第17話「魔術王子のパレードと、予期せぬダブルデート」
王都が浮き足立っている。
街中の建物には色とりどりの旗が掲げられ、通りには屋台がひしめき合っている。
「……すごい人だな」
セドが人混みを見て顔をしかめた。
今日は、隣国「マギレルム王国」のアーロン王子が来訪し、歓迎のパレードが行われる日だ。
魔法技術で発展した隣国との同盟関係をアピールするための、一大イベントらしい。
「ほら、行くわよ。隣国の衣装を見るんでしょ?」
「お、おい、引っ張るな」
私はセドの手を引いて、人混みをかき分けた。
最近、こうして手を繋ぐのが自然になってきた。セドも振りほどこうとはしない。
仕事熱心な彼は「異文化の服飾技術を視察する」と言い張っているが、私にとっては久しぶりの休日デートだ。
* * *
大通りの最前列を確保した頃、ファンファーレが鳴り響いた。
遠くから、煌びやかな山車がやってくる。
魔法で空中に浮遊する山車だ。周囲には光の精霊のようなものが舞い踊っている。
「……派手だな」
「魔法の国だものね」
山車の中央には、一人の青年が座っていた。
長い銀髪に、紫色の瞳。豪奢なローブを纏い、優雅に手を振っている。
あれが、魔術大国の王子だ。
「キャー! 王子様ー!」
「こっち向いてー!」
黄色い歓声が飛ぶ。王子はキザな仕草で投げキッスを送り、魔法で花びらを散らしてみせた。
確かに美形だが、どこか作り物めいた完璧さがある。
「……ん?」
私は王子の隣に座っている人物に気づいた。
イリシアーナ姫だ。
いつものように扇子で口元を隠しているが……目が笑っていない。
いや、笑ってはいるのだが、いつものような「獲物を狙う肉食獣のような輝き」がない。どこか、諦めたような、冷めた目をしている。
「……姫様、元気ない?」
「そうか? いつも通り高飛車に見えるが」
セドは王子の衣装に夢中で、姫の表情までは見ていないようだ。
私の気のせいだろうか。
王子が姫の肩に手を回し、何かを囁いた。姫はビクリと肩を震わせ、それでも笑顔を崩さずに頷いた。
その光景に、私は一抹の不安を覚えた。
* * *
パレードが通り過ぎると、私たちは屋台エリアへ移動した。
小腹が空いたので、何か買おうと思ったのだ。
「あ、焼き鳥あるぞ。買うか」
「いいわね。タレ多めで」
屋台に近づくと、先客がいた。
見覚えのある後ろ姿だ。
「……これ、何の肉?」
「鶏だって言ってるだろ。ほら、食えよ」
「成分分析してからじゃないと……」
「いいから食え! 冷めるだろ!」
白衣にメガネの美少女と、ギターを背負ったダメ男。
ルネとバルドだ。
「……げっ」
「おっ、奇遇だな! お前らもデートか?」
バルドが私たちに気づき、ニカっと笑った。
ルネは焼き鳥を試験管に入れるかのように慎重に口に運んでいる。
「……そっちはデート?」
「違うわよ。バルドが『珍しい魔道具が売ってるかも』って言うからついてきただけ」
ルネが即答する。
バルドがガックリと肩を落とした。
「……ってことにしとかないと、こいつ家から出ねえんだよ。研究室にカビが生えるぞ」
「余計なお世話よ。……ん、これ美味しい。あとで成分を調べてみたいわね……」
ルネは焼き鳥を気に入ったようだ。
バルドは苦労しているようだが、その表情はどこか楽しそうだ。
「……まあ、仲良さそうで何よりだ」
セドが呆れたように言う。
私たちは四人でテーブルを囲み、しばし談笑した。
「さっきのパレード見たか? あの王子、すげえキザだったな」
バルドが焼き鳥を齧りながら言った。
「ああ。魔法で服を光らせてたな。……あれ、生地自体に発光塗料を練り込んでるのか?」
「いや、あれは純粋な魔力付与ね。効率が悪いわ。私ならもっと……」
セドとルネが技術的な話で盛り上がる。
私とバルドは顔を見合わせて苦笑いした。
「……職人ってのは、どこに行っても仕事の話だな」
「本当ね。……でも、楽しそう」
私はセドの横顔を見た。
彼はルネと話しているが、テーブルの下で、私の手をギュッと握り直してくれた。
「忘れてないぞ」という合図のように。
* * *
帰り道。
夕暮れの王都は、祭りの後の気だるい空気に包まれていた。
「……あの王子の服、参考になったか?」
「まあな。ドレープの使い方は面白かった。……だが」
セドは空を見上げた。
「……なんか、嫌な感じがしたな」
「え?」
「あの王子だ。笑顔の下で、何か別のことを考えてるような……そんな目がしてた」
セドも感じていたのか。
姫の強張った笑顔と、王子の冷たい瞳。
華やかなパレードの裏で、何かが動き出しているのかもしれない。
「……ま、俺たちには関係ないか。俺たちは服を作るだけだ」
「そうね。……また明日から、頑張りましょう」
私たちは手を繋いで店へ帰った。
その温もりが、忍び寄る不穏な気配を忘れさせてくれた。
しかし、私たちはまだ知らなかった。
あの王子が、やがてこの国を、そして私たちの運命を大きく揺るがすことになるなんて。




