差
僕は黒腕の蒸気の量が心無しか減少している事に気がついた。皮膚や筋肉を硬化する為に、細胞や組織は爆発的な活動を行い、その熱がガンマの体内の水分を蒸発させているのなら、恐らく体内の水分は致死量近くまで減少しているはず。このままではスザクの言う通り自滅してしまう。硬直状態から一変し、再び竜巻の様な2人の接近戦が始まった。
ガンマは休む間もなく、黒腕を絡めたインファイトで攻め続ける。大きな体からは想像できない素早い動いで常にスザクの懐に入り込んでいた。
一方、その猛攻を丁寧にガードし、一定の距離を維持するスザク。持久戦になればガンマの体は変化能力の反動で活動を停止する。ガンマが確実に致命傷を与えなければ、この戦闘は負ける。
黒い右腕の攻撃さえ直撃すれば、スザクを退ける事が出来る。
だがスザクもそれを警戒してか、右腕に細心の注意を払っていた。
同軸上に2人が相対し、ガンマが一気に懐に飛び込む。捉えきれなかったスザクに、屈み気味の体勢から左のボディをガードの上から2連打を浴びせた。ガードしたにも関わらず、衝撃が内臓に浸透したスザクの足が止まった。
(ガンマが勝つにはここしかない!これで決まれば…!)
僕にもハッキリと判った最大のチャンス。
エンジンを吹かした様に黒腕から蒸気が吹き上がる。超速の黒の弾丸がスザクのこめかみをカスる。ガンマはその隙を逃さずスザクとの間合いを一気に詰めた。スザクは弾丸の右ストレートを紙一重でかわしたが、体重を支えていた右足がガクリと折れ、そのまま体勢をを崩した。
恐らく、カスッた衝撃で頭を揺さぶり脳震盪を起こしたのだろう。
ガンマは一気に右足を踏み込み、上段に振り上げた黒腕を落雷の如く勢い良くスザクの顔面に振り落とした。
ガンマの渾身の一撃は、地雷を起爆させた様にスザクごと床を爆散させた。
たが、ここで身体能力の明確な差が露呈する。
直撃したかと思われたガンマの拳には、砕かれたコンクリートの破片のみ。コンクリートの粉塵が舞う中、僕の視界にはガンマの背後にスザクが佇んでいるじゃないか。脳震盪を起こし、動きが止まっていたのにも関わらず、ガンマの攻撃をかわす反応、背後をとるスピード。千歳一遇のチャンスをガンマは逃した。
「終わりだ、召されろ」
スザクはガンマの後頭部を掴んだまま、爆散したコンクリートの床へと勢いよく押し込んだ。コンクリートがさらに弾け飛び、前のめりに顔から床に叩きけられた顔面から血飛沫が弾けた。
「頭蓋を砕かれてはイレギュラーとて即死は免れない。最大の好機であっただろうに、やはりスペックの違いが勝負を決めたのだ」
(…あのガンマが勝てないのか)
悪魔とも思ったガンマがピクリとも動かなくなった。