第31話 恐怖の権化
親善大会が終わってから約1週間程たったある日、プリムンズの3人とネリン、ウェントのいつもの5人は本部に呼び出された。ついでにダクラもいる。
「やぁ諸君、よく集まってくれたね。今日は大事なお知らせがあるんだ。」
みんなが玉座の前に集まると、ミルは話をし始めた。
「まずは先週の親善大会お疲れ様。君達の活躍を見て、俺は素晴らしいチームだと感じた。今まででもトップレベルでね。だから俺は決めたんだ、君達をパーティに任命すると!」
「は、はぁ...」
「パーティ...ですか。」
「そういえば、前にナリシア先輩が言っていたような...」
みんなはミルの変なテンションに少し動揺している。
「そう。現プリムンズに新たにネリンとウェントを加え、新プリムンズとして活動するんだ!」
「「し、承知しました。」」
すると、変な空気に耐えられなくなったダクラが、
「それだけのために呼んだんじゃないんですよねぇ。」
と、少しイライラしながら口を開いた。それに対し、ミルはニコッと笑う。
「いやいや、本題はここからだよ。実は先週の親善大会を見た俺の友人がね、ぜひ君達5人に会いたいと言ってるんだよ。というわけで、明日から遠征ということで準備しといて。」
「あのぉ...もしかしなくても、その御友人って大君主ですか?」
「あぁ。その名も、地界第七階層の大君主『モート』だ!」
その名前を聞いて5人は一瞬青ざめるも、すぐに正気を取り戻した。
「も、もう慣れてきましたよ。」
「さ、『最恐』の大君主って言ってもちょっと厳ついくらいの感じよね、きっと。」
5人はそうは言いつつも、不安に震えながら一夜を過ごした――。
翌日。地界第七階層に到着した零階層の御一行。もちろんダクラは留守番だ。
ミルの転移能力で連れてこられたところは、切り立った崖にある巨大なお城のような場所だった。
「そ、空が淡い赤色...ここが地界かぁ...」
「なんだかミル軍の本部より恐ろしく、不気味な雰囲気が漂ってますね。」
初めて地界へ来た5人は、天界とは違う空気に圧倒されている。
そして門をくぐると、そこには1人の男がたっていた。その男は黒金色の隊服を纏っており、胸には『主』の称号をつけている。
黒髪で凛々しい顔立ちだ。
「よう!少し待たせたかな?」
ミルがその男に話しかける。
「いえいえ、むしろ早いくらいですよ。」
男はニコッと笑うと、こちらを向いて、
「これはプリムンズの皆様、ようこそお越しくださいました。ワタクシ、モート様の側近である『アラスター』と申します。」
と、自己紹介を始めた。
「「よ、よろしくお願いします。」」
「それにしても、あいつはまだなのか?」
「モート様でしたらもうすぐ来られるかと。」
「そうか。」
そんな話をしていると、突如として場の空気が変わった。背筋が冷え、全身が震え、心が絶叫するような恐怖が刹那の間にみんなを襲う。
そして黒い霧が現れ、その霧が晴れると、そこには恐ろしい化け物がたっていた。
大きな鎌を持ち、ボロボロのローブを着た骸骨が、赤い目を光らせこちらを見ている。その姿は、みんなが思い描く死神といった感じだ。
「こ、こここ、これは...合宿の時のザイオン様より...」
「い、息が...できない。」
みんながその恐怖に震えていると、急にスッと恐怖心が無くなった。そして、
「吾輩の名はモート。今日はよくぞ来てくれたな。」
と、モートが自己紹介をする。その声は核を鷲掴みされるかの様な不気味で低いものだった。
((声怖ッ!?))
5人はまだ少しビビりつつも、何とか正気を取り戻す。
「お前、登場する時は完全にオーラ抑えてから来いよ。危うくみんな廃人になるとこだったぞ。」
そんな中、ミルがモートに話しかける。
「「...え?」」
「心配しすぎだ。用が済んだらさっさと帰れ。今日はお前に構ってる暇はない。」
「ハハッ、お前はホントにツンデレなんだかラ"!!」
ミルがニヤニヤしながらモートに近づくと鎌でぶん殴られ、たちまち遠くまで吹き飛んでいった。
「「み、ミル様!?」」
「あのゴミなら無事だ。それよりも、アラスター。」
「承知しております。プリムンズの皆さん、ここにいる間はワタクシが皆さんの上司となります。まずは軽く本部を案内しますので、ついてきてください。」
5人はアラスターにつれられて、本部へと足を踏み入れた。
「中もミル軍の本部と似てますね。」
5人は歩きながら、どこか実家のような安心感を覚えていた。
「それは、ミル様がこの本部を真似て造ったものですからね。」
「えっ!?そうなんですか!?」
アラスターの発言に5人は驚く。
「ミル様は素晴らしい方ですよ。モート様はとてつもなく冷酷で、非情で、残酷な方ですから、弱者や小物に興味を示しません。
唯一モート様の手の届かない存在であるザイオン様。自分に迫る実力を持っているロウ様やラプラス様。そんな方たちに肩を並べて、一目置かれているミル様はとても不思議ですね。」
「言われてみれば確かに、新参の大君主なのにトップの人達と交友を持っていますね。」
「大君主同士の交友関係も気になるわね。」
5人はミルの偉大さを今一度実感する。
「あんな感じですが、モート様はミル様を認めているんですよ。でないと定期的に会ったりしませんから。」
アラスターはそう言うと、どこか嬉しそうに微笑む。
そして、6人はどんどん本部の奥へと進んでいく。
薄暗い廊下には燭台の炎がゆらめき、どこからともなく囁き声のような風の音が聞こえてきた。
「なんか、ここ寒くないですか?」
フラクタは思わず肩を寄せる。
「気のせいじゃないか?」
「いえ、気のせいではありませんよ。」
アラスターが淡々と話し始める。
「この先は禁域。地界でも選ばれた者しか入れない領域です。」
「禁域?」
ネリンが首をかしげた瞬間、アラスターが立ち止まり、重厚な扉の前で振り返った。
「ここが地界にある禁域の一つ、『死の禁書庫』です。」
扉は黒い金属で造られ、表面には見たこともない文字が彫り込まれている。
「これ、古代文字ですか?読めませんが、どこか禍々しいですね。」
ヴィジがその文字を見て目を細める。
「その通り。この書庫には地界の歴史、とりわけモート様の過去について記された聖書や、魔導書よりも古い魔法書である『禁忌魔術書』などが保管されています。」
「禁忌...原初の魔法書ですね。神話の時代に書かれたと言われている...」
「へぇ~、さすが魔法使いだな、ウェント。」
みんなが興味を示して、扉に近づく。その瞬間、突如として扉の紋様が赤黒く光を放った。
まるで侵入者を拒むかのように、空気が張り詰める。
「「ひっ!!」」
あまりの圧に、5人は一歩後ずさる。
「ご安心を。特に問題はありません。」
アラスターは静かに息を吐いた。
「プリムンズの皆様は、今は入れないのです。魂核位階が足りていませんから。」
「魂核...位階?」
ネリンが身を乗り出す。
「魂の質というべきでしょうか。簡単に説明しますと力不足、階級が足りていないということですね。もし、権以下の隊士が足を踏み入れた場合、莫大な魔力を持つ禁書によって魂が破壊され、廃人となる恐れがございます。」
「そんなにやばいのね...」
「思ったんですけど、なんで魔法には色々な書物が存在するんですか?」
魔法書の恐ろしさについて知ったレイは、アラスターにそう尋ねる。
「そうですねぇ、魔法については後ほど説明しましょう。この辺の学校では教わらない知識も大切ですからね。」
アラスターはそう言うと、来た道を戻り始めた。
「さて、書庫の案内は以上です。次は兵舎と訓練場を案内しましょう。」
背筋に冷たいものを残したまま、5人はアラスターの後ろを歩き出した。
「しかし、本部に禁域があるなんてすごいなぁ。」
そんなことを言いながら歩いていると、
「いえ。」
と、アラスターは歩みを止めずに答えた。
「禁域はどこにでも存在しますよ。もちろんミル様の本部にも。」
「「え!?」」
5人は思わず足を止める。
「その反応は、どうやら知らなかったようですね。まぁ、ダクラくんなら余計なものは紹介しませんか。」
アラスターは少し意外そうに振り返って、詳細を話し始めた。
「そもそも、祓魔師軍の本部とは大君主のお城です。なのでその階層の機密情報や聖書など様々な物を保管しているんですよ。」
「い、言われてみれば確かに...歴代の大君主についての書物なんかもありそうだね。」
「それ、めっちゃロマンがあるな!」
「大君主は謎多き存在だから、余計に興味をそそられるわね。」
階層支配者の歴史について興味が強まった5人は、ワイワイと禁域の話で盛り上がっていた。
そんな姿を見ながらアラスターは、
「...いつか知れたらいいですね。大君主の真の正体を...」
と、5人に聞こえないような声でそう呟いた。
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〈主な登場人物〉
ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公
レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。
フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。
ウェント〈神ノ加護:炎魔法〉:優しい性格の持ち主。頭が良く、判断力に優れている。
ネリン〈神ノ加護:サイコキネシス〉:天真爛漫で活発な性格の女の子。頭はあまりよろしくないが、攻撃力はピカイチ。
ミル:常世零階層を統べる大君主。厨二病でお調子者。とても寛大。
モート:地界第7階層の大君主。『最恐』を冠する四天王の1人で、序列2位。もしオーラを抑えなかったら、権以下の隊士なら対面しただけで廃人化する可能性がある。ザイオン、ロウ、ラプラス、ミル以外の大君主とはそこまで関わりを持っていない。インペルとジェストのことは嫌っている。




