第34話 幽霊騒動
モートとの訓練の翌日。今日はアラスターと共に、地界で任務をするようだ。
「今日は任務が御座いまして、プリムンズの皆さんはワタクシと行動してもらいます。」
アラスターはそう言うと、5人を外に連れ出し、任務内容を伝える。
「今日の任務は、昔大富豪が住んでいたお城に幽霊が出るということで、それの調査に向かいます。」
「幽霊?確か初任務のとき、ダクラ様が言っていたような...」
「あぁ、そういえばヴィジくんはスカウト組で学校に行っていませんでしたね。」
アラスターはそう言うと、ピッと端末を起動させ、空中にウィンドウを開き、説明を始めた。
ダクラも使っていたように、舞台を統率する上級隊士の端末は高性能らしい。説明を視覚情報で補うだけでなく、狼煙のような使い方もできるみたいだ。
「幽霊とはバグの一種ですが、その発生メカニズムについては他のバグ同様現在も未解明です。
ですが、幽霊という名前は、宇宙や多元宇宙といった下界で発生するものに似ているため付けられ、下界に発生する幽霊においてはそのメカニズムが明らかになっています。
詳しく説明しますと、下界の人間の『思考(念)』もエネルギーを持っており、人が死んでその人の情報がアカシックレコードによって処理されるとき、その人の念が強いと『生きている』とシステムが誤認し、不完全な状態で情報を復元することがあります。これが幽霊の正体であり、幽霊は電波生命体(エネルギー体)なので、カメラなどには映るが可視光線ではないため、人は見ることが出来ません。
しかし、この幽霊の持つ波長の電波を感じ取ったり、見たりできる人間が一定数いて、その人達は『霊感のある人』とや『霊媒師』と呼ばれています。
そして幽霊は生前の念の塊なので、実行コードがその思いに依存して、一定の場所に留まるという特徴も持っています。」
「つ、つまりどういうことですか?」
ヴィジはアラスターの思った以上の解説に少し困惑する。
「原因不明の厄介なバグということです。では早速向かいましょうか。」
アラスターがそう言うと、みんなは車に乗り、現場へ向かう。
「幽霊かぁ~、肝試しは苦手なんだよなぁ。」
「あんた、ホントになんで祓魔師になんかなったのよ。」
現場に向かう途中、ゴネるレイにネリンが呆れる。
「肝試し?」
「廃墟住みで、毎日が肝試しだったお前にはわからないか。肝試しっていうのは、幽霊がでるとウワサの場所に行って、己の度胸を試すイベントだ。祓魔師になってバグについて詳しく知った今でも怖いものは怖いんだよ。」
「まぁ、幽霊はその存在が公になっていないバグだし、未知の存在に怖いもの見たさで接触するっていうのも嗜みの一つだよね。」
レイとウェントの話を聞いて、ヴィジは少し納得した。そして、
「幽霊が公になっていないのって、変に住民の不安を煽ってバグを増幅させないため?」
と、質問する。それを聞いたアラスターがどこか真剣な声で話し始めた。
「それもあるのですが、幽霊の存在を認めたくない者達が一部いまして。主にインペル様のいる忍耐の階層の住人なのですが...
前に話したように、ここ天越宇宙がこの世の全てであり、創造主こそが至高の存在だと考えられています。しかし、現在のシミュレーション仮説を使って考えると、『バグが存在するのはおかしい』、『そのバグが下界のものと同じなのは変だ』という疑問を矛盾なく説明できます。『この世界もまた上位存在によって管理された実験場』に過ぎないのだと。」
「まぁ、神のみぞ知るってやつですね。」
そんな壮大な話をしていると車が止まった。どうやら目的地に着いたようだ。
車から降りると、広大な敷地にたたずむ巨大な城が目に飛び込んできた。
「さぁ、行きましょうか。」
「大っきいですねぇ。」
「昼間なのに、なかなか雰囲気あるな。」
みんなはさっそく敷地に入って調査を始めた。
城の正門を開けると、ギギィ――っと軋んだ音を立てる。
城の中は日中にも関わらず、薄暗く不気味だ。
「...思ったより荒れてないですね。」
ヴィジが周囲を見回す。床には薄く埃が積もっているものの、意外にも綺麗に整っている。
「ここは放棄されてから1億年以上経っています。風化が見られないのは魔術加工が施されているからでしょうか。」
アラスターは自立型照明球と呼ばれる光の玉を宙に浮かせながら、辺りを照らしている。
「そもそも心霊スポットとして有名なら、どうして今更なんですか?」
「そうですねぇ。以前から幽霊の目撃情報はあったのですが、脅威がないものなら黙認されるケースがほとんどです。ですが今回、肝試しに来た若者男女グループの1人が幽霊に襲われ、体の一部がバグ化するという実害が出てしまったため、こちらに話が回ってきたのです。」
「なるほどぉ。」
どうやらほとんどの場合、幽霊は無害な存在らしい。
「その人は大丈夫なんですかね?」
「心配ないよ。一部のバグ化なら、その部分を切除し再生させることで直せるから。
でも油断はできませんよ。いくら耐性があるとしても、重いバグだったら隊士でもバグ化してしまうかもしれません。」
その言葉にレイがゴクリと唾を飲み込む。
「やっぱり怖ぇな。」
「そんな化け物だったら、とっくに死人が出てるわよ。」
ネリンはそう言いながらも、無意識に距離を詰めていた。
そんな風に歩いていると、みんなはかつての応接間らしき広間に足を踏み入れる。
豪奢な調度品はそのまま残され、長机の上にはティーセットまで置かれていた。
「...う〜ん、何か妙ですね。」
その光景を見てアラスターがそっと呟く。
「生活の痕跡が途中で切れている。」
アラスターは床にしゃがみ込み、指先で埃をなぞる。
「切れている?」
「えぇ、まるで突如居なくなった様な、そんな雰囲気です。
実はこのお城、昔だからなのか、親族がいなかったからなのか、ここの家主についての資料が全くなくてですね、どんな幽霊が発生するのかなどが予測しづらいんですよ。そのための今回の調査なんですけどね。」
アラスターが一通り話すと、みんなは他の場所へと移動した。
1階を見終わり、みんなは2階へと移動する。
みんなはギシギシと不気味な音を立てながら階段を登った。
「当たり前だけど、この城広いなぁ~。何人くらいで住んでたんだろう?」
「一体どんな幽霊がいるのかしら。気になるわ。」
「そうですねぇ、被害の規模から考えてほぼ無害な地縛霊だと推測しますが、どうでしょう。」
「地縛霊...幽霊にも色んな種類があるんですか?」
あまり聞きなれない言葉に、ヴィジは首を傾げる。
「そうですよ。幽霊にも様々なものが存在します。」
それを聞いたアラスターはまたもや丁寧に解説を始めた。
「まずは地縛霊。基本的に無害で階級を持たないバグです。源者と呼ばれる、幽霊が発生する原因となっている人の生前の未練が強い場合などに発生します。
次に怨霊。かなり凶暴な幽霊で、源者の生前の人や物などへの怒り、憎悪が強い場合に発生します。
そして生霊。これは少し特殊で、生きている人が他人に対して怒りや憎悪を抱いた時に、その念が形となって現れるものです。これは能力持ちの人が原因になりやすく、普通は自然消滅します。」
アラスターが淡々と説明していると、最後の説明で急に声色を変えた。
「最後に影霊。これは通常ドッペルゲンガーと呼ばれ、一番不可解で危険な幽霊です。」
「一体、どんな幽霊なんですか?」
「それは――。」
アラスターが言いかけたその時、みんなは3階から突如不快な気配を感じた。
「...上ですね。」
アラスターが短く告げ、自立型照明球を三階へ向けて浮上させる。
光が階段の上を照らした瞬間、空気が一段冷えたように感じられた。
「今の...なんだか見られた様な気配...」
レイが小声で言う。
「気配の質が違いますね。これは相当ですよ。」
アラスターの言葉に、5人はゾクリと背筋が冷える。
そして、
「さて、幽霊がいることを確認しましたので、戻って報告をしましょうか。」
と、アラスターは言って、出口へ戻り始めた。
「えっ!?倒さなくていいんですか?」
その行動に、5人はびっくりする。
「今日はあくまで調査ですので、除霊は準備を整えてからにします。」
「た、確かに、そういうことですか。」
結局5人はアラスターに従い、城を後にした。
帰り道。車の中でアラスターはポツリと呟いた。
「あそこはヤバいですね。」
「?まぁ、そうですよね。幽霊が住み着いてましたから。」
「いえ、そういうことではありません。」
アラスターの妙に改まった声に、5人は思わず息を飲んだ。
「と、言いますと?」
「あそこにいた幽霊...凶悪だとか、そんな次元じゃありませんよ。もし、あのまま対峙していれば皆さんは確実に死んでいたでしょう。
あれは――前に出現した戦争意志アレスより厄介かもしれません。」
その言葉に5人は言葉を失う。
あの城は一体なんだったのか、あの幽霊の正体は一体なんだったのか。
その日5人は、震えて眠れぬ夜を過ごしたのだった。
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〈主な登場人物〉
ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公
レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。
フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。
ウェント〈神ノ加護:炎魔法〉:優しい性格の持ち主。頭が良く、判断力に優れている。
ネリン〈神ノ加護:サイコキネシス〉:天真爛漫で活発な性格の女の子。頭はあまりよろしくないが、攻撃力はピカイチ。
アラスター:地界第七階層の主地者であり、モートの側近。とても真面目な性格をしている。




