued…