第9話 管理者としての務め
合宿3日目。今日も朝早くに起きて、みんなは本部の1階広場に集まった。
訓練ではないのでラフな格好をしている。
「今日は、昨日話していたように見学に行く。行き先はここ天界第七階層中枢国『ヨクト大帝国』の中心都市アルゲストにある、全越宇宙第一正門だ。」
「みんな学校で習ったように、我々の使命はバグの根絶と世界の管理だ。今日はその内の世界の管理について学んでもらう。
まあ管理の仕事は国家機密で関われるのは『権』以上の称号を持つ者と決まっているから、見学という名目で連れて行く。」
ミルとザイオンはそれぞれ指示を出し、みんなを送迎バスに乗せた。バスは左右それぞれ3列づつある超大型。もちろんこのバスも祓魔師専用で全自動だ。
「なんだか遠足みたいで楽しいね。」
「ワクワクするわ。」
みんな昨日の訓練も相まって、とても楽しそうだ。
「そういえば、さっきザイオン様が学校とか言ってたけど、学校でそんなの習うんだね。」
不意にヴィジが質問をした。それに対しウェントが優しく答えだした。
「そっか、ヴィジくんは学校とかよくわかってなかったね。普通の教育機関の学校とは少し違って、祓魔師になるための学校、祓魔師育成学校っていうのがあるんだよ。いわば専門学校。本来ならそこに通って、年に一度行われる『最終実力試験大会』という学校内の大会に出て、それぞれの軍からスカウトを貰うことで祓魔師になれるんだよ。」
「そうだ。お前みたいに直にスカウトされる奴も稀にいるけど超レアケースだ。まぁお前の場合、世界で2例しか存在しない創造主不明な天者だからレアなんてもんじゃないが。」
「まー、こんな上手くいくもんじゃないよね普通。自分の存在が異常だってのは何となく理解してきた頃だよ。今まではただの孤児だって思ってたけど。」
ヴィジは自分探しの目的を今一度思い出した。
「ちなみに聞かれる前に説明しておくが、創造主っつうのは俺たちの根源。天界なら『原初の天使』、地界なら『原初の悪魔』のことを指す。天使や悪魔は天者や地者よりも高位の存在で、この世界を創った創造神でもあるな。まぁ、伝説や御伽噺みたいなものだから詳しく知らない。ミル様にでも聞いてみな。」
ヴィジは本でその存在を知っていたが、なるほどとうなずいて見せた。
さて、そんなこんなしていると、大規模な施設が現れた。
「なんか急にデカイ施設が見えてきたぞ!」
「あぁ、国家機密機関だからな。敷地内に入らないと見えない結界が張ってあるのさ。通常はここまで辿り着けないけど。」
そして、ようやく目的地に到着し、中央にある一番巨大な建物に入っていった。
ザイオンがこっちだよと誘導する。
「さぁ着いたよ。あれが全越宇宙第一正門だ。」
「「おぉーー!」」
建物の中心に巨大な筒状の施設があり、側面に観察用の窓がある。その窓から下を見ると、半径5m程の赤、青黒い球状の領域がメカメカしい機械の中央にある。
その異様な光景に隊士のみんなは釘付けだ。
ヴィジは入隊してまだ5日しか経ってないのに、様々な新しい体験が多すぎて少し気疲れしている。
みんなガヤガヤしていると、
「ようこそおいで下さいました。わたくし、全越宇宙第一正門の代表管理責任者、『主』のアンタナと申します。」
と、黄緑髪の綺麗な女性が挨拶をしてきた。
「アンタナ。今日は急にすまなかったね。」
「お気遣いありがとうございますザイオン様。それではごゆっくり御見学ください。」
アンタナはそう言うと、またどこかに歩いていった。
「はいっ。ということで、まずは業務内容を説明していこうか。着いてきて。」
みんなは奥の教室みたいな部屋に入り、詳細の説明を受けることになった。前に映し出されたプレゼンテーションを見ながら話を聞いている。
「まずこの施設は全越宇宙兼瑕疵総合研究施設・常世第一正門管理研究センターと言って、全越宇宙の研究と管理、バグの研究や実験などを行っている、この階層で一番大規模な施設だ。
この正門はそれぞれ天界第一から第七階層に1つづつあり、裏門が地界第一から第七階層に1つづつある。
そして我々の責務である管理の内容は、月に1回程度宇宙や多元宇宙といった構造に異常がないか確認し、あれば適切に対処するというもの。」
みんな一生懸命メモをとっている。
「重要なのはそのやり方だ。まず全越宇宙に入る場合、一番大事なのは行く世界のプログラムにアクセスし、認証を済ませる必要がある。
そもそも、我々のプログラムコードは当たり前に下々の世界に対応していない。法則や概念、理、次元の異なる世界にそのまま侵入するという事は、多元宇宙を宇宙に押し込むような行為だ。
要するに内包出来ないものを無理やりねじ込んだらどうなるかってこと。もし、これをやらなかったら...」
ザイオンが怖い声で話し出し、みんなはゴクリと唾を飲み込んだ。
「我々という存在を処理できずバグり散らかし、少しでも動こうものなら、そこから放たれる莫大なエネルギーによって最悪全越宇宙がぶっ壊れる。」
それを聞いた隊士達はヒョエーっと驚いた顔をした。
「そ、そんなことになったら...」
「まぁ、過去にやらかしたヤツはいるよ。その度に各階層の代表管理責任者が修復してたわ。まぁ、自分達でやらされてたヤツもいたけど。」
「修復できるもんなんですね。」
隊士達は少し安心した。
「説明を続けるよ。この世界は『創造』、『破壊』、『観測』の3つの基本的三位概念から成り立っていて、それぞれ天界、地界、現世が司っている。その役割に基づき、異常が生じた世界を地者が破壊し、天者が再構築する。その異常の捜索と現場指揮を現世から人間がサポートするんだ。
宇宙と宇宙、多元宇宙と多元宇宙などの構造の狭間には『ボイド』と呼ばれる空間があり、そこにその世界の全ての情報が詰まってる『アカシックレコード』と、それを管理する『GOD』というプログラムが存在する。我々がする管理などは通常このボイドで行うんだ。ちなみに正門の上と下にあったメカメカしい機械が『Oアカシックレコード』だよ。
ということで説明してきたけど、何か質問はあるかな?」
一通りの説明が終わり、質問タイムに突入した。みんなここぞとばかりに手を上げている。
「はい!世界を再構築するって自分達にもできるんですか?」
隊士の1人が質問する。
「いい質問だね。元々天者や地者には世界を管理する"権限"が与えられていて、それぞれアカシックレコードから情報を読み取り、修正、保存して再構築する事ができる。その気になればゼロから世界を創る再創造なんかもできるよ。」
「正門と裏門の違いは?」
「特にないよ。天者、地者専用って訳でもないから、どちらからでも行けるよ。通常は一緒に入るけど、別々のところから入る可能性もあるから。」
みんなはそれぞれ質問し、再び施設の見学に戻った。
「ここはバグの研究所。宇宙などでも幽霊などのバグが発生するため、それを研究してこの世界の問題を解決しようとしているらしい。
膨大なエネルギーによって負荷をかけ、人為的にグリッチを発生させる実験もしてるよ。」
「へぇ~。ミル様も能力でグリッチ発生させてましたよね?」
「...気のせいじゃね。」
正門の見学を済ませ、周りの施設も見学を始めた。
ここにいる研究員はみんな軍に雇われた人たちなので、ミルもザイオンも変装していない。
「その向こう側は神力の研究所だね。神力や魔力などのルーツや、みんなもご存じ神力発電の研究も行っている。施設内は立ち入り禁止だね。我々の神力が邪魔になるから。」
「あー知ってる!パパも研究してるんだよね。」
「早く実用化されないかなぁ。」
「まぁ、完成は近いみたいだね。」
超最前線の研究にみんなワクワクが止まらない。
その他にもウイルスに感染した生き物の治療法の研究や、世界のプログラムの研究など様々な施設を見学し、あっという間に昼休憩の時間になった。
「午後からは仮想宇宙にいくぞ。みんなも知っての通り、仮想宇宙だけは娯楽施設としてみんなが出入り出来る。もちろん自由時間も設けるが、目的はその理由と運営の裏側を知ってもらうことだ。」
それを聞いた隊士達の目の色がみるみる変わっていった。
「嘘だろ!?人気すぎて予約が全く取れないで有名な仮想宇宙に!?」
「アタシずっと行ってみたかったのよね。」
「私も~。」
レイ達も歓喜の声を上げている。
「じゃっ、そういうことなんで楽しみにしとけよ。」
ミルはそう言うと、ザイオンと一緒にどこかへ行ってしまった。みんなはこの後待ち受ける地獄を知る由もないのであった。
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〈主な登場人物〉
ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公
レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。
フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。
ウェント〈神ノ加護:炎魔法〉:優しい性格の持ち主。頭が良く、判断力に優れている。
ネリン〈神ノ加護:サイコキネシス〉:天真爛漫で活発な性格の女の子。頭はあまりよろしくないが、攻撃力はピカイチ。
ミル:常世零階層を統べる大君主。厨二病でお調子者。とても寛大。
ザイオン:天界第七階層を統べる『最強』の大君主。その実力とは裏腹に内気で超臆病な性格。




