Lie&Truth 01
…。
「エミリオ、お母さんはあなたを誇りに思うわ。だってあなたはとても立派なお仕事ができる人間なのよ?この世界の平和を担う大事なお仕事。エミリオには才能があるの。神様があなたに与えてくれた才能なの。これはとても素晴らしい事なのよ」
「才能?お母さんは嬉しいの?」
「お父さんも喜んでいたわ。立派な運命を与えてくれた神様に感謝しましょう。そしてあなたは神様の言葉を人々に伝えるの。神様が私達に授けた運命を」
「…運命?」
「人にはね、産まれてきた意味があるのよ?エミリオにはまだ難しいかしらね。今日からお友達と一緒に先生の所でお勉強するのよ」
「レイチェルちゃんは?」
「レイチェルちゃんも別の先生の所でお勉強しているわ。だからエミリオもレイチェルちゃんみたいに頑張ってお勉強するの」
「うん。わかったよお母さん」
「偉いわ。さぁ食事にしましょう。エミリオが大好きな、こんがり焼いたパン。食べたら着替えてくるのよ。」
父と母が喜んでくれるのが一番嬉しかった。レイチェルと遊べなくなったのは寂しかった様な気がするけど、僕はその日から一般的な教育の他に、生物の起源から、人間の遺伝子構造、生物学を学んだ。
それが当たり前だと思った。与えられた運命に従う事が。みんなそうやって育った。父も母も先生も友達もレイチェルも。
「…違う?」
背中がやけに冷たい。意識が戻った夜の気温で冷えたコンクリートの上を仰向けになって寝ていた。朦朧とした視界にあったのは無数の管が張り巡らされた楕円形の天井。
(ここはどこだ?僕は一体…)
状況を把握出来なかった僕は、やけに重たい上半身をゆっくり起こし、首を左右に振り周囲を確認した。
広い、半円形の細長い空間。どこかのトンネルだろうか?なにか鼻につく嫌な臭いは下水の臭いだ。ここまではすぐに理解した。じゃあ何故僕はここにいるのか。状況把握に頭を回転させていた時、靴がコンクリートを歩く音が近づいてきた。そして答えは直ぐに出た。
「ようやくお目覚めか。いい夢は見れたかい?」
「あんたは…確かガンマ…」
男の顔を見た瞬間、バラバラになった曖昧な記憶が一気に繋がり、悪夢の様な現実を思い知らされた。
「記憶障害は出てないみたいだな。なかなかタフなハートしてるじゃねーか!普通のガキなら発狂して自殺もんだぜ」
僕の運命を大きく狂わせ、人間を容赦なく殺す悪夢の化物は手に持っていた缶を僕に放り投げた。
「コーヒーだ、ブラックは飲めるよな?」
ありがとう、という気にもならなかった。受け取った缶コーヒーを地面に置いた。ガンマは壁にもたれかかる様にドカッと座り込み、まだ暖かい缶コーヒーを飲みだした。
「僕をどうするつもりだ?人質にでもして、金でも要求するのか?」
根底の疑問。僕をバスで襲い、そして助けた。その目的を知りたかった。
「そんなしょーもない理由で、こんな大事は起こさねぇよ。金なんか持ってても、この世界じゃ地位も名誉も得れねぇし裕福にもならねえ。形だけの単位だ」
確かにその通りだ。この世界の代価は全ての人に等しく支給される。世帯当たりの収入もだ。医者でも、接客業でも、研究者でも、収入には大差がない。競争、格差を無くすためだ。飲み干した缶コーヒーを地面に置き、ガンマはタバコに火をつけた。
「勿論、殺すつもりもねぇ。まぁじっくり教えてやるよ。この世界の真実とお前の本当の運命ってヤツをな」
「本当の運命…?世界の真実…?」
嫌な汗が額から頬を伝って、顎から手の甲にポトっと落ちた。妙な緊張感を纏ったガンマは、ゆっくりと話を始めた。