第26話 バトロワ決勝
5人は再び中に入ると、今度は開けた河原に出た。
すぐ近くに綺麗な川が流れている。
「今回の魔水晶は僕が持つんだね。」
ヴィジは魔水晶の入った腰バックを装着する。
「そうだ。お前の能力は近、中、遠距離戦闘にサポートもできるオールラウンド型だからな。」
「魔水晶をオーラで包んでガードしたりできるしね。」
5人は作戦の確認を終え、開始の合図を待つ。
そして、決勝開始のサイレンが鳴り響くと一斉に森へと駆け出した。
「よし、敵との遭遇率が低い最初の5分は予選のようにポイント優先だ!!」
5人は冷静に魔物を倒していく。
魔水晶の魔力につられて次々に襲ってくる魔物達。予選より人数が少ない分、魔物の数が増えている様だ。
「いいペースだな。」
「そうだね。でも敵との戦闘に備えて力は温存しとかないとだから、能力の使いすぎには注意だね。」
5人はいいスタートで決勝を始めることができた。
――順調に魔物を倒していく5人。
「もう第一収縮終わったのに、音沙汰ないなぁ。」
「全然接敵しないわね。」
しかし、未だ接敵がなかった5人だが、突然嫌な気配がした。
「魔物か...?」
「いや違う、この気配は...魔水晶だ!来るぞ!!」
するとレイの足に植物が絡みついてきた。
「しまった!罠か!」
その瞬間、前からとんでもない暴風が襲ってきた。
「くそっ!風が斬撃みてぇになってやがる。」
その風は刃のように鋭く、神力でガードするも、少し切り傷がついてしまった。
「レイ、大丈夫?」
「あぁ、問題ねぇ。」
レイはすぐに傷を回復し、
「お前たちは誰だ!」
と、叫んだ。すると、
「へぇ~、切り刻んだつもりだったのに。大した神力量だ。」
と、言いながら、一人の白髪の男が姿を現した。後ろにはメンバーがついている。
全員隊服にローブのようなものを纏っていて、魔法使いのようだ。
「バカ正直に姿を見せるとは...」
「お前らが噂の邪教徒どもか。ここでカタをつけてやる。」
「ッ!?てめぇらも反ミル軍の連中か。」
対面するなり、いきなり罵ってくる敵チーム。
どうやらインペル軍代表ではないものの、ミル軍を敵対視しているようだ。
「ラプラス様はミル様の親友だと言っていた...つまりおまえたちはジェスト軍代表だな。インペル軍と仲がいいってウワサで聞くぜ。」
「『最凶』の大君主、ジェスト様の...」
「黙れ...お前らごときが我が主君、ジェスト様の名前を出すんじゃねぇ!!」
風使いの男はいきなりキレると、攻撃を仕掛けてきた。
「くらえ!風魔法。」〈旋風斬〉
「さっきの風が来るぞ。」
その男の風は地面を削りながら迫ってくる。
「ここは私に任せて。」〈神聖叫喚〉
しかし、フラクタの技によって2つの攻撃はぶつかり合い、相殺された。
「馬鹿でけぇ音だな。まぁいい、全員でかかるぞ。」
「「任せろ。」」
今度は一斉に襲いかかってきた。
「俺達も攻撃とサポートのフォーメーションでいくぞ!」
「「おっけー。」」
5人もそれぞれ役割を決め、戦闘に入った。
「植物魔法。」〈蔓〉
「植物なら相性最悪だな。」〈猛火〉
小っさくて、青緑色の髪をした女の子が放ってきた植物を焼き払うウェント。
「げげっ!!詠唱なしでこの威力...あたしと相性最悪じゃない!!」
「だからそう言ってるだろ...」
「炎使いは俺に任せろ!!水魔法。」〈水竜〉
今度は藍色の髪をした男が水の竜を出してきた。しかし、
「ハハッ、そんなの俺でもできるぞ。」〈水撃砲〉
と、レイの技で相殺する。
「なつ!?貴様の能力は雷系ではなかったのか!?」
「風も水も使ってたわ。うぬぼれて試合をちゃんと見てないからだよ。」
両者は攻撃と口撃を織り交ぜながらの戦闘を繰り広げる。
「うちの主君とメンバーを侮辱したこと、後悔させてやるぜ。」
「後悔させるのはこちらのセリフだ。」
双方の間に緊張が走った。
「蒼炎魔法。」〈菖蒲〉
「炎魔法。」〈薔薇〉
互いに攻撃を撃ち合い、相殺される。
「そっちにも炎系がいるのね。なら...」〈神ノ力〉
「させないよ。土魔法。」〈大地の腕〉
ネリンはそこにあった岩をボコッと持ち上げ、相手に投げ飛ばす。
敵は岩を砕くもその欠片も操り、そのまま降りかかった。
「きゃっ!!」
「長くなれば他のチームが来るな。早々に片付けてやる。」
一進一退の攻防が続き、周りには凄い風が吹き荒れる。
――第二収縮が始まるも未だ決着がつかない2チーム。
「ウザってぇなぁ、クソどもぉ!!」〈真空砲〉
なかなか倒れないヴィジ達にイライラした風使いは、ヴィジだけを狙い撃ちし、吹き飛ばす。
「うわぁぁ!!」
「ヴィジ!?」
「あいつが魔水晶を持ってんだろ?だったら俺が壊してやらないとなぁ!!」
風使いは吹き飛んだヴィジを追う。
「まて!!」
「行かせないよ!植物魔法。」〈ウッドウォール〉
「君達の相手は私達。」
「上等よ!!」
レイは助けに行こうとするも木の壁に阻まれ、ヴィジと風使いを除いた4vs4の戦いが始まった。
「土魔法。」〈土砲撃〉
〈波滅〉
土でできた弾を破壊すると、土煙となってフラクタ視界を奪う。
「ゴホッゴホ!」
「フラクタちゃん、大丈夫?」
「うん、大丈夫。」
「お喋りとは、余裕だな。蒼炎魔法。」〈火炎乱舞〉
「危ない!」〈風撃砲〉
息つく暇もない攻撃にレイ達の体力が無くなっていっている。
「ハァハァ、くそっ!ヴィジを早く助けに行かないといけないのに。」
「なぁに安心しろ。あいつはうちで一番の手練だ。あのバグ野郎は今ごろただでは済んでないだろう。終わってないって事はいたぶって遊んでるのかもな。」
つらそうなレイ達を見て、水使いが余裕の表情で煽ってくる。
「ヴィジくんは、大丈夫だ!」
「人の心配より自分の心配をしろ。蒼炎魔法。」〈蒼炎破壊〉
「ぐぁぁぁ!!」
「きゃぁぁぁ!!」
追い打ちをかけられる様にモロに攻撃を食らう4人。
「どうだ。お前らなんか祓魔師になるどころか、まともに生きる資格すらねぇんだよ。」
「ハァハァ、なんだと!!」
攻撃できずに口を開くのがやっとだ。
「バケモノに盲目的に従うゴミは世界の脅威だ。」
「盲目的なのはそっちもでしょ!!」
「なに、俺は事実を言っているんだよ。お前達は見なかったのか?この都市の南側に延々と続く荒廃都市を!」
それを聞いて、4人はあることを思い出す。
「第三階層...神話の時代...隠蔽...まさかあれが!?」
「ハッハッハ、やっと気づいたかゴミ共め。あれのせいで、この階層の罪なき命が何百億失われたと思っている!!」
水使いさそう言うと、ネリンを踏みつける。
「ぐぅっ!?」
「くっ、度が過ぎるぞてめぇ!!反則負けになりたいのか!!」
それを見たレイは、ブチ切れてそう叫ぶ。
「ハッ、ならねぇよ。この大会の主催者はインペル様だぞ...」
その言葉にみんなはハッとする。
「どこまでクソなんだ...」
「ハハハッ...というわけで終わりだ。水ま――。」
相手が余裕な表情でトドメを刺そうとすると、突然とてつもなく禍々しい気配が近ずいてきた。
そのあまりに恐ろしい気配に、その場のみんながゾッ震え上がる。息がつまり、気を抜いたらその恐怖に意識を持っていかれそうな感覚がみんなを襲う。
「なななっ、何なんだこの気配は!?」
「こ、この気配、ヴィジ...なのか?」
横を見ると、ドス黒いオーラを纏ったヴィジが、風使いをズルズル引っ張って歩いてきた。風使いはボロボロで虫の息だ。
「へぇ?...何があった...」
「ヴィジ...くん?」
ヴィジの豹変ぶりにみんな驚愕した。
「みンな...あとハ任セて。」
ノイズがかかった様な異質な声はみんなの恐怖を煽る。
「...なんかやばくないですか。魔物に取り憑かれて...」
「いや、それはない。」
試合を観戦していたダクラとミルもその異変に気づいた。
そして、ヴィジはひと息つくと、一瞬で水使いの元に移動した。
「えっ?」
「死ネ。」〈漆黒炎〉
漆黒の炎が水使いを包み、一瞬で蒸発させた。
「何が起こっ...」
〈霊力刃〉
「ぐはぁ。」
そして、土使いと植物使いも、何か言い終わる前に倒してしまった。
「ヴィジ?お前本当にヴィジか?」
「螟ァ荳亥、ォ縺?繧。」
「く、く、くるなぁ!!バケモノォォ!!蒼炎魔法。」〈神炎...〉
蒼炎使いが抵抗しようとするも、能力を発動する前に胸ぐらをつかまれる。その瞬間能力が使えなくなり、
「豁サ縺ュ!!」
と、ヴィジが叫ぶと蒼炎使いは消滅してしまった。
そして、全てが終わるとヴィジの周りのオーラが消え、いつもの雰囲気に戻った。
「あれ、僕は何を...」
ヴィジが気がつくと、バトロワの扉の前に立っていた。横にはジェスト軍代表が意識を失って倒れ込んでいる。
「い、今のはなんだったの?」
「分から...ない...けど何故か暴走したみたいだ。」
「ここは...」
ヴィジは辺りを見渡す。
「過剰な攻撃のルールに抵触して失格になったみたい。」
「そっか...ごめんね。」
「なんで謝るんだよ。俺ら助かったんだし、むしろありがとうだよ。」
「そうよ。」
「なんかミル様とミル軍のみんなをバカにされて...僕自身のことなら慣れてるけど、許せなくて...怒って...気づいたらこうなってた。」
ヴィジはガックリと肩を落とす。
「怒ると暴走するのか...?」
「今まで怒ったことなんて無かったから、知らなかった。」
「まぁ何はともあれ、無事で良かった。」
足がフラフラなヴィジはレイの肩を借りて仮眠室へ戻っていった。
仮眠室に行くと、心配そうな顔でミルとダクラが待っていた。
でも、ミルは5人の顔を見ると笑顔で、
「よく頑張ったね。」
と、励ました。
その言葉に、ヴィジの気持ちは少し晴れるのだった。
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〈主な登場人物〉
ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公
レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。
フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。
ウェント〈神ノ加護:炎魔法〉:優しい性格の持ち主。頭が良く、判断力に優れている。
ネリン〈神ノ加護:サイコキネシス〉:天真爛漫で活発な性格の女の子。頭はあまりよろしくないが、攻撃力はピカイチ。




