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回帰○(リターン・ゼロ)~平凡な俺の前世が『神』だった~【神話編】  作者: トランス☆ミル
第六章 小さな厄災編

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第41話 パトロール

 アートが来た翌日の朝。


「おはよ〜」


 寮の共有スペースのソファにちょこんと座っていたアートが、猫耳をぴこぴこ動かしながら手を振った。


 その隣にはまだ眠そうなフラクタとネリン。寮の部屋は基本3人部屋で、アートはフラクタ達の部屋を使うことになっていたのだった。


「おはよ」


 まだ眠そうな男子3人が、順番に顔を上げる。


「おはよう、男子達」


 ネリンがあくびをしながら挨拶する。


「おはよ。今日は任務入ってなかったよね」


 ヴィジはコーヒーを淹れながら口を開いた。


「えぇ。今日はパトロールだけよ」


 フラクタが淡々と答えると、アートが両手をぱん、と打ち合わせた。


「じゃあ、さっそく行こー!」


 有無を言わせぬ笑顔。


「いや、まだちょっと……」


 ヴィジ達は一瞬だけ視線を交わす。


 すると、


「待つんだアート。俺も同行する」


 と、背後から低い声が響いた。


 振り返ると、そこにはダクラが立っていた。既に隊服を着ていて、いつもの無表情。


「ダクラ様も来るんですね!」


 レイが少し驚いたように言う。


「今回は見張り役だ。問題が起きないとも限らんからな」


 ダクラは少し怖い声を出す。


 その言葉に、空気がわずかに引き締まった。


 アートだけは「わーい! ダクラも一緒!」と無邪気に跳ねている。


「では、アートもこんな感じだし、直接寮から出発するぞ。早く準備をしてくるんだ」


「ま、まじすか……」


「朝飯は途中で買うんだな」


 そうしてみんなは、ダクラに言われるがまま、寝ぼけた目を擦りながら準備を済ませた。




 諸々の準備を終えたプリムンズは、寮を出て街へ向かった。


 朝の街は穏やかな喧騒けんそうに包まれている。


 露店の準備をする商人、通学途中の子供達。冬の空気は冷たいが、陽はやわらかい。


「平和だねぇ」


 アートはくるりと一回転し、楽しげに歩き出す。猫耳がぴこりと揺れた。


 その背中を、ダクラは無言で見つめる。


「東区から回る。異常があれば即報告だ」


「「了解」」


 プリムンズは隊列を組み、街路へ踏み出した。


 街のパトロールは、意外と平和だった。


 露店のおじさんが「今日もいい天気だねぇ〜」と声をかけてくる。


 子供たちがアートの猫耳に興味津々で近づいてくるが、アートは「にゃー!」と可愛く返事して追い払うふりをする。


 子供たちはキャーキャー言いながら逃げていく。


「アート、ちゃんと並んで歩けよ。迷子になったら面倒だぞ」


 ダクラがため息混じりに言う。


「アートちゃんって、現世うつしよで何をしてたんですか?」


 道中、ヴィジがダクラにそう尋ねた。


 すると、前を歩いていたアートが振り返り、話し始める。


「あたしは現世でけんきゅう? をしてたんだよ」


「研究……なんの?」


「さぁ、知らな~い」


 そんな風に雑談をしながら歩いていると、路地裏からにじみ出るような薄い魔力の揺らぎを感じた。


 どうやら低級の魔物のようで、影のように蠢いている。


「これくらいなら」


 ヴィジが小さなオーラの球を飛ばす。


 ――ポンッ


 光球が魔物に命中すると、小さな音と共に霧散した。


 後ろでアートが「えー、私がやりたかった〜」と拗ねている。


「まだだ」


 そんなアートをダクラが短く制する。


「つまんなーい」


 アートが頰を膨らませる。


 ダクラは無言でアートの頭を軽く叩いた。


「よし、今度はあっちだ」


 それからみんなは、街外れの森もパトロールする。


 木の葉を踏みしめながら、山道を歩いていく。


「う~ん、空の色が少し違うけど、天界ヘブンはやっぱり現世と変わらないね」


 アートはそう言いながら、軽い足取りでのんきに先へ進んでいく。


 久しぶりの常世とこよで、気分が上がっているのがよくわかる。


「現世ってどんなところなの?」


「現世はねぇ、天界とあんまり変わらないけど、居心地が良い場所だよ!」


 フラクタの質問に、アートは嬉しそうに答えた。


「へぇ~、俺も早く階級上げて、行ってみてぇなぁ。」


「そうだね」


 アートの話を聞いて、レイとウェントも反応する。


 こうしてみんなは、少しずつ距離を縮めながらパトロールを続けた。




 その後も、昼近くまで特に大きな事件は起きなかった。


「このまま平和に終わればいいんだけどね」


 ネリンが呟く。


「油断はするなよ」


 そんなネリンに、ダクラは静かに警告した。


 それからパトロールのルートを少し変え、街外れの丘へ向かった。


 見晴らしのいい、普段は人が少ない場所。


 風が強く、草がざわめいている。


「……ん?」


 ヴィジが最初に気づいた。


 丘の斜面に、黒い影が一つ。


 狼くらいのサイズの、低級魔物。


 牙を剥き、唸っている。


「こんなところに……珍しいな」


 レイが肩をすくめる。その瞬間、


「私、やるー!」


 と、アートが目を輝かせて飛び出した。


「あっ、待て! アート!!」


 それを見たダクラが引きつった顔で叫ぶ。


 しかし、


「大丈夫だって、ダクラ」


 と、アートは聞く耳を持たない。


 間もなく、アートは無邪気に手を振り上げる。


「まずい! みんな伏せろ!!!」


 ダクラは今までに見たことのないほど焦った声で、5人に呼びかけた。


 5人はその声を聞いて反射的に伏せる。


「えいっ♪」〈絶対なる法典(アブソリュートコード)削除デリート


 可愛らしい声。


 次の瞬間、世界が歪んだ。


 ビビビッとグリッチのようなものが、アートの小さな掌からほとばしる。


 それと同時に空間に脈が走り、放たれた黒い光は魔物を飲み込み、周囲の岩を、木を、地面を、粉砕した。


 ――ドゴォォン!!!


 爆風が丘全体を抉り、土煙が天を覆う。


 轟音が遅れて響き、街の方からも見えるほどの衝撃波が広がった。


「……は?」


 ヴィジの声が、呆然と漏れる。


 丘の半分が、消えていた。


 巨大なクレーターがぽっかりと口を開け、削られた断面がむき出しになっている。


 魔物は、跡形もなく蒸発していた。


「……何、今の……?」


 フラクタが震える声で呟く。


「山が……消えた……?」


 レイの目が、信じられないものを見るように見開かれる。


「今の力は……ミル様の……」


 ネリンが後ずさる。


 ウェントは言葉を失い、ただ震えていた。


「……やりすぎだ、アート」


 ダクラだけが、ため息をつきながら呟いた。


 まるで予想していたかのように。


 アートはケロッとした顔で手を叩く。


「やったー!  倒せたよー!」


 猫耳と尻尾が、嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる。


 誰も、言葉を発せなかった。ダクラが即座に動いた。


「はぁ、報告は俺がまとめる。今のは見なかったことにしろ」


 ダクラはそう言うと、視線を街へ向ける。


「幸い街への被害は出てないな。この程度、ミル様なら一瞬で直せるから心配するな。むしろあの人の責任だ」


 目の前の光景が衝撃すぎて、5人は依然として固まっている。


「ダクラ様……今の能力って……」


 やがて、ウェントが恐る恐る口を開いた。


「……そのうちわかるさ」


 しかし、ダクラは返答をぼかし、パトロールを再開させた。




 それから夕方近くまで、パトロールは続いた。


 だが、会話はほとんどなかった。みんな、明らかに動揺している。


 支部に戻ると5人はぐったりと椅子に座り込んだ。


「ご苦労だったな」


 ダクラは5人に労いの言葉を投げかける。


「これを1週間ですか……命がいくつあっても足りませんよ」


 ダクラの後ろで、アートが「楽しかった~」と満足気にしている。


「はぁ~。全く何考えてんだあの人は」


 ダクラはそっとため息を着くと、


「今日はもう帰っていいぞ」


 と、5人の体を気遣って、帰宅を促した。




 5人とアートが帰った後、ダクラはミルに電話で報告を入れる。


「ミル様。アートはやはり、我々の手に負えません」


〔知ってるよ。手に負えるようだったら、正式な隊士として部隊に派遣してるさ。ということで、あと6日間よろしくね☆〕


「勘弁してください……」


 ダクラはミルの調子に少し呆れつつ、報告を続けた。


「アートは今日、山を一つ破壊しました」


〔その山はもう直したよ〕


「知っています。あなたの力なら、遠隔で問題を解決できますからね。でも、問題はそこじゃありません」


 ダクラは真剣な声で、ミルに訴えかける。


「アレは俺の言うことをまるで聞かない。甚大な被害が出る前に、なんとかしてください」


〔なんとかって言われても――〕


「俺は一切責任は負いませんからね」


 ダクラの言葉に、ミルはしばし沈黙の後、口を開いた。


〔アートが能力を使った時、なんて言った?〕


「特に何も言いませんでしたが……」


 ダクラは少し戸惑いながら返答する。


〔そうか。なら今度からはこう言うんだな。『すごい』『よくできたな』と。褒めてやれ〕


「はぁ、そうやって甘やかすから、いつまで経っても――」


〔ダクラ〕


 ミルの言葉に、ダクラが呆れたように言葉を紡いだその瞬間、低く真剣な見ると声が、電話越しに聞こえてきた。


 ダクラはあまり聞いたことのない声に、少しビクッとして黙る。


〔前にも言っただろ。アイツの力は"呪いの力"なんだ。今では神話になってしまった"あの日"、その力でどれだけ苦しんだことか。アイツの力を否定することだけは、絶対にしてはならない。アイツが起こした事件の責任は全て俺が負う。だから、お前は心配するな〕


 体の奥底から震えが来るような越え。だがその声には、想像を絶する苦しみと、後悔と、葛藤の過去が詰まっていた。


「……わかりました」


 ダクラはそう静かに告げると、報告を終えた。


 ダクラは支部の椅子に座ると、窓の外を眺め、今日の出来事を振り返った。


「楽しそうだったな……」


 ダクラは今日のアートの姿を思い出し、独り呟く。


 窓の外には、少し欠けた月が静かに輝いていた。


少しでも、


「面白い!」「展開が気になる!」


と思ったら、ぜひ☆☆☆☆☆評価、感想で応援お願いします。


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〈主な登場人物〉


ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公


レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。


フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。


ウェント〈神ノ加護:炎魔法〉:優しい性格の持ち主。頭が良く、判断力に優れている。


ネリン〈神ノ加護:サイコキネシス〉:天真爛漫で活発な性格の女の子。頭はあまりよろしくないが、攻撃力はピカイチ。


ダクラ:大君主の側近、主の称号を持つ。真面目な性格。


アート:通称"小さな厄災"と呼ばれる女の子。少女の見た目をしているが年齢は不詳。神話の時代から生きているので、少なくとも"兆"は超えている。性格は無邪気な子供の様。


ミル:常世零階層を統べる大君主。厨二病でお調子者。とても寛大。

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