第5話 大君主ザイオン
初任務の翌日。
「早速だが、今日は自分がみんなの面倒を見る。よろしく!」
「み、み、み、ミル様が目の前にににににに...」
「うっそ、ホントに!?すっごいイケメンじゃーん!」
初めて実物を見たウェントとネリンは、大興奮のご様子。
お前らなぁ、とダクラがため息を着く。
「お、おぅ...ん"ん"ん"っ、今日から一週間、ザイオン軍との合同訓練合宿に行く。」
ミルがそう言った瞬間、空気が凍った。
「ざ、ざ、ざざざざ、ざぁぁぁーーーー!!」
「レイ、うるさいぞ。」
「う、ウソでしょ!?あのザイオン様の...」
「軍ってことは大君主ですか?」
ヴィジは相変わらず冷静に質問をする。
「無知もここまで行くと怖いぞ。」
レイは呆れながらも答え始めた。
「いいか、ザイオン様は天界第七階層の支配者。『最強』の大君主と謳われる絶対的な存在だ。」
「その通り。ザイオンは大君主四天王の一人で、最強を冠する人物だ。そして俺のマブダチさ。」
「そんな人とマブダチだなんて、ミル様はすごい人ですね。」
「うんうん。そこまででもあるな。という事で、ダクラは留守番よろしく!」
「はぁ、わかりましたよ。せっかくの休みなのに。」
「それではしゅっぱーつ!」
そう言うと、軍の全自動航空機に乗り込んだ。
「飛行機で行くんですね。」
出発してしばらくすると、レイがそう尋ねた。
「あぁ。自分の力を使えば階層間の移動など一瞬だが、それは合法的ではないし、すぐ着いたって面白くないだろ?
やっぱり旅行気分を味わわないと。」
「そうですね。第七階層は行ったことないので楽しみです!」
「アタシも〜。」
「僕たち全員行ったこと無いんじゃないかな?気軽に行けるような場所ではないし。」
どうやら5人とも初めてらしい。
「みんな初めてなのかぁ。
階層転移所までは約1時間くらいだ。ゆっくり出来るぞ。
ザイオン達の事について知りたい事があれば教えてやらんこともない。」
「あのー。」
「はいっ、ヴィジくん!」
「ザイオン様のことと言うより、大君主四天王ってなんですか?」
「いい質問だ。大君主四天王はその名の通り、特に力を持った4人の大君主のことだ。
『最強』の大君主、天界第七階層のザイオン。
『最恐』の大君主、地界第七階層のモート。
『最狂』の大君主、天界第六階層のロウ。
『最凶』の大君主、地界第六階層のジェスト。
序列はだいたい階層順になっている。これプラス4人を含めた大君主八仙ってのもあるけどな。」
「なるほどー。」
「ロマンがあるわよね〜。」
「そうだな。ザイオン様はその中でも最強と名高い。少し怖いが、会えることはこの上ない幸せだ。」
「でもそうね。最強なんてちょっと怖いわ。」
フラクタがそう漏らした。
「あー、ある意味怖いかもな。」
「?」
「まっ、会えばわかるさ。俺の友達に怖いやつはいない。1人例外がいるが。
いや、全員ヤバいやつだな。」
「余計不安になってきましたよ。」
「ふふん。レイは臆病ね。」
「大君主の前で怖気づかないやつのほうが珍しいよ。」
みんなでわちゃわちゃしていると、階層転移所が見えてきた。
「よしっ、そろそろだな。」
ミルがそういうと身体の周りが光だし、女の子の姿に変身した。
みんなより年下くらいでちっこい。
「えぇ!?」
一同が目を丸くした。
「この姿はお出かけ用のラフな格好だ。うちの姿なんてあまり知られてないけど、騒ぎを起こさないための変装でもある。
まぁ、全く知られてない訳ではないぞ。みんなだいたいの雰囲気やイメージはわかるからな。」
「く、口調も変わってる。」
「まぁ、早く行くよ。」
転移所に着くと、そこには筒状の巨大なエレベーターのような装置がいくつも並んでおり、多くの観光客で賑わっている。
「これが階層間転移エレベーターかぁ。」
「初めてみたわ。」
5人は初めて見る光景に目を光らせている。
さっさと受付を済ませ、転移装置の中に入った。
「行き先は七階層っと。」
装置のボタンを押すと、一瞬で第七階層に転移した。
「よし、着いたよ。」
「「「「「うわぁーーー!!」」」」」
転移所を出ると、そこにはまるで別世界のような景色が広がっていた。
近未来都市のようだ。
「凄すぎる!」
「後で観光に連れていくから、まずはザイオンに挨拶しに行くわよ。」
「オーキードーキー!」
「ここからは普通にうちの転移で行くからね。」
そういうと、みんなを連れて一気にザイオンの元へ移動した。
「ミル達はもうすぐ来るのかな?」
「恐らく、直に到着するものと思われます。」
ザイオンとその側近がそんな会話をしていると、派手な演出と共にミルたちが目の前に現れた。
「来たぞ〜!」
「うわぁぁぁ!不審者だぁぁぁ!!」
「落ち着いてくださいザイオン様。ミル様です。」
ミルは元の姿に戻ると、
「ははっ、お前は相変わらずだな。久しぶり!」
と、挨拶をした。
「『ははっ』じゃねぇよ!死ぬかと思ったわ!!」
ザイオンは半泣きでそう叫んだ。
「安心しろ。大君主は死なない。」
「そういう問題じゃねぇ!」
「こ、これがあのザイオン様...」
怖い人だと思ってたフラクタは言葉を失った。少し引き気味だ。
「そうだ。こいつは内気で超臆病なんだよ。ある意味怖いだろ。」
「確かに...」
ウェントがうなずく。
「ま、まぁ何はともあれよく来てくれたね。僕の名前はアビス・ビル・ザイオン・ヨクトだ。よろしくね。」
「俺同様、そこまでかしこまる必要は無い。楽にしていいぞ。」(なぜフルネーム?)
「それ僕が言うセリフなんだけど。まぁいい、訓練は明日からだから観光でもしに行こう。」
「え?お前も来んの?暇なの?」
「君にだけは言われたくない。」
そう言うと、7人で観光に出かけた。
「ザイオン様とミル様2人が並んでるなんて。ありがたき幸せ。」
「ウェントくんが限界化している。」
「ヴィジくんも尊いと思うでしょ。」
「ま、まぁね。」
「街歩きも疲れてきただろうし、次は自然豊かな場所に行きますか。」
ザイオンのガイドのもと、みんなは観光を楽しんでいた。
ミルは相変わらず女の子の姿だが、ザイオンはサングラスで変装している。
「今から桃源郷へ向かう。神聖な力で溢れている隠れパワースポットだよ。」
「桃源郷!?あの伝説のユートピアですか!?」
フラクタが驚いた声を出した。
「うん、一部の祓魔師しか知らない特別な場所でね。
まぁ知ってたとしても辿り着けないだろうけど。」
ザイオンはそう言うと、指をパチンと鳴らした。すると光がたちまち体を包み込み、桃源郷へと転移した。
「さぁ、着いたよ。」
「「「おぉーー!」」」
「すっげー!」
「ここが、桃源郷...」
そこには果てしなく広がる大自然が広がっていた。
どこか『和』の雰囲気が漂っている。
「実は、桃源郷は天界第五階層に繋がってる異空間にあるんだ。橋のような役割だったのさ。
かつては神獣などもいて、誰もが来れる憩いの場だった。仙人と呼ばれる人達の修行にも使われていたんだよね。
でも、色々あって桃源郷への道は絶たれ、今のような伝説上の場所になったんだ。」
「そんなことがあったのかぁ。」
ヴィジは深く関心を持った。
「そうだね。でもそのおかげで、誰にも邪魔されない楽園のような場所になったんだ。こうして丘の上に寝転ぶと気持ちがいい。」
「ミルはうちに来る度に桃源郷へ行くんだ。」
「確かに、一生眺めてても飽きない程の壮観ですもんね。俺もここ好きです。」
「アタシも気に入ったよ。ここで穏やかに暮らしたいなぁ。」
みんなはしばらく桃源郷を満喫したあと、本部へ戻った。
「いやー楽しかった!」
「僕も御2人と観光できて楽しかったです。感激でした。」
「私は少し疲れたわ。」
「ここには温泉もあるから、入っておいで。その後は食事だね。」
「ありがとうございます。」
みんな温泉に入り、食事の会場へと向かった。
会場には、訓練を共にするザイオン軍の下級隊士が10人ほどいた。
「改めて今日は集まってくれてありがとう。訓練は明日からだが、懇親会という事で今日は親睦を深めてくれ。
それでは乾杯!」
カンパーイ!とみんな言って、食事が始まった。
「あれがミル様?ウワサ通り美しいわ。」
「俺たちがザイオン様とミル様と同時に会えるなんて。」
「君も象徴がないんだね!」
「あなたの住んでる場所はどんな所なの?」
「ミル様ってどんな人?」
「こっそり能力教えて。」
お互い始めての合同訓練という事もあり、別階層の住人に興味があるようだ。めちゃくちゃ食い気味に質問してくる。まるで尋問だ。
「まずは自己紹介からだな。」
と、5人はそれぞれ自己紹介をした。
「あいつら早速打ち解けてるな。」
「そうだね。全ての階層がこうあればいいのに。」
「俺が他の大君主からよく思われないのは仕方ないからな。」
「でも、本当によく思ってないのは2人くらいじゃない?」
「ふっ、そうだな。あのとき――。」
ザイオンとミルも2人で昔のことを語り合っていた。
その後も、みんなお互いのことを話し合って、遅くまで懇親会を楽しんだ。
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〈主な登場人物〉
ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公
レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。
フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。
ウェント〈神ノ加護:炎魔法〉:優しい性格の持ち主。頭が良く、判断力に優れている。
ネリン〈神ノ加護:サイコキネシス〉:天真爛漫で活発な性格の女の子。頭はあまりよろしくないが、攻撃力はピカイチ。
ダクラ:大君主の側近、主の称号を持つ。真面目な性格。
ミル:常世零階層を統べる大君主。厨二病でお調子者。とても寛大。
ザイオン:天界第七階層を統べる『最強』の大君主。その実力とは裏腹に内気で超臆病な性格。緑がかった髪色で整った顔をしている。人間で言う22歳くらいの見た目。年齢不詳。




