第6話 強化合宿開幕
一夜明け、いよいよ合同訓練の始まりだ。早朝から訓練場にみんな集まった。
訓練場はとても広大な自然のグラウンドだ。
「今日から親善大会に向けての、合同訓練を開始する。
実戦経験が皆無なお前たちは、まずは対人経験を積んでもらう。」
ミルがそう言うと、
「ザイオン軍のみんなも同じだからな。お互い高め合えるように頑張ってね。」
と、ザイオンも言葉を述べた。
「よしっ。まずは実力を測るために、ダミーバグと戦ってもらう。」
ミルが手をかざすと、ピピピッという電子音と共に色違いのダミーバグが3体現れた。
「おさらいとして、バグにも階級がある事は知ってるな。」
ヴィジは知らなかったという顔をする。
「強さ順に――、
〈〈下位三階級〉〉
〈α〉:武装すれば一般人でも勝てるレベル~弱い能力者レベル。
〈β〉:称号なし~『大』レベル。
〈γ〉:『権』レベル。
〈〈中位三階級〉〉
〈λ〉:小都市破壊レベル。
〈μ〉:都市破壊レベル。『能』レベル。
〈ν〉:複数都市破壊レベル。
〈〈上位三階級〉〉
〈Φ〉:国家滅亡レベル。『力』レベル。
〈χ〉:複数国家滅亡レベル。『主』レベル。
〈ψ〉:χ以上のレベル。
〈〈特別階級〉〉
〈ω〉:世界終焉レベル。
となっているぞ。
我々同様、力の源となる核を破壊すれば消滅する。
今回のダミーバグはそれぞれ、白がα、グレーがβ、黒がγに対応している。」
「世界終焉レベル...」
何も知らなかったヴィジはスケールの大きさに驚きを隠せなかった。
「まぁ上位レベルになってくると、バグ単体というより、事案のレベルでしか聞かないけど。
ちなみに『システムの墓場』はψ級案件だったんだぞ。」
「はいはい、おしゃべりはその辺にしてそろそろ始めようか。
じゃあミルよろしく!」
ザイオンが手をパンパンと叩いた。
「任せろ。」〈完璧なる法典:生成〉
またミルが手をかざすと、今度は電子音と共に巨大なキューブ状の部屋が3つ連なった施設が出現した。
「おぉー、これがミル様の能力かぁ。」
「初めて見たよー。」
みんなミルの力に釘付けになった。ミルは得意気な顔だ。
「この中にそれぞれ1人づつ入り、その部屋のダミーを倒せたら次の部屋に移動できる。
危険な場合は強制的に部屋の外へ、無傷の状態で転送されるから安心しろ。」
そう言うと、
〈完璧なる法典:複製〉
と唱え、今度は施設が人数分複製された。
みんなそれぞれ部屋の前に行く。
「それではスタートーー!」
合図と共に一斉に部屋の中へ入っていった。
「一部屋目はαダミーが5体か。」
ヴィジは冷静に状況を把握しながら攻撃を仕掛けた。
「無駄な神力を消費しないように...」〈霊力剣〉
そう言うと、ヴィジの手から青白いオーラが溢れ、剣の形を成していく。
自らのオーラで剣を作り必要最低限の力でダミーを倒そうとした。
剣に力を込め、キィンと、澄んだ音を立てながら、次々にダミーを倒していく。
「剣技は練習したばかりだから、ここで上達しないと。」
そして、キンッという鋭い音と共に最後のダミーを倒しきった。
「まだまだ余裕だ。」
余力を残したまま二番目の部屋へ進んだ。
「二部屋目はβダミー3体...まだいける。」
部屋に入るとダミーが先制攻撃を仕掛けてきた。とても素早い動きで距離を詰め、ヴィジに一撃を入れる。
(速いな...だが威力が弱い。これなら...)
ヴィジは攻撃をオーラのバリアでガードし、剣でダミーに攻撃した。しかし、少し傷がついた程度でビクともしなかった。
「慣れない攻撃で倒せる相手じゃないかぁ。それなら。」〈霊力破壊〉
剣で倒せないので、強力な爆破技でダミーを1体倒した。そして、
「まずは1体目。しっかり威力は制御できたな。ならば次は、一気に広範囲を削り取る...」〈霊魂滅波〉
と、球状の範囲攻撃を放つ。
放たれた光球は空間を切り裂くように膨張し、衝撃波が部屋を満たす。
残りの2体は霧のように消えていった。
「ふぅ〜...ここまで技を連発したことがないから疲れるなぁ。」
ヴィジは一息ついて最後の部屋に向かった――。
一方その頃、他の4人は最後の部屋で苦戦していた。
「くそっ、γ級を2体相手にするなんて無理だ。」〈雷光線〉
「ハァハァ、ビクともしないわ。」
ミルとザイオンは苦戦するみんなを観戦しながら、
「レイも退場したし、残ってるのは6人くらいか?ネリンは地形や環境を活かして戦う能力だから、少し可哀想だったか。」
と、みんなの実力を見極めていた。
「あ~あ、ダメだった〜。」
「くそっ、惜しかったぜ。」
テストが終わった隊士達は、外で他の隊士が終わるのを待っていた。
「あのダミー、事象改変能力を持ってるのか?」
「そうだね〜。炎やら風やら出してきて、アタシの能力はほぼ無効化されてた〜。」
「僕のダミーは風や氷を操ってたな。各々の苦手なタイプで戦ってくるってことか。
あの『完璧なる法典』って能力、相当だな。何とか勝てたけど。」
「え!?ウェント勝ったんかよ!」
「う、うん。高範囲攻撃で丸ごとね。」
「マジか〜。」
ウェントは何とか勝てたようだ。そして、
「みんな〜、負けちゃったよ〜。」
と、フラクタも戻ってきた。
「フラクタも負けたのか。」
「惜しかったなぁ。私達のチームで残ってるのはヴィジくんだけかぁ。」
「でも、あいつならやってくれる気がする。」
レイがそう言うと、みんなはそうだねとうなずいた。
みんなヴィジに淡い期待を抱いていた。
――ヴィジは苦戦しながらも何とか猛攻に耐えていた。
(オーラの操作が慣れてないから、防御と攻撃を同時に使えない。一撃でやろうにも隙がない!)
素早い動きのダミー2体に防戦一方になっている。剣で最低限の反撃はするものの全く歯が立たない。
「うわっ!」
剣で攻撃しようとすると、もう一体が風やら炎やらで邪魔をしてきて、バランスを崩す。
「特別強い能力を持ってる訳でもないのに、単純にスピードで押されている。こうなったら、あれを試すしかないか...」
ヴィジはそう言うと手を胸に当て、力を集中させた。
(攻撃は最大の防御。攻撃と防御を同時に使えないなら、攻撃で防御すればいい。)
ヴィジはすぅーっと息を吸い込んで、
「いっけぇぇぇぇ!!」〈天使の梯子〉
と、ダミーが攻撃を仕掛けたタイミングで、ヴィジは胸に溜めた力を一気に解放した。
その瞬間、神々しい光の柱が施設の天井を突き破って伸びていく。まさに天に昇るための梯子の様だ。
「こ、これは!?」
「あれは、なんだ?」
みんなはその見たこともない能力に唖然としている。
「面白い奴だね、ミル。あんな抽象的な能力、僕でもほぼ見たことないかも。」
ザイオンはミルにそう問いかけた。
「あいつらはとてつもないポテンシャルを持っていながら、それを発揮できてない。窮地に追い込まれると、人は成長するもんだ。
ヴィジの場合は威力はとんでもないが戦闘センスが皆無だな。」
「...それが目的か。」
ザイオンは納得したようにうなずく。
「まぁ、ヴィジもまだまだ掴みかけだ。ようやく土俵に上がったって感じで、まだまだこれからさ。」
ミル達はそう言うとみんなを集めた。
「今日の訓練の目標は自身のポテンシャルを引き出すことだ。単に力を伸ばすということではなく、今ある力で出来る最大値を引き上げるということだ。
例えば強くなるために人は筋トレをするだろ。確かに筋トレをすれば力は強くなれるかもしれないが、戦いが強くなることとは別問題だ。
どんなに相手が力強くても、回避、防御、攻撃、戦い方を知っていれば非力でも力の強い相手に勝つことが出来る。
まぁ、そんなところだな。」
「具体的にどうすればいいんでしょうか。」
「簡単だ。覚醒せざるを得ない状況を作り出せばいい。」
ミルがニヤリと笑った。
「それって...」
「今回は5、6人ペアのチームを作って戦ってもらう。
相手は...俺とザイオンだ。」
「!?」
一瞬で空気が変わった。みんな恐怖で怯えている。膝がガクガクだ。
「安心しろ、能力も一部の一部しか使わん。」
「それでも全く安心できないんですけどぉ...てか一部の一部って...ミル様の神ノ加護は一体どんな能力なんですか!?」
「ミルの神ノ加護を知っているものはいない。」
ザイオンがゆっくりと話し始めた。
「ミルがさっき使った『完璧なる法典』も能力のほんの一部に過ぎない。ミルが好んで使う能力なので、一部の祓魔師はこれが神ノ加護だと思っている者もいる。
でも実際は違う。僕が知っているだけでも相当な数の能力を持っている。
そして、僕の『解析』や『開示』の能力を持ってしても能力の全容を把握することは出来なかった。」
「未知ってロマンがあるだろ。謎に包まれていた方が魅力的に見える。
お前が俺の能力を解析出来なかったのは、無効化や事象改変といった能力を持っていたからだね。」
ミルはドヤ顔をして見せた。
「そんな小細工で僕の能力は無効化出来るものではないんだけどなぁ。」
「それを聞いてますます怖くなったんだけど。」
みんなの顔は青ざめていた。虫の息だ。
「まっ、覚醒が目的だからある程度の恐怖は必要か。」
「それじゃあさっそく、前半僕の後半ミルで行こうか。」
それぞれの実力測定も終わり、本格的な訓練に突入した。
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〈主な登場人物〉
ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公
レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。
フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。
ウェント〈神ノ加護:炎魔法〉:優しい性格の持ち主。頭が良く、判断力に優れている。
ネリン〈神ノ加護:サイコキネシス〉:天真爛漫で活発な性格の女の子。頭はあまりよろしくないが、攻撃力はピカイチ。
ミル:常世零階層を統べる大君主。厨二病でお調子者。とても寛大。
ザイオン:天界第七階層を統べる『最強』の大君主。その実力とは裏腹に内気で超臆病な性格。




