第37話 神核
「...ふぅ...」
アラスターは息を吐き、杖を地に突き立てるように構え直した。
肩を伝う神液が、光を失って床へと落ちる。
(このままでは削り負ける...いえ、それ以前に――)
幽霊の再生速度。念の総量。そして、この霊界領域そのもの。
(もしこれでだめだったら...)
空間内に緊張が走る。
そして、
「...これで決めます。」
と、アラスターが静かに告げると、アラスターの纏うオーラが爆発的に増加した。
〈悪魔形態〉
次の瞬間、アラスターの背中に漆黒の巨大な翼が生え、頭上には丸とバツが合わさった赤黒い光輪が現れた。
「ッ!?」
そのあまりの圧に、幽霊も少し後ずさりをする。
「あ、あれは...」
「親善大会でミル様が言っていた、『悪魔形態』!!」
〈穢れなき聖域〉の中で、ヴィジ達も驚いた声を出す。
〈神ノ審判:第一審『剥奪』〉
そして、アラスターは技を発動する。
「なんだこれは?力が使えな――」
それにより、幽霊は能力を封印され戸惑っていると、そこに有無を言わさずアラスターが一撃を入れる。
「ガァ゙ッッ!?」
反応できない速度で舞うアラスターの一撃に、幽霊は数十メートル吹き飛ばされ、壁に激突した。
轟音と共に壁が凹み、そこにはグリッチがかかっている。
「くっ、領域のオブジェクトに傷をつけるとは。」
「まだまだ行きますよ。」〈神ノ審判:第二審『執行』〉
アラスターが再び技を発動させると、黄金の稲妻でできた武器が大量に現れた。
剣、槍、斧、鎌――正義の武器たちは、物凄い勢いで幽霊に襲いかかる。
黄金のラッパから放たれる回避不可能な攻撃は、幽霊の念をごっそりと削る。
しかし、
「良い攻撃だが、まだまだだァ!!念操魔法」〈呪怨雷鳴〉
と、幽霊も攻撃を強める。
幽霊の放つ漆黒の稲妻の雨は、アラスターの攻撃を相殺するどころか、むしろ押し返している。
「こ、これは!?」
「知らなかったのかッ?俺は『最強の魔法使い』でもあるんだぞ!!」
「ッ!?そうでしたね。忘れていました。」
幽霊の言葉を聞き、「その当主は己のコンプレックスを隠すため、家族や街の人達に『自分は最強の能力を持った魔法使いだ』と言い回っていたんだ。」という、ギイルの言葉を思い出した。
「さぁさぁ、勝負はこれからだァ!!」
「望むところです!!」
双方の叫声と共に、戦闘がより激化する。
黄金の稲妻と漆黒の稲妻は、互いに空間を切り裂きながら駆け回る。
肉弾戦も交えつつ、目にも止まらぬ速さで、両者共に一歩も引かない激闘を繰り広げていた。
〈神ノ審判:第三審『削除』〉
アラスターはもう一段階ギアを上げ、技を発動する。
アラスターから放たれる光は、空間を飲み込み、領域内が白飛びした。
「ぐぅッ!?こ、小癪なぁ!」
幽霊がその光に触れると、ジュ~っと音を立てて身が焼かれる。
幽霊の中にあった人々の念が、みるみる浄化されていく。
だが、幽霊も負けじと力を振り絞り、
「念操魔法。」〈希望侵蝕〉
と、技を発動させ、白い世界を再び黒く塗り替えた。
「ふぅ、今のは危なかった。力の大半が削ぎ落とされてしまったぞ。」
「これでもまだ祓えないのですか。」
幽霊のあまりの耐久力に、アラスターは内心焦り始める。
アラスターの使う〈神ノ審判〉は、執行魔法の最上位能力の一つで、これが効かないとなると、いよいよ後が無くなってしまうからだ。
「はぁ...皆さん。衝撃に備えてください。」
追い込まれたアラスターは、みんなにそう告げると、
「それでは、少々手荒く行きますよ。」
と、攻撃の構えをとった。
〈神ノ審判:最終審判『終焉』〉
そして、アラスターが最終奥義を放ったその瞬間、世界は光に包まれた。
「ぐっ...ぐァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!」
幽霊の異様な雄叫びが、領域内に響き渡る。
音すら飲み込む聖なる光は闇を浄化し、幽霊の抵抗虚しく領域を白く塗りつぶしていった――。
「...疲労を感じたのは何億年ぶりでしょうか。」
聖なる光が消え視界が開けると、幽霊は消え、領域は元の城に戻っていた。
「や、やりましたね!アラスター様!」
「えぇ、何とか勝てたようですね。」
〈穢れなき聖域〉の中にいた5人は、幽霊が消えたことに安堵の表情を浮かべた。
アラスターは5人の元へ向かう。
アラスターの表情も少し穏やかになっていた――だが、その時だった。
「「ッ!?」」
突如、禍々しい気配が再び現れ、みんなの背筋がゾゾッとした。
「...有り得ません。」
アラスターが振り返った目線の先にあったのは、禍々しいオーラを放ちながら宙に浮かぶ1つの水晶だった。
「じゅ、呪物が...」
やがて呪物の周りに念が渦巻き、再び人の形を取り始める。
「ふぅ、危ない危ない。」
そう呑気なことを言う幽霊の前で、何が起きたのか飲み込めない6人は固まってしまった。
「フフフ、良いねぇ...良いよその表情ォ!!素晴らしい...素晴らしいぞ!!」
「どう、やって...?」
「あぁ、いい事を教えてやるよ。俺のエネルギー源である呪物『神核』は、元々周囲に渦巻く負の念を取り込み、バグの発生を抑制させるための物だ。
だが今は俺の核と融合し、俺はこの呪物に取り込まれた念をエネルギーに活動している。」
幽霊は呪物の説明しながら、不気味に微笑む。
「ま、まさか!?」
「そう、お前達が俺に対して抱く感情――恐怖、怒り、憎悪、焦燥、絶望。それらの負の念を抱いた時点で、俺には勝てないってことだ。」
その言葉を聞き、5人の表情が一気に曇った。
「ほら、そこの下級隊士ども。お前達が絶望すればするほど、こいつの敗北は確実なものとなるぞ。」
「...」
5人は言葉を失ってしまった。
頭ではダメだと理解しているのに、絶望が止まらない。恐怖が収まらない。
沈黙が、城内を支配した。5人の胸に渦巻く感情――恐怖。焦燥。敗北感。
(まずいですね。神核――ワタクシの攻撃ですら干渉できなかった禁忌級呪物。)
アラスターは即座に悟った。
(領域が消えたのにも関わらず、未だに連絡が取れません。このお城自体が領域となったのでしょうか?今の私に5人を逃がすだけの力が残っているでしょうか?)
「どうした?さっきまでの威勢はどこへ行ったのだ?」
幽霊が嗤う。神核は、不気味な鼓動を打ちながら、より強く輝き始めていた。
その時、
「アラスター様。」
震えた声で、ヴィジが口を開いた。
「この呪物..."負の念を取り込む"って言いましたよね。」
「...ええ。」
「逆に言えば、正の念なら反発するか対消滅を起こすんじゃないでしょうか?」
一瞬、空気が止まる。アラスターの目が、僅かに見開かれた。
「僕の『霊力支配』は、神力を霊力、特に正の念に変え、自由に操るというもの。つまり、ヤツと全く正反対の能力です。」
「そ、そんなことできんのか!?」
「でもそれって、かなり危なくないかしら?」
レイはヴィジの作戦を聞いて驚き、フラクタは懸念を示した。
「確かに、盲点でした。やってみる価値はあるかもしれません。」
だが、アラスターはその作戦に同意する。
「ネリンさんにも、協力して欲しい。」
ヴィジはネリンに視線を移す。
「わかったわ。」
ネリンの『サイコキネシス』も、神力を念に変え、それを"手"として扱う能力であるため、神核にも干渉できる可能性がある。
そしてヴィジとネリンは、幽霊の方にそっと手をかざす。
「ネリンさん。」
「えぇ。」
2人はそっと息を吐く。その瞳に、恐怖はない。
「ほう?下級隊士の分際で、一体何をすると言うんだ?」
「今から...お前の核を封じる!いくよ!」〈霊縛〉
「まかせて!」〈聖なる手〉
「「合体技!!」」〈〈聖なる禁縛〉〉
2人が技を発動させると、七色の光の渦が神核へと吸い込まれていった。
2人のの周囲に、澄んだ光が広がる。
それは恐怖ではない。怒りでもない。守りたいという意志。信じるという覚悟。
それらの正の念が、2人の力によって一本の"流れ"となり、神核へと逆流した。
「なッ!?何だこれは!?」
神核が、悲鳴のような共鳴音を上げる。
「ぐォォォォ!!力が...力が打ち消される!」
「き、効いています!」
攻撃は確かに効いている。だが、幽霊もかなりしぶとい。
「雑魚のくせに、生意気なぁ!!」
「ぐッ!!」「きゃぁ!!」
「呪詛!?」
核を封じられて尚、幽霊は呪詛返しをしてくる。
「速攻で終わらせます。執行魔法。」〈神天罰降臨〉
「させるかァ!!」
アラスターの一撃は、幽霊の漆黒の手によって防がれる。
「まだこれ程の余力が!?」
「例え核が封じられたとしても、器である俺自体が最強なんだよォ!!」
幽霊はそう叫ぶと、とてつもない力でアラスターを殴り飛ばした。
「ハッ!?しまっ――ぐはッ!!」
アラスターは、ドゴォン!!という轟音と共に、後方の壁に激突する。
「あ、アラスター様!?」
ウェントが声を上げると、ヴィジとネリンに流れ込んでくる呪詛が多くなった。
「や、やばい...もう限界だぁ...」
「クハハハハ、どうだ?お前達が負の感情を抱く程、俺の呪詛は強くなる。お前達が死ぬのも時間の問題だなぁ。」
幽霊の笑みは、みんなを恐怖に陥れる。
負の念を孕んだ神核が、1人不気味に輝いていた。
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〈主な登場人物〉
ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公
レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。
フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。
ウェント〈神ノ加護:炎魔法〉:優しい性格の持ち主。頭が良く、判断力に優れている。
ネリン〈神ノ加護:サイコキネシス〉:天真爛漫で活発な性格の女の子。頭はあまりよろしくないが、攻撃力はピカイチ。
アラスター:地界第七階層の主地者であり、モートの側近。とても真面目な性格をしている。




