表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王都出店のために契約結婚した元商売敵の仕立て屋ですが、お姫様に最高のドレスと「次世代」を期待されています  作者: 蒼山りと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/30

第27話「薔薇色の宿と、乙女の悩み相談」

 王都を出て三日目。

 私たちは街道沿いにある、ひときわ大きな宿場町に到着した。

 ルネの手紙によれば、ここで落ち合うことになっている。

 馬車を降りると、宿の入り口で手を振る人影が見えた。

「エルー! セドーー!」

 ルネだ。

 彼女は満面の笑みで駆け寄ってくると、勢いよく私に抱きついた。

「久しぶり! 会いたかったわ!」

「ルネ! 元気そうでよかった」

 一ヶ月ぶりの再会。

 ルネは少し日焼けして、以前よりも健康的に見えた。そして何より、全身から幸せオーラが溢れ出ている。

 後ろから、バルドもゆっくりと歩いてきた。

「よう。遠いところ悪かったな」

「全くだ。……お前ら、随分と楽しそうじゃないか」

 セドが呆れたように言うと、バルドはニカっと笑った。

「おうよ。毎日が冒険だからな」

 その言葉に、私は手紙の内容を思い出してしまい、思わず視線を逸らした。

 冒険。実験。……うん、深く考えるのはやめよう。

「さ、中に入りましょ! 部屋取ってあるから!」

 ルネに手を引かれ、私たちは宿の中へ入った。

 ロビーは豪華で、磨き上げられた床が照明を反射して輝いている。

 チェックインを済ませ、部屋へ向かう廊下で、ルネが私の隣に並んだ。

 そして、不意に顔を寄せ、声を潜めた。

「ねえ、エル」

「ん? 何?」

「ちょっと相談があるんだけど……」

 ルネの頬が、ほんのりと朱に染まっている。

 彼女は周囲を伺うようにキョロキョロしてから、私の耳元に唇を寄せた。

「あのね……私、声がハスキーじゃない?」

「え? うん、まあ、少し」

「だからね、その……通っちゃうみたいで」

「通る? 何が?」

「……声が、よ」

 ルネは恥ずかしそうに身を捩った。

「バルドが止まらなくて、私もつい……。でも、壁が薄いと困るじゃない? 私、我慢するのが苦手で……」

 ドクン、と心臓が跳ねた。

 声。我慢。壁。

 点と点が繋がり、私の脳内でとんでもない映像が再生される。

「エルはどうしてるの? やっぱり、口を塞いでもらったりするの?」

「へっ!?」

 変な声が出た。

 顔が一気に沸騰する。

「な、ななな何言ってるのよ! そ、そんなこと……!」

「あ、ごめん! エルたちレベルになると、もう『無音の境地』なのかもね! さすが師匠!」

 ルネは一人で納得し、尊敬の眼差しを向けてきた。

 違う。そうじゃない。

 否定したいが、声が出ない。

 ルネは私の背中をバンと叩いた。

「勉強になります! ……あ、ここが二人の部屋よ!」

 通されたのは、最上階の角部屋だった。

 ドアを開けると、そこには天蓋付きの巨大なダブルベッドが鎮座していた。

 枕元には薔薇の花びらが散らされ、サイドテーブルには怪しげな色のドリンクが置かれている。

「ハネムーンスイートよ! ゆっくり休んでね!」

「……おい、ルネ」

 セドが引きつった顔で言った。

「お前らの部屋はどこだ」

「隣よ!」

 ルネは満面の笑みで隣のドアを指差した。

「壁一枚隔ててお隣さん! 何かあったら呼んでね! ……あ、でも夜中は呼ばないでね? 取り込み中かもしれないから!」

 ルネはウィンクを残し、バルドと共に隣の部屋へ消えていった。

 バタン、とドアが閉まる。

 残されたのは、私とセド。そして、薔薇の散らばるダブルベッド。

「……」

「……」

 沈黙が痛い。

 さっきのルネの言葉が、頭の中でリフレインする。

 声が通る。我慢できない。

 隣の部屋からは、楽しげな話し声と、時折ドスンという物音が聞こえてくる。

「……どうする、これ」

 セドがベッドを指差した。

「……寝るしか、ないでしょ」

 私は精一杯の虚勢を張った。

「床で寝て風邪引くわけにもいかないし。……広いから、端と端なら平気よ」

「……そうだな」

 私たちは順番にシャワーを浴び、着替えてベッドに入った。

 広い。確かに広い。

 大人二人が寝ても十分なスペースがある。

 でも。

 背中合わせに寝ているのに、セドの体温が伝わってくる気がした。

 シーツが擦れる音。規則正しい寝息。

 その全てが、私の神経を逆撫でする。

 

 ……声が、通っちゃう。

 ルネの言葉が蘇る。

 もし、私たちが本当の夫婦だったら。

 私も、あんな風に悩んだりするのだろうか。

 自分の声を聞かれて、恥ずかしいと思ったりするのだろうか。

 ……バカ。何考えてんのよ。

 私は枕に顔を埋めた。

 隣の部屋からは、微かに、けれど艶っぽい声が漏れ聞こえてきた気がした。

 今夜は、長い夜になりそうだ。

 その時。

 壁の向こうから、くぐもった声が聞こえた。

「……ちょっとバルドぉ、エルたちがいるんだよ? ……聞こえちゃう……」

「大丈夫だって。……気にすんな」

 ……聞こえてるわよ!!

 私とセドは同時に布団を頭まで被った。

 もう、絶対に寝てやる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ