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変人伯爵令息に、惹かれてなんかいません!……たぶん

掲載日:2026/03/14

「俺と結婚しよう!君と俺ならどんな山も乗り越えられる!一緒に登山家になろう!」


舞踏会の場で一人の男性がそう声高らかに宣言する。

愛の告白。それは誰もが興味引かれる一世一代の大勝負。

ただでさえ人の多い舞踏会で告白なんてしようものなら、周りにはチラチラとこちらを眺める人だかりができ、一瞬で社交界の噂の的になるのだろう。


……だけど、それは普通のお話。

現在、私たちの周りの人間はこちらに見向きもしていない。それもそうだろう。なんせこの光景はすでに五十回は目撃されているからである!


「お断りいたしますルシス様。どう考えても『わーい!山登りするぅ!結婚するぅ!』とはならないでしょう。山登りではなく山籠もりされて、一度自分を見つめ直されてはいかかですか?」


そして五十回はしたお断りの言葉を、私は今日も投げかける。

ルシスは決して悪い人ではない。悪意を持って近づいて来ているのではないことは理解しているし、黙っていれば間違いなくイケメンの部類だ。美しい金髪と深い緑の瞳は、黙っていれば社交界で人気の令息筆頭だったに違いない。黙っていない今でもファンが数名いるぐらいなのだから。


「何というツッコミの切れ味!宮廷料理人のナイフもここまで鋭くないぞ!さすがサーシャ!やはり結婚しよう!」


ルシスはつい先ほど振られたとは思えないぐらい元気だ。元気すぎる。陸に上がってもずっとピチピチしている魚、それがルシスだ。


「やはり君となら幸せな家庭を築ける自信がある!そして笑いの絶えない家庭選手権で優勝しよう!」

「何ですかその笑いの絶えない家庭選手権って」

「ご飯の間もトイレの間も、果ては寝ている合間さえ笑顔を絶やさず、鉄の表情筋を作り上げた者だけが生き残れる過酷な競技だ。参加者は笑顔がつらすぎて、笑顔恐怖症になる人もいるのだとか」

「……恐ろしすぎませんかそれ。笑顔が絶えない選手権じゃなくて、笑顔が見るに堪えない選手権に名前を変えた方が良さそうですね」

「何というツッコミの尖り具合!わざわざ進学校に来たのに不良やってる奴よりも尖ってるぞ!さすがサーシャだ!」


やばい。これさっきも聞いた流れだ。このままではまた告白の無限ループに陥ってしまう。何とか話題を変えなければ舞踏会を楽しむ時間がなくなってしまう。以前、流れに身を任せていたら、ルシスの独壇場が数時間続いてしまった。そんなことは絶対に避けなければならない。


私は上着の胸ポケットに入っている、祖父の形見の懐中時計で時間を確認する。まだそこまで時間は経っていない。対応を間違えなければ何曲か楽しむ時間はありそうだ。


「私は落ち着いていて頼れる人間が好きなんです。ルシス様は、その、あまりにも元気すぎます」

「ほう、なるほど……そうだ!」


ルシスは少し考え込むような顔をした後、何をひらめいたのか満面の笑みを浮かべる。

あぁ、絶対にろくなことじゃない。


「最近君に好かれるために女性向けの恋愛小説を読んでみたのだが、そこに白馬に乗ってバラをくわえた男が登場するのだ」

「あぁホワイト様ですね。確かにホワイト様は大人で頼れる人間ですが……それがどうしました?」

「こういうのはまず形から入るべきだと思ってね」


そう言うとルシスは懐からバラを取り出した。

もしかしてあれ、今からくわえるの?さすがにトゲ抜きしてるよね?


「ではレッツホワイト様!」


ルシスは躊躇なくバラをくわえた。


「痛い!」

「だ、大丈夫ですか!?」


トゲ抜きしてなかったらしい。

うんそんな気はしてた。


「トゲ、飲込んでませんか!あぁ血が出てるじゃないですか!ほらハンカチで傷抑えててください!」

「す、すまない。トゲは飲み込んでない。大丈夫だ。すまない」


珍しくシュンとしている。

こんなルシス始めて見た。こういう顔もするんだ。

普段からこんな感じだったら、引く手数多(あまた)だったろうに。


「あぁすまない。サーシャの服に俺の血が飛んでしまってるじゃないか。新しい服をプレゼントさせてくれないか?」


そう言われて胸元を見ると、羽織っている上着に確かに点々と血が付いている。どこかのタイミングで少し散ったのだろう。


「いいですよ。こんなの目立たないし。洗えば取れますよ」

「しかし……」

「大丈夫ですから」

「君は俺の血液型を知らないだろう?」

「知りませんけど……それ関係あります?」

「この前治癒師に血液の状態を見てもらったんだが……なんと俺の血液型は『ネットリ型』だったんだ!」

「……『ネットリ型』ですか」

「そうだ『ネットリ型』だ」


……この人は何を言っているんでしょう?


「治癒師曰く、普通の人よりも血液がドロッとネットリしているらしい。だから服の血もそう簡単に落ちないに決まっている」

「……野菜しっかり取りましょうね」


血液型の説明をしようかと思ったが、止めた。

それはルシス家の教育係の仕事だ。うん。私が教育係の仕事を奪うのは良くない。

決して面倒だから止めとくかなんて思ったわけじゃないですからね。そこ、勘違いしないように。


「いったん血も止まったようなので、私は服の血を落とせないか試してきます」

「すまない」


珍しくしおらしいルシスを尻目に、私は洗面所へと直行する。

こういう汚れはスピードが大切だ。乾燥する前なら水洗いで十分対処できる。


洗面台に到着した私は、上着を脱ぎ水で洗おうとする。だが大切なことに気が付き、直前で動きを止める。


危ない危ない。祖父の形見の懐中時計を胸ポケットに入れたままだった。

このまま洗ったら祖父が化けて出て、恒例のマシンガントークを食らう羽目になるところだった。ただでさえルシスだけでも厄介なのだ。そこに祖父が参戦したら大惨事になる事は言うまでもない。


「キャァ!」

「ワァ!」


突然体に衝撃が走る。どうも後ろから衝突されたらしい。

後ろを見ると一人の令嬢が床に尻もちを付いていた。


「だ、大丈夫?怪我とかしてない?」

「大丈夫です……ハッ!イヤリングここら辺に落ちてませんか!?」

「イヤリング?パッと見、無さそうだけど」

「い、いえ先ほどまで持っていたので絶対ここにあるはずです!」


ぶつかった令嬢は、そう自信満々にそう答えた後、何かを期待するような目でこちらをジッと見つめる。


「……一緒に探そうか?」

「いいんですか!ありがとうございます!」


彼女は満面の笑みでそう言った。どうやらご所望通りの回答だったらしい。

まあいいか。人助けは嫌いじゃないし。


私は上着を洗面台の上に置き、屈んで地面をキョロキョロと見つめる。


「それで、どんなイヤリングを落とされたんですか?」

「えーっと、小さいのです」


上の方から彼女の声が聞こえる。どうやらイヤリング娘は立った状態で、全体を眺めて見つけようとしているようだ。


「小さいか……なにか特徴とかありますか?」

「うーんと、多分きらきらしてます。多分隅の方とかに行きそうな形状なので、隙間とか見てください」


隅の方に行きそうな形状?おそらく球に近い形なのだろう。きらきらしているとの事だし、もしかしてダイヤ!?それは一刻も早く見つけないと。


「あ、ありました。では失礼します」

「あ、え、ちょっと!」


私がやる気を出し、隅の方を探し始めてから少しも経たないうちに、声と共にドタバタとした足音が遠ざかっていった。私が振り返るとそこにイヤリング娘の姿はない。

見つけて嬉しいのは分かるけど、せめてどんなイヤリングだったかだけでも答え合わせさせて欲しかった……まあ見つかったんならいいか。


そういえば私何しにここに来たんだっけ……そうだ!血だ!


私は洗面台の上に置かれた上着を取る。

まずは祖父の形見の懐中時計を外して……ってあれ?懐中時計がない!?

え!?なんで!?どうして!?さっきまでそこにあったはずなのに!


右を見ても左を見ても下の隙間をのぞき込んでみても、それらしき姿が全く見えない。

そこまで大きな物ではないが、少なくともイヤリングよりは見つけやすいはずだ。

何か重大な見落としをしていない限り、探し出すことは難しくないはずなのに。全く見つからない。

誰か何か見てないかしら……


そうだわ!さっき一緒にイヤリングを探した彼女なら、もしかしたら何か知っているかもしれない。それに、今度はこちらの捜し物を手伝ってくれるかもしれない。


私は急いで洗面台を出る。

「血はとれたか?」と不安そうに問いかけてくるルシスを手の動きで制し、イヤリング娘を探す。

あの人でもないし、この人でもないし……いた!


私は急いで駆け寄る。そこではイヤリング娘含め、数人の女性が談笑していた。


「それで私、奪ってやったの」

「おぉ!さすがぁ!」

「ルシス様に変な色目使ってるあの女に、こんなおしゃれなの似合わないわ。私がもらってあげることに感謝してほしいものね。キャハハハ!」


イヤリング娘は仲間の女性にそう言って、懐から懐中時計を取り出した。

それは見慣れた私の祖父の形見と全く同じ物だった。


私はその瞬間全てを理解した。

イヤリング娘が私の懐中時計を盗んだのだ、と。イヤリングは懐中時計をぬすむため口実だったのだ、と。


「それ、私の懐中時計ですよね」

「キャハハハ!……ってあんた、どうしてここに!」


先ほどまで豪快に笑っていたイヤリング娘は、私が声をかけると明らかに動揺する。


「盗んだことに関してとがめるつもりはないので、返していただけますか?大切なものなんです」

「……はぁ?言いがかりはやめてください。これは私のですよ?あなたのだって言うなら何か名前でも書いてあるんですか?」


確かに懐中時計に名前は刻まれていない。それにオーダーメイドでもない。買おうと思えば買える代物だ。

でも、あれには思い出が詰まっている。今は亡き祖父の記憶が、小さな傷やカチカチと動く音に刻まれている。私にとっては計り知れないぐらいの価値がある。


「返して……ください」

「はぁ?聞こえないんだけど?」

「大切な物なんです。返してください!」

「だからぁ、これは私が元々持ってた物だってば!変な言いがかり止めてよね」


私たちの声に、周囲の人々がワラワラと集まってくる。

でも介入する者は誰も居ない。皆見ているだけだ。


「あんたのだって言うんだったら証拠出せよ!証拠!証拠!」

「「「証拠!証拠!証拠!」」」


取り巻きの女達が、イヤリング娘の言葉を真似してはやし立てる。

周りの人々もその言葉にうなずいている。

その場に私の味方はいなかった。


「いや、どう考えてもそれはサーシャのだろ?」

「へ?ル、ルシスしゃま!はゎゎゎゎゎ!」


あれ?

気がついたらルシスが隣に立っていた。

当たり前に私と肩を並べていた。


ルシスがはっきりと私のだと断言した。

なぜだか分からないけど、急激に目頭が熱くなる。

なぜだか分からないけど、ルシスの方を見れない。


「ル、ルシス様と言えど証拠も無しに決めつけるのは良くないですよ!メッですよメッ!」


……キャラ変わりすぎじゃない?


「証拠ならある!そこに付いている赤いのは何だかわかるか?それは俺の血だ!先ほどバラのトゲで切ったばかりの新鮮な血だ!照合すれば誰のものかなんてすぐに分かる!」


ルシスは堂々と宣言する。

確かにそこには赤い血痕が付着していた。


周りの群集がざわつく。

中には「さっき仲間に盗んだと自慢してたぞ!」と自信満々に言うやつまで出てきた。


「なっ。そんなぁ。どうして血なんてついてるのよぉ」


うろたえるイヤリング娘を前に、ルシスは少し溜めてこう言った。


「残念だったな。俺の血液型は『()()()()()』なんだ」


ルシスらしいすごくダサい決め台詞。

でもなぜだろう。そんなルシスがいつもより少しかっこよく見えた。


……べ、別に惹かれてなんかないけどね!?

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