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10秒勇者~スキル【無敵モード】で10秒だけは世界最強~普段は最弱なので、舐めプのふりして時間稼ぎします!  作者: 桑野和明(久乃川あずき)


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二つ名持ちの男

 緩やかな斜面を下りていると、巨大な水晶の陰から、エルフの男が姿を見せた。


 男はすらりとした体型をしていて、金色の髪を腰まで伸ばしていた。右手には銀色の槍を持っている。


「エリス! 俺の後ろにいてくれ!」


 俺が叫ぶと、すぐにエリスは俺の後ろに移動した。

 男は整った唇を笑みの形に変える。


「……ほぅ。特例で試験を受けることになった異界人だな」

「ああ。あんたは?」

「俺はメルエス。『幻影のメルエス』の二つ名を持つ魔法戦士だ」


 メルエスは長い髪に触れながら、俺と視線を合わせる。


「さて、降参する気はないな?」

「……ああ。ここで負ける予定はないからな」


 俺は幻魔星斬をホルダーから引き抜く。


 二つ名がついているってことは、相当強いってことだろう。魔法戦士ってことは、何かの魔法も使ってくると考えておくべきだな。


 俺は両足を軽く開き、腰を落とす。

 メルエスは銀色の槍を動かし、鋭い先端を俺に向ける。


「では、十三魔将を倒したお前の攻撃を見せてもらおうか」

「……こっちから攻めてこい、ってことか」


 俺はゆっくりとメルエスに近づく。しかし、メルエルは動く様子がない。笑みを浮かべたまま、俺を見つめている。


 んっ? 変だな。俺が十三魔将を倒したと知ってるのに余裕がある。絶対に勝てる自信があるのか?


 俺は足を止めて、メルエスを観察する。


「どうした? 俺が恐いか?」

「ああ。何をやってくるかわからないし」

「慎重だな。だが、安心しろ。お前が負けても死ぬことはない。殺せば、俺が失格になるからな」

「……そうだな」


 俺は幻魔星斬を強く握る。


 とりあえず、普通に攻めてみるか。で、相手の動きに合わせて、【無敵モード】を使おう。それなら、ほとんどの攻撃に対応できるはずだ。

 覚悟を決めて、俺はメルエスに突っ込んだ。幻魔星斬でメルエスの腕を狙う。

紫色の刃がメルエスの腕をすり抜けた。


 これは……映像か!


「かかったな。バカめ!」


 メルエスの言葉と同時に背後から、エリスの声が俺の耳に届く。


「秋斗様っ!」


 振り返ると、メルエスがエリスに走り寄っていた。


 あっちが本物で、狙いはエリスのリボンかっ!


 俺はメルエスの意図を理解して、【無敵モード】を発動させた。

 強く地面を蹴り、一瞬でエリスの前に移動する。

 予想外の速さだったのか、メルエスは後方にジャンプする。


「やるな。だが……」


 メルエスの体が二つに分かれた。


 どっちか一つは映像ってことか。


 六……五……。


【無敵モード】のカウントダウンが進む。


 まずい。メルエスはエリスのリボンを奪うまで攻撃を止めないだろう。クールタイムに入ったら負けが確定する。

 こうなったら、どっちが映像かわからないけど、二人同時に倒して……んっ?


 俺は壁際にエリスと同じ服を着た女がいることに気づいた。


 あれはメルエスと組んでいる冒険者ギルドの職員だな。


 それならっ!


 俺は二人のメルエスの間をすり抜けて、女に突っ込む。

 女は俺から逃げようとしたが、その動きは遅い。

 俺は左手で女の胸元のリボンを奪い取った。

 同時に【無敵モード】のカウントダウンが0になる。


「戦闘を終了してください!」


 エリスの声が洞窟の中に響いた。


「この勝負。秋斗様の勝ちです!」


 エリスのリボンを奪おうとしていたメルエスの動きが止まった。


「ぐっ……先にリボンを取られたか」


 右にいたメルエスの映像が消え、本物のメルエスはがっくりと片膝をついた。


 おっし! なんとかなったか。


 俺は奪い取ったリボンを強く握る。


 やっぱり、【無敵モード】の時のスピードはとんでもないな。普通なら、エリスを助けることはできなかったし。


 ◇ ◇ ◇


 俺とエリスは洞窟の隅で休憩を取っていた。

 魔法のポーチに入れていた干し肉をかじっていると、エリスが結んでいた唇を開いた。


「秋斗様……」

「んっ、何だ? 干し肉が食べたいのなら、半分あげるけど」

「いえ。食べ物のことではなく、あなたの強さのことです」


 エリスは俺に顔を近づける。


「秋斗様は二つ名持ちのメルエス様に勝ちました」

「試験のルールで勝っただけだぞ。メルエスを倒したわけじゃないし」

「それでも、秋斗様の強さはわかります。あなたはとんでもないスピードで私を守り、一瞬でメルエス様と組んでいたドリスのリボンを奪いました。【速度強化】や【速度三倍】のスキル程度では不可能なスピードです」


 エリスは真剣な表情で俺を見つめる。


「秋斗様は、【神速】のスキルをお持ちですよね?」

「あーっ、まあ、スピードを上げるスキルは持ってるかな」


 俺は適当に言葉をにごした。



「秋斗様の実力は確実にSランクレベルです。私が判断できるのなら、こんな試験を続けなくても、あなたをSランクに認定します」

「そっ、そうか。はははっ」


 俺は乾いた笑い声をあげた。


 Sランクに認定されたら困るんだよな。ぎりぎりで不合格を狙ってるから。

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