第29話 因縁の対決
次の試合はミルの出番だ。
「か、勝てますよね?」
「ミル様なら大丈夫ですよね?」
ヴィジとウェントは心配そうに尋ねる。みんな不安でいっぱいの顔だ。
「あんな小物に俺が負けるわけないでしょ。」
「俺も、あなたが負ける姿は正直に見たくありません。」
ダクラも少し不安になっている。
「ハッハッハ!大丈夫だよダクラくん。コイツなら心配ないって!!」
それを見て、ロウが笑いながらダクラに言い聞かせる。
「ですが...」
「まぁ、勝てるよう祈っててくれ。それじゃっ!」
ミルは元気よくそう言うと、フィールドへと向かった。
「さぁ、続いては2試合目、常世零階層『零』の大君主『ミル様』vs天界第三階層『忍耐』の大君主『インペル様』でーーす!!」
今大会一番の盛り上がりを見せる会場。それとは裏腹に、対面する2人の間には冷ややかな空気が流れる。
インペルは銀色の髪に薔薇色の貴族服のような衣装をなびかせている。
「この感じ...数兆年ぶりだなぁ、バケモノ!!」
「はぁ、相変わらず何も変わってねぇな、小物め。」
「あの時、あっさり捉えられたくせによく言うよ。」
「2対1だったくせに、そんなにイキれるもんなんだな。」
一触即発の2人は口撃が止まらない。
「まぁ、圧勝しちゃっても可哀想だから、『完璧なる法典』以外使わないでおいてやるよ。序列10位のクソ雑魚くん。」
「クソ野郎が...なめてんじゃねぇぞォ!!!」
そして、試合開始のサイレンが鳴ると同時に、インペルはミルに向かって飛び出す。
「お前みたいなゴミが、神聖な大君主の名を語るんじゃねェ!!」〈因果律操作、確率操作、運命操作、エネルギー操作:『断罪の聖剣』〉
インペルが手にした長い光の聖剣が、空間を切り裂きながらミルに襲いかかる。
「ゴミはお前の方だろ。」〈完璧なる法典:ファイアウォール〉
しかし、ミルに届く直前でバチィ!!っと不思議な力によって防がれ、聖剣は消滅してしまった。
「くそっ、いまいましい技を使いやがる。ならば...」〈法則操作、事象改変、根幹情報改竄、物質操作:『神罰執行拳』〉
「無駄だ!」
今度は聖なる炎を纏った拳でミルに殴りかかった。
だがこれも、ミルの不可視のバリアに触れると拳がたちまちグリッチやノイズに囲まれ、バリィッ!!と、弾き飛ばされてしまった。
「くっ...」
反動でズザァーッと後方に飛ばされるインペル。
「強い力を加えれば加えるほど、反発が強くなりやがる...」
「いやぁ、久々の戦闘は楽しいなぁ。ここまでの規模になるとほぼ水掛け論だがそれがいい。」
それを見て、ミルは笑みを浮かべた。
「ハハッ。勝負の秘訣はどれだけ自分に有利な舞台を設定できるかだ。自分に不利な存在、概念を消し、有利な存在、概念を味方につける。
だが、最終的に勝敗を分けるのは、自分の技がどれだけ精巧に組み立てられるか、そのコードが優先的に実行されるか否かにかかっている。故に、俺はお前より上手ってことだ。」
「...やめろ!!『コード』なんて言葉を出すな...俺達はそんなものに縛られていない!!」〈因果律操作、確率操作、運命操作、空間操作、物質操作:『七天喇叭』〉
インペルが浮き上がり、技を発動させると、インペルの頭上に7個の神々しく大きなラッパが現れ、そこからとてつもない音とエネルギーが放出された。
その圧倒的な威力に、攻撃を止めたミルは少し後ずさりをする。
「いい加減に現実を見ろよ!この世界は――。」
「黙れェェ!!お前は『厄災』そのものだ!
約310億人の民と、主を含む隊士達約12000人を殺したバケモノが、世界のことを語るんじゃねェ!!」
インペルはヒートアップし、戦いはその勢いを増していく。
「はぁ、ごちゃごちゃと...そんなに憎いならさっさと殺したらどうだ!!」〈完璧なる法典:解析→アウトプット『神罰執行拳』〉
「しまっ...グハァ!!」
そんなインペルにミルは攻撃を仕掛けた。
一瞬にも満たない時間でインペルの元へ移動すると、模倣した技をインペルの腹に撃ち込んだ。
その瞬間空間が歪み、黄金の炎がインペルを包み込む。
そして、ズドォォン!!と、ありえないほどの衝撃と共に、星々を貫きながら空へと飛んでいくインペル。
「アハハハハハハ!!どうしたんだぁ?クソ雑魚がぁ!!」
約2兆4千億kmも吹き飛んだインペルに一瞬で追いつき、
〈完璧なる法典:ハッキング、書き換え、編集〉
と、能力で強化した脚で、インペルを蹴り下ろした。
空を切り裂く稲妻のごとく落下するインペルは、即座に地面に叩きつけられ、轟音と共に砂埃が舞う。
そのあまりの衝撃にフィールド内の基底プログラムが破壊され、地面が真っ白のボイドのようになっている。
仰向けに倒れるインペルを見下ろすように、ミルは不敵な笑みをを浮かべている。
「...あれ、ミル様...ですよね?」
「なんだか...雰囲気が...」
ミルの異常な豹変ぶりににみんなは息を飲んでいる。
そんなミルを見てザイオンとロウは、ハハハッと、どこか嬉しそうに笑っている。
「いやぁ、アイツのあんな顔久しぶりに見たぜ。」
「そうだな。まだ楽しむという感情があった頃のあいつに戻ってるな。」
「ミル様は昔、あんなだったんですか...」
側近のダクラですら知らないミルの裏の顔に驚きを隠せないでいる。
「く...っそがァァァァァ!!!」〈神ノ武器:オムニコントローラー〉
そんな中、インペルが怒りと共に先が鍵の様になっている、禍々しい剣の様な武器を生成した。
その武器の周りを青、赤、緑のオーラが渦巻いている。
「お前を形作る全ての根源ごと消し去ってやる!!」〈形而上学操作:レベル6『根源破壊』〉
そして、ミルに向けて攻撃を放つ。
グリッチを発しながら広がる光の波動がミルに触れると、たちまちノイズとなって消えてしまった。
「ふ、フッフッフ...フハハハハハハ!アーハハハハッ!!見たかバケモノめ!!!」
ミルを打ち破ったインペルは不気味に笑っている。
「...そんな...」
「今、何が...起こったんですか?」
それを見ていたネリンとレイが呆然として質問する。
ダクラも声が出なくなってしまった。
「根源破壊...今のはインペルの必殺技的なやつだ。」
そんなみんなを見て、ロウが口を開く。
「ヤツの神ノ加護、『操作』はあらゆるものを操作するという能力だ。
今の技は形而上学操作の上位の能力で、存在という存在や概念という概念すら操り、ミルという存在が成り立つための要素、設定を根源から破壊するというものだ。」
「そんなの...最強じゃないですか...」
「いや、そうはいかないから序列10位なんだ。見てみろよ。勝負はまだ終わっちゃいねぇぜ!」
そう言われて見てみると、ミルが立っていた位置に微かにグリッチが発生しているのが見えた。
〈完璧なる法典:バックアップ、再起動〉
そして、ビビビッ!っというノイズと共に再びミルが現れた。
「いやぁ〜、この程度で倒せたと思ってるんですか?」
「ッ!?なぜだ!?防ぐのとは訳が違う。確かに今確実に攻撃が通ったはず!!」
「はぁ〜、君は他の大君主と違い現在存在しているものに依存しています。つまりそれしか能力の対象ではありません。ザイオンやモート、ロウ、ラプラスと言った上位の大君主は存在しないものも対象です。それは――
私も同じです!!」
そう言った瞬間、ビリッと一瞬だけグリッチが走り、更にミルの雰囲気が変わった。
身体から色とりどりの禍々しいオーラが溢れ出している。
「...なんだ...これは?」
インペルがその圧倒的恐怖に押され、少し引き気味になった。
しかし、両者は再び戦闘を開始する。
「お前ができることは、俺にもできる!!」〈完璧なる法典:『根源破壊』〉
「ま、まだだァ!!」〈形而上学操作:レベル7『超根源消滅』〉
上空で2人の攻撃が激しくぶつかり合う様に感じた。
形而上の存在が激しくぶつかり合い、それに呼応してフィールドが揺らいでいる。
だが、インペルの攻撃がミルの攻撃に推し勝ち、ミルは再び攻撃を食らってしまった――かのように思われた。
インペルが気がつくと、ミルは既に懐にいて、インペルお腹に右手を置いている。
「...は?」
「いやぁ、流石に完璧なる法典だけじゃ無理みたいだ。そこは認めるよ。」
「...そうかよ...バケモノめ...」
「フッ、あばよ。」〈超宇宙:バースト〉
ミルが技を放つと、とてつもなく眩しく太い光の線がフィールドを貫いた。
インペルは一瞬で消し飛び、光の通り道がボイドとなって白く光っていた。
その光景にみんなは言葉を失っている。
「し、しゅーりょー!!2試合目の勝者はミル様でーーす!!」
かろうじて放送委員が放送し、少し間を置いて、盛大な拍手と歓声が巻き起こった。
「勝った...ミル様が勝ったーー!!」
「いぇーい!!」
レイ達やダクラも大喜びだ。
そして、ミルが席に戻ると、みんなは全力で祝った。
「とりあえずこれで1勝1敗かな?」
「いや、あの時のはノーカンだろ!」
「あのバカに一撃入れてくれて、オレとしてもスッキリしたわ!」
「お前ってやつは...」
ロウやザイオンも嬉しそうにしている。その傍ら、
「...釈然としないな...」
と、ミルは呟く。
ミルの因縁の対決は、まだ始まったばかりだった。
少しでも、
「面白い!」「展開が気になる!」
と思ったら、ぜひ☆☆☆☆☆評価、感想で応援お願いします。
ブックマークがいただけると、大変励みになります。
〈主な登場人物〉
ミル:常世零階層を統べる大君主。厨二病でお調子者。とても寛大。一方で暗い過去を持ち、インペルとジェストとは仲が悪い。
インペル〈神ノ加護:操作〉:天界第三階層の大君主。バグが大嫌いで、そのせいでミルのことも嫌っている。ある事件が起きてからは余計に関係が拗れてしまった。神ノ武器の能力は触れたものをコードレベルで破壊したり、操作したりすることができる。この武器は形而上の存在がこの世に具現化したようなものでもある。傲慢だが意外と真面目な一面もあったりなかったり。人間で言う24歳くらいの見た目。




