第11話「姫の最後通告と、秘密のドレス」
コンテストの結果は、残酷なほど明確だった。
優勝はガストン。私たちは選外。
王都の壁は厚かった。
数日後、私たちは再び王宮に呼び出された。
イリシアーナ姫は、いつものように優雅に紅茶を飲んでいたが、その瞳は笑っていなかった。
「負けたわね。ガッカリだわ」
氷のような声だった。
セドが唇を噛み締め、頭を下げる。
「申し訳ありません。俺の実力不足です」
「そうね。でも、約束は約束よ」
姫はカップを置いた。カチャン、という音が響く。
「来週のパーティーで、あなたたちの婚約式を行います。これは決定事項よ」
「は、はい……」
「もしここで失敗したら、支援は打ち切り。あなたたちは田舎へ逆戻りよ。……分かってるわね?」
姫の視線が私とセドを射抜く。
失敗は許されない。私たちは崖っぷちに立たされていた。
* * *
店に戻ってからも、空気は重かった。
セドは無言で工房に入り浸るようになった。「次の新作の構想だ」と言って、私を中に入れようとしない。
コンテストで燃え尽きたかと思いきや、また無理をしているようだ。
「……はぁ」
私はため息をついた。
問題は、婚約式で着るドレスだ。
セドは忙しそうだし、頼むわけにはいかない。私が自分で作るしかないか。
でも、日々の業務に追われて、自分のドレスを作る時間はほとんどなかった。
「……既製品でいいか」
私は店の在庫の中から、シンプルな白いワンピースを選んだ。
少しサイズを直して、レースを足せば、それなりに見えるだろう。
所詮は偽装結婚だ。豪華なドレスなんて必要ない。
そう自分に言い聞かせても、胸の奥がチクリと痛んだ。
* * *
婚約式の前夜。
私が既製品のワンピースにアイロンをかけていると、工房のドアが開いた。
セドが出てきた。目の下に隈を作っているが、その表情は晴れやかだった。
「おいエル。ちょっと来い」
「え? 何?」
私は彼に連れられて工房に入った。
そして、息を呑んだ。
部屋の中央にあるトルソーに、一着のドレスが飾られていた。
純白のシルク。しかし、ただの白ではない。光の当たり方で、淡いピンクやゴールドに輝く、魔法のような生地だ。
デザインはシンプルだが、ドレープの美しさが際立っている。私の体型を完璧に理解していなければ作れない、究極のシルエット。
「これ……」
「お前のためのドレスだ。婚約式用にな」
セドがぶっきらぼうに言った。
「えっ? 私が作ろうと思ってたのに……」
「は? お前が?」
セドは鼻で笑った。
「俺の妻になる女に、既製品なんか着せられるかよ。……俺が作った方が、百倍いいに決まってるだろ」
「……」
私は言葉を失った。
彼はこの一週間、寝る間も惜しんでこれを作っていたのだ。私のために。
「……着てみろよ」
促されて、私はドレスに袖を通した。
サイズは完璧だった。まるで第二の皮膚のように、体に吸い付く。
鏡の前に立つと、そこには今まで見たこともないほど綺麗な私がいた。
「……どうだ?」
セドが鏡越しに私を見ている。少し不安そうな顔で。
私は胸がいっぱいになった。
でも、素直に「ありがとう」と言うのは、なんだか悔しかった。
私は鏡の中の自分を、わざとらしく色々な角度から眺めてみせた。
「へぇ……。やるじゃない」
「だろ?」
「サイズもぴったりだし、ラインも綺麗。……ふふっ」
私はニヤリと笑って、彼を振り返った。
「ねぇセド。こんなに気合入れちゃってさぁ」
「あ?」
「もしかして、私に惚れちゃった?」
「はあ!?」
セドが素っ頓狂な声を上げる。
「だって、これ『最高傑作』でしょ? 愛がなきゃ作れないわよ〜?」
笑いが抑えきれなかった。なんだ、セドったら。ずっとこれ作っていたんだ。
「笑すなよ……調子に乗るな!」
セドは顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。耳まで赤い。
「これは仕事だ! 俺の隣に立つんだから、恥ずかしい格好はさせられないだけだ! 勘違いすんな!」
「はいはい、そういうことにしておいてあげる」
私は鏡の中の自分に向かって微笑んだ。
偽装結婚かもしれない。でも、このドレスに込められた想いだけは、本物だと信じたかった。




