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ノエルエデン~平和の代償~  作者: しーご
episode001 完全平和の世界
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可能性

 前のめりのまま動かなくなったガンマの首をめがけ、スザクの手刀が放たれた。強化された人間であるイレイザーとはいえ、首を切断されては死亡する。ガンマの悲惨な光景を頭に思い浮かべた僕は思わず目を背けてしまった。

 聞いたこともない、鈍い音と断末魔の叫びが聞こえてきた。次は僕の番だ。やはりノエルに逆らうなんて不可能だったんだ。絶望が僕の精神を蝕む。身体は硬直し、震えは止まらない。


「人間の限界を勝手に見定めた、お前の負けだ」


 聞こえてきたのは、ガンマの声だった。首を切り落とされたと思っていた僕は、思わずハッとなり目を開いた。

悲痛な叫びを発したのは、右腕の骨を粉々に砕き純白のスーツを真っ赤に染めたスザクであった。


「貴様…!まさか!?」


 砕けた右腕の激痛に耐えながら、苦悶の形相でガンマを睨んだスザクをガンマは見下ろしながら笑った。狙われていた首は漆黒の鎧に変化していた。


「確かに俺の身体硬度変化は、体の負担が半端じゃねぇ。昔のままなら両腕を変化させるだけで相当の負担が掛かってるだろう。今の俺は複数回、任意の箇所を変化させる事が可能だ」


 腕だけではない、ガンマの首や足も黒く変化している。そんな無理な変化をすれば、殆どの細胞が朽ち果て、数分で死に至るはずだ。


「人間には変わる力がある!その可能性がある!体も意志も未来も、自分で掴み取る事が出来る!」


「まさか、ガンマは肉体自体の限界を自力で引き上げたのか!」


 相当の鍛錬が必要だったに違いない。理論上不可能とされた事を自らの可能性を信じガンマはやってみせた。

運命という言葉に従い、個人の出来る事のみを追求した今の社会に無い発想だった。


「なるほど…今の貴様なら複数回の変化、それも複数の箇所を変化させる事が可能という訳か。先の戦闘で両腕を使い、私には右腕のみを変化させて、油断の隙を誘った。フフ…」


 スザクは初めてガンマの間合いから後退した。機能しない右腕、変化能力の弱点が無効。すでに勝敗は決していた。


 ガンマは左腕を黒く変色させながらスザクに近づいていく。ゆっくり確実に距離が近づくにつれスザクの顔が険しくなる。チラッと僕の顔を見た。


「ならば選択すれば良い。再び滅びの時代を進むのか、人々の平和な世界を進むのか。真実はアポカリファが全てを知っている」


「アポカリファ…?」


 スザクは後退を止め、使い物にならなくなった右腕を手刀で切り落とした。大量の血液が吹き出し、スザクは呻きながらうずくまった。


「うおおおおっ!」


 うずくまった体勢から勢い良く床を蹴ったスザクは、ガンマに突進する。逃げる事も出来ないと判断したのか、差し違える覚悟の形相に僕はガンマの危機を感じた。あの冷静な男が、無策で何かするとは考え難い。

 ガンマはスザクの突進をノーガードで受け止め、その勢いに押され壁に激突した。壁を抉りガンマは背中から食い込んでいった。ミシミシと音を発てながら、左肩を押し込む様にガンマを圧迫した。


「無駄だぜ。あんたが何をしようとしてるか理解している。心臓を急激に運動させ、血圧を一気に高める。耐えきれなくなった体は内部から爆発し、骨や肉を撒き散らして俺にダメージを与える」


 心拍を自由に設定出来る人間がいるはずがない。だがイレイザーなら可能であろう。所謂、人間爆弾という事か。


「その程度の事で貴様を殺せるとも思ってはいない。だが傷1つ与えられれば良し!それこそがノエルエデンが私に与えた運命!!」


 一定間隔の重低音が聞こえる。ドクンドクンと奈留その音は次第に大きくなり、トンネルを響かす音量に成長した。スザクの心臓が、異常なまでの圧縮を始めた鼓動音だ。

 そうか。ノエルエデンに支配された人間は、自分の死すらも運命と受け止める。それがどんなに無意味で、悲しい事かも理解出来ず。これが僕が生きてきた完全平和の世界ノエルの真実。

 異常な高血圧に体が耐え切らす、スザクの眼球が飛び出し、血管は体を流動しながら膨れ上がっていた。ガンマは黒い手でゆっくりスザクの頭を挟む様に掴んだ。



「違うぜスザク。その程度じゃ傷一つすら俺には浸けられねぇのさ」



 ガンマの黒腕から蒸気が吹き出し、軋む音を発したと同時に、スザクの頭を潰した。風船の様に一気に膨れ上がったスザクの体は、バンっと大きな音を立て弾ける様に内側から破裂した。

 大量の血液と肉片が周囲に飛び散る。破裂した勢いで骨が四方に飛び、床や壁に突き刺さった。イレイザーとして生まれた彼の骨は鉄の硬度を誇る。散弾の様な威力に僕は驚愕した。

 

 血の霧と蒸気の中心に、ガンマが立っていた。足元にはスザクの鉄の骨が粉々に粉砕され散らばっていた。ガンマは傷一つすら負わず、スザクの自爆を凌いでいた。

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