第35話 旧城の悲劇
翌日。昨日の調査報告書はアラスターがまとめてくれ、それをモートに提出しに行く。
アラスターはプリムンズの5人に声をかけると、一緒にモートの元へ向かった。
「失礼しますモート様。昨日の調査報告書を持って参りました。」
そしてモートの部屋まで行くと、ダクラはモートに資料を渡す。
「...なるほどな。ご苦労だった。」
「それで、モート様に僭越ながらお聞きしたいのですが、このお城について何かご存知ではありませんか?家主が住んでいたと思われるその時期、ワタクシはまだ力で天界に出張してまして...」
「あぁ、あの時期か...」
モートはアラスターの質問を聞き、少し考えてから、
「知らないな。正直、興味が無いことは記憶に入れない主義なんだ。
だが、あの時期、例の城を含む地域を管理していた部隊の隊長なら知っている。元力地者のギイルだ。」
と、答える。
「ギイル...あぁ、あの方ですか。何度か任務をご一緒したことがあります。おそらく今でもあの辺に住んでいるかと。」
アラスターはどうやらギイルと顔見知りの様子。
「先程興味は無いと言ったが、貴様が警戒する程のの幽霊がいる可能性があるなら話は別だ。早急に対処しろ。」
「はっ!」
「それで――。」
モートはアラスターに命令をすると、5人に視線を向ける。
「貴様達をどうしようか...」
どうやら5人をどうするか悩んでいる様子。今回の件は上級隊士が取り扱うレベルの事案なので、下級隊士の5人を同行させるのは危険だ。
「そうですねぇ。皆さんは本部にお留守番でしょうか?」
そんな風にアラスターも悩んでいると、
「そいつらも連れて行け。」
と、突然ミルの声がした。
横を見ると、ミルとザイオンが立っている。どうやら転移してきたようだ。
「貴様ら、吾輩の部屋に無断で入って来るな。そもそも、当たり前のようにセキュリティを無効化するんじゃない。吾輩の許可なしでここに強制的に侵入できるのは貴様達くらいだぞ。」
「いやぁ、すまないね。暇だったもので。」
「まぁいい。それより、連れて行けとはどういうことだ?」
モートは、ハァっとため息をつくと、訳を聞き始めた。
「なぁに、そのままの意味だよ。経験を積ませる、ただそれだけさ。」
ミルは笑いながらそう答える。
それを聞いたモートが、
「何を言ってるんだ貴様は。そんな軽い気持ちで――。」
と、口を開くと、ミルが急に真顔になって、
「わかってないなぁ。俺はお前らと違って手を出せるんだ。いざとなったらいつでも助けることができる。」
と、怖い声で話し始めた。その圧と謎の言動に、5人は息を飲む。
それを聞いたモートは言葉に詰まり、少しの沈黙の後、
「...わかった。」
と、5人の同行を許可した。
「警戒として、端末式転移装置の使用を許可する。何かあったらすぐに戻ってこい。」
「はい。それではこれより、ギイルさんの元へ向かいます。」
アラスターはそう言うと、5人を連れてモートの部屋を後にした。
準備を整えた一行は国家間転移装置を使い、車ごとギイル住んでいるであろう地域まで転移した。
「ギイルさんは確か、ギイル部隊支部には住まず、辺境の監視拠点を私邸代わりに使っていたはずです。」
移動中、アラスターが説明する。
「1億年前の祓魔師...随分長生きですね。」
「まぁ、我々天地者の寿命は人間とは違い、力の大きさに左右されますからね。
一般的な寿命は500年。下級隊士レベルなら数万から数十万年、権レベルなら数百万年、上級隊士になれば数千万から数億年、主レベルなら数十億年生きますからね。」
そんな話をしていると、荒れた大地の中に古い石造りの建物が見えてきた。
軍事拠点だった名残か、装飾は少ない。
「...ここです。」
アラスターが足を止める。
扉の前に立った瞬間、中から低い男の声が響いた。
「どちら様かな?」
「お久しぶりです、ギイルさん。」
アラスターが一歩前に出ると、扉が軋む音を立てて開き、ギイルが姿を表した。人間でいう40歳くらいの見た目をしている。
引退して随分経っているにも関わらず、その眼光は未だ衰えていない。
「おぉ、アラスターか、久しぶりだな。数百、いや数千万年振りか?」
ギイルは軽く会釈をすると、5人に目を向ける。
「連れているのは部下...ではないようだな。白い隊服...ミル軍の隊士か。」
「初めまして、ギイル様。僕はミル軍ダクラ部隊の天者、レイと申します。」
「私は――。」
5人はギイルに対して自己紹介をした。
「そうか、下級隊士なのに精鋭部隊で頑張っているんだな。」
そして、自己紹介が終わると、アラスターは本題に入る。
「それでここに来た理由なのですが、お話を聞きに来たんです。最近、この近くのお城に強力な幽霊が出まして、現在調査中なのですが資料が足りず、困っていたのです。」
それを聞くと、ギイルは目を細め、
「...あそこか。」
と、低く呟いた。そして、
「中に入れ。立ち話で済む内容じゃない。」
と、みんなを家へと誘導した。
中へ入るとみんなは椅子に座り、ギイルが話を始めた。
「あそこは元々、大富豪の居城だった。名はヴァルディス家。辺境の地に移り住んだごく普通の一家だった。
――だがある日、全てが変わった。」
ギイルは声色を変えて、より真剣な顔になる。
「当時、城の地下で発掘が行われた。というのも、その城は古代遺跡を土台に改築したものだったらしく、貴重な資源がないかの調査が目的だ。
そこである物を発見する。封印されていた古代の...おおよそ革命の時代前期頃の水晶の様な呪物だ。強大な念の籠った恐ろしい物だった。」
「...禁忌級、ですか?」
レイが思わず口を挟む。
「その通りだ。」
ギイルは即座に肯定した。
「当時の当主はただの地人で、能力はなく力を欲していた。家族を守るため、力を得るため...言い訳はいくらでもあっただろう。」
ギイルの拳が強く握り締められる。
「結果、城の中で何が起きたか...想像はつくだろう。
天地者への強い憧れ、その裏にある強い欲望、嫉妬といった負の念が呪物によって増幅し、その当主のドッペルゲンガーが現れた。
ドッペルゲンガーは、他人が源者に対して抱くイメージを糧に強化される。その当主は己のコンプレックスを隠すため、家族や街の人達に『自分は最強の能力を持った魔法使いだ』と言い回っていたんだ。」
それを聞いたみんなはハッとした。一体何が起きたのか、想像に難くない。
「ドッペルゲンガーは本物に引き寄せられる。当主のドッペルゲンガーから生まれた、その家族や城の執事やメイドのドッペルゲンガーが、本物と干渉し対消滅を起こした。
そして力を持ちすぎた当主のドッペルゲンガーは、本物と成り代わろうとして暴走し、当主を殺害。その当主の念がドッペルゲンガーに取り込まれ、より強大で恐ろしい幽霊へと変貌を遂げたんだ。」
ギイルは淡々と告げる。それに対し、アラスターが、
「なるほど、地縛霊と影霊のミックス。さらに念を増幅する呪物付き...これは少々厄介ですね。」
と、小さく呟いた。
「ああ、当時は禁忌呪物が関わっているため、討伐ではなく封印という形で対処したのだが、今になって何故か封印が解けたみたいだな。
おそらく被害者が出会ったのは、その幽霊の残留意思の様なものだろう。」
ギイルは重くうなずく。
「無念、後悔、恐怖、憎悪...1億年間それらが混ざり合い、城そのものに染み付いた。それが、今の幽霊の正体...『集合的念核霊体』ですか。それも前例のない程強大な。」
「つ、つまり、単体の幽霊ではなく、城で死んだ者や城自体に抱く負の感情、ましてや禁忌呪物までもが一つの意思を持って蠢いていると言うことですか...!?」
恐ろしい事実を知り、5人の背筋に冷たいものが走った。
「そういうことだ。だから、普通の祓いじゃ消えない。下手に手を出せば、逆に取り込まれるぞ。」
ギイルの言葉で、部屋に再び沈黙が落ちる。
そんな沈黙の中、アラスターは静かに立ち上がった。
「...貴重なお話、感謝しますギイルさん。想定以上に危険な案件ですね。」
「ああ。だが、今度は封印ではなく、終わらせる覚悟が必要だろう。」
ギイルの視線が5人に向けられる。
「若いが、覚悟の目はしている。」
5人は無言でうなずいた。
重い真実を胸に刻み、みんなは再び城へ向かう決意を固める。
――旧城の悲劇は、確実に彼らを待っていた。
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〈主な登場人物〉
ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公
レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。
フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。
ウェント〈神ノ加護:炎魔法〉:優しい性格の持ち主。頭が良く、判断力に優れている。
ネリン〈神ノ加護:サイコキネシス〉:天真爛漫で活発な性格の女の子。頭はあまりよろしくないが、攻撃力はピカイチ。
アラスター:地界第七階層の主地者であり、モートの側近。とても真面目な性格をしている。




