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10秒勇者~スキル【無敵モード】で10秒だけは世界最強~普段は最弱なので、舐めプのふりして時間稼ぎします!  作者: 桑野和明(久乃川あずき)


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ある冒険者の不運

 Aランク冒険者ロックは巨木の幹の陰で自分の右手を見つめていた。


 人差し指と中指に三つずつ、合計六つの指輪がはまっている。


「悪くない戦果だな」


 ロックの唇の両端が吊り上がる。


 ――俺のスキル【隠密】と【速度強化】は奇襲攻撃と相性がいい。このタイプの試験なら、圧倒的に有利だ。


「残り四つか。まあ、弱い奴を狙えば、なんとかなるだろう」


 その時、数十メートル先の茂みから微かな音がした。

 ロックは呼吸を止め、唇を強く結んだ。


 数秒後、長い黒髪の少年が姿を見せた。


 ――ちっ、七人神のファルムか。


 ロックは奥歯を強く噛む。


 ――あいつを倒せば、即合格だが、当然、その選択はなしだ。奇襲しても七人神に勝てるとは思えないからな。


 ファルムは軽やかな足取りで木々の間をすり抜ける。

 その足が、茂みの前で止まる。


「……んんっ?」


 ファルムはロックが隠れている巨木を見つめる。


「誰かいるね」

「……」

「無駄だよ。何かのスキルを使ってるみたいだけど、僕の【気配察知】のスキルのほうが上みたいだ」

「……くそっ!」


 ――気づかれたか。さすが七人神だ。


 ロックは一気に走り出した。茂みを飛び越え、急な斜面を駆け下りる。


 ――こうなったら、一か八かやってやる。ファルムは油断してるはずだ。逃げている俺が攻撃してくるとは考えないはず。


 呪文を唱えながら、ロックはファルムの位置を確認する。


「……お前と戦うつもりはねーよ!」


 ロックとファルムの間に炎の壁が現れる。

 同時にロックは逃げる方向を変えた。炎の壁に沿って走り、木の陰に隠れる。


 ――どうせ、【気配察知】で俺の位置はバレる。だが、一瞬でいいんだ。一瞬の隙をつければ……。


 炎の壁が消えると、ロックの視界にファルムの姿が入った。

 ロックは低い姿勢でファルムに突っ込んだ。ファルムはロックに気づき、漆黒の短剣を腰につけたホルダーから引き抜く。


「遅ぇよ!」


 ロックは右足で強く地面を蹴って、短剣を突き出した。銀色の刃がファルムのノドに刺さる寸前――。

 ファルムは黒い腕輪で短剣の刃を受けた。

 甲高い金属音がして、銀色の刃が欠ける。


「あ……くっ!」


 ロックは唇を歪めて、ファルムから距離を取る。


「残念だったね」


 ファルムは首をかくりと曲げて笑った。


「この腕輪……レア素材のガリム鋼でできてるんだ。大抵の武器はこれで防げるよ」

「ちっ! 腕輪を盾のように使いやがって。バケモノめっ!」

「褒め言葉と受け取っておくよ」


 ファルムは笑顔でロックに近づく。


「くそっ!」


 ロックは新たな短剣を手に取り、真横に振った。

 その瞬間、正面にいたファルムの姿が消え、ロックの左側に移動していた。

 反応が遅れたロックの腕にファルムの短剣が刺さる。


「があっ……」


 ロックは唇を強く噛み、ファルムに背を向ける。


 ――ダメだ。やっぱりこいつには勝てない。なんとか逃げるしか……あ……。


 いつの間にか、ロックの周囲に無数の黒い糸が張られていた。糸は木の枝や幹と繋がっていて、ロックの逃げ道を塞いでいる。


「もう逃げられないよ」


 ファルムが両手を胸元で交差させるように動かした。黒い腕輪から糸が出て、ロックの体に巻き付く。ロックはバランスを崩して地面に横倒しになった。


「悪いね。あんまり時間をかけられないんだ」


 ファルムはだらりと両腕を下げたまま、ロックに近づく。


「まだ七人しか倒してないしね。全員不合格にするには時間が足りないんだ」

「全員不合格だと?」

「うん。本当は適当にやるつもりだったんだけど、七人神の強さをわかってない奴がいるみたいだからね」


 ファルムの黒い瞳が妖しく輝いた。


「七人神は冒険者の頂点に立つ至高の七人だ。天才が集まるSランクの中でも別格の存在なんだよ。それを君たちAランクの冒険者に教えてあげるよ」


 狂気を感じるファルムの笑みを見て、ロックの顔が蒼白になった。


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