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10秒勇者~スキル【無敵モード】で10秒だけは世界最強~普段は最弱なので、舐めプのふりして時間稼ぎします!  作者: 桑野和明(久乃川あずき)


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闘技場

 次の日、俺とうにゃ子は、アドレーヌといっしょに闘技場に向かった。

 闘技場は円形で階段状の観客席には多くの人々がいた。


 冒険者に商人、貴族もいるか。


「こんなに人が集まるのか」

「多分、兄が宣伝したのでしょう」


 アドレーヌがため息をつく。


「兄は、よく私に嫌がらせをしてくるんです。こんなことをしても何の意味もないのに」

「仲が悪いみたいだな」

「……はい。私が父から認められていることが気に入らないみたいです。私としては、どうでもいいことなのですが」


 アドレーヌは俺とうにゃ子に頭を下げた。


「本当にすみません。こんな無意味な戦いをしてもらうことになって」


「安心するにゃ」


 うにゃ子が両手を腰に当てて、胸を張った。


「この程度のイベント。さっさと消化して、魔王退治のシナリオに進むにゃ」

「おいっ、この世界はゲームじゃないんだぞ」


 俺はうにゃ子の肩を軽く叩く。


「死んだら終わりの世界なんだからな。絶対に油断するなよ!」

「了解にゃ!」


 うにゃ子は背筋を伸ばして、敬礼ポーズを取った。


 数分後、奥の通路からダニエルが姿を見せた。


 ダニエルの隣には二十代ぐらいの赤毛の女がいた。体型はすらりとしていて、光沢のある黒い服を着ている。ブーツも黒で腰には四本の短剣を差していた。


 この女がメルダみたいだな。


 ダニエルがにやにやと笑いながら、アドレーヌに歩み寄った。


「アドレーヌ。久しぶりだな」

「ダニエルお兄様」


 アドレーヌはダニエルと視線を合わせる。


「このような意味のないことは止めてください」

「止める? バカなことを言うな」


 ダニエルはふっくらとした顔の前で右手を左右に振る。


「これだけ多くの観客がいるんだ。今さら止められるか。それにこれはお前のためでもあるんだぞ」

「私のため?」

「ああ。お前が信じている未来の勇者はまがい物ってことを聡明な兄が教えてやる」


 ダニエルは唇の両端を吊り上げる。


「なあ、アドレーヌ。お前だって、月見秋斗が戦っている姿をその目で見たことはないんだろ?」

「……はい」

「ならば、いっしょに観戦しようではないか。本当にそいつが未来の勇者なら、メルダたちに余裕で勝てるはずだからな」

「それは……」


 アドレーヌの整った眉が眉間に寄る。


「いいよ、アドレーヌ。俺、戦うから」


 俺は困った顔をしているアドレーヌの腕に触れた。


「うにゃ子もいるし、なんとかなるだろ」


「へーっ。余裕を感じるわね」


 メルダが赤い口紅を塗った唇を開いた。


「十三魔将を倒しただけはあるか。でも、私が負けることはないから」

「すごい自信だな」

「こういう戦いで負けたことがないの。私はね」


 メルダは笑顔で俺に近づく。


「で、秋斗くん。あなた、上位スキルを持ってるわよね?」

「……まあな」

「それって、スピード系のスキルでしょ」

「どうしてそう思うんだ?」

「あなたの戦いを見ていた冒険者から、情報を買ったのよ。あなたがとんでもない速さで戦ってたってね」


 メルダは上目遣いに俺を見つめる。


「みんなが驚いてたってことは、【速度強化】、【速度三倍】程度のスキルじゃない。それより上の【神速】でしょうね」

「……なるほどな」


 俺のスキルが【無敵モード】とは予想できなかったか。まあ、コロンが誰も持ってない超レアなスキルって言ってたからな。


「だけど、仮にあなたが【神速】のスキルを持っていたとしても、勝つ方法はいくらでもあるわ」

「あんたも強いスキルを持ってるってことか?」

「そう。特別に教えてあげる。私は【達人】のスキルを持ってるの」

「【達人】?」

「ええ。【達人】のスキルは、パワー、スピード、防御力を大きく上げる上位スキルよ。このスキルのおかげで、私はSランクの冒険者レベルの強者になれたってわけ」


 メルダは舌を出した。


「で、先に謝っておくわ。ごめんなさい」

「何で謝るんだ?」

「あなたを殺してしまうかもしれないから」


 メルダは笑顔のまま、言葉を続ける。


「私の攻撃って、基本、急所を狙うの。だから、降参の声が少しでも遅かったら、相手が死んじゃうってわけ。それで今までも、五人以上殺しちゃった」

「五人以上って……」


 掠れた声が俺の口から漏れる。


「おっと、顔色が悪いようだな」


 ダニエルがにやりと笑った。


「観客も楽しみに待っているし、戦う前に倒れてもらったら困るんだが」


「安心するにゃ」


 うにゃ子が口を開いた。


「うにゃ子たちの大勝利で観客を盛り上げてやるのにゃ」

「ふん。口だけは達者なようだ。だが、もう一人の対戦相手を知っても、その余裕が続くかな」

「誰が相手なのにゃ?」

「最強の決闘士ガルドルだ」


 ダニエルが答えた。


「ガルドルは素手でオーガと戦えるほどの男だ。奴の強さは人族の常識を越えているぞ」

「私一人でよかったんだけど」


 メルダが肩をすくめた。


「わざわざ、ガルドルまで雇うなんてさ。慎重すぎるんじゃないの?」

「より確実に勝つための策さ。俺は負けるのが嫌いだからな」


 ダニエルは視線をアドレーヌに向ける。


「じゃあ、始めるか。勝ちが確定した戦いをな」


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