3話 お嬢様に転生!?
「……はっ! 美柑ッ!?」
「シ、シィナお嬢様……?」
「えっ、あ……し、失礼。なんでもありませんわ……」
クレイン王国・王歴1520年、8月31日。
ゼテール伯爵家の娘『シィナ・ゼテール』は15才になったその日、全てを思い出した……
「ぼーっとしたかと思えば急に大きな声を出して……大丈夫かシィナ?」
「あら大変、間違えてお酒でも飲んでしまったのかしら」
「お父様、お母様……いえ、心配ありませんわ。パーティーで少しはしゃぎすぎて疲れてしまっただけですの」
オレの名前は夏山彪牙、享年15才。
トラックに轢かれた後、天国っぽい所で出会った女神に妹ともども異世界へと転生され、シィナ・ゼテールという名前の伯爵令嬢として生まれ変わり、これまで暮らしてきた。
今日はシィナの15才の誕生日パーティー中で、食卓にはウチの領地で採れた新鮮な食材をふんだんに使った料理が所狭しと並べられている。
「(って、ちょっと待ってくれ……えっ、ウソだろ? なんでオレお嬢様に転生してんの!?)」
女神に言われていた通りに15才になって記憶の封印が解かれたオレは、死んだときの光景や女神とのやり取りを昨日の出来事のように感じていた。
勿論それまでの生活……施設での暮らしや美柑と出会った日、夏山のおじさんとおばさんに家族として迎えられた記憶などもすべて思い出した。
しかし、今までこの世界でシィナ・ゼテールとして暮らしてきた記憶や感情も消えておらず、前世の意識と現世の意識が混ざり合って少し困惑する。
この状態も、引き継いだ記憶が馴染んでくれば治まるのだろうか……
「シィナお嬢様、先ほど言っていたミカンというのは一体……」
「美柑ですか? 美柑はわたくしの」
って、やっべー……今の家族や屋敷のメイドたちに美柑の事を説明するわけにはいかないぞ。
しかも記憶を探った感じ、ミカンっていう果物もこの世界には存在しないし……
「ミ、ミカン……そう! ミミカンって言ったんですの!」
「お嬢様、ミミカンとは……?」
「ミミ、ミミガー……豚の耳の缶詰料理ですわね」
「なんですかその恐ろしい料理!?」
ふう、危ない危ない……なんとか誤魔化せたぜ。
しかし、こうなってくると妹が心配だな……恐らく美柑もこの世界に生まれ変わって3才になり、前世の記憶を取り戻しているはず。
『ひゅーがにーちゃどこー?』とか言って探してるかもしれない……
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「はあ……それにしても、まさかお嬢様に転生しているとは驚きですわね……」
誕生日パーティーを終えて自室に戻り、リラックスできる服に着替えさせてくれたお付きのメイドが出て行ったのを確認してからようやく一息。
とりあえずさっき、化粧室に行って一通り女子の身体を見て触って驚いて……というのを済ませて一旦落ち着いた。
「わたくしは、シィナ・ゼテール。美味しい料理を食べることが大好きなちょっとおっちょこちょいの伯爵令嬢……」
今のオレは、クレイン王国の農業地帯を領地として管理するゼテール伯爵家の娘、シィナ・ゼテールというお嬢様だ。
この世界に生まれてから身に付けてきた貴族令嬢としての教養や話し方、仕草や立ち振る舞いもすべて経験として覚えており、シィナという女の子としての記憶や意識も消えていない。
「あわわ、足を広げて座るとなんか変な感じですの……」
前世のオレ、夏山彪牙だったときは胡坐をかいたりドカッと足を広げて座る姿勢の方が楽だったが、シィナ・ゼテールはそんなはしたない事は勿論しない。
試しに意識して足を広げてみたところ、恥ずかしさを感じて無意識にスカートを抑えてしまう……うう、なんだこの気持ち。
「な、何はともあれ前世の記憶を取り戻すことができましたし、美柑の手がかりを探すために明日から頑張りましょう」
待ってろよ美柑、お兄ちゃんが絶対見つけてやるからな……!
「まあ、今のわたくしは『ひゅーがにーちゃ』じゃなくて『しーなおねーさま』になってしまっているのですけどね……」
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