第19話 決戦
静寂の時は流れ、深夜0時まで残り5分を切った。
5人が監視塔から都市を見渡していると、はるか遠くの方から微かに煙が上がり始める。
「ついに始まったんだね...」
「あぁ、戦いが起こってるということはステラさん達の言う通りヤツらの狙いは大魔法なんだな。」
「アタシ達にはただ見ることしかできないなんて、悔しいわ。」
5人は高性能の双眼鏡で観察しながら、心配そうに話していた――。
同刻A地点。正五角形の頂点を北から右回りにA,B,C,D,Eとした時の最北端。ここではナリシアを含む約10人の祓魔師が交戦を始めようとしていた。
「やはりいたか祓魔師どもが。いっぱい連れてきて正解だったぜ。」
A地点には予測通り反神者が現れた。リーダーっぽい男の後ろには15人程の仲間が立っている。
「大魔法『粛清』は今宵、この都市を跡形もなく消し去る。この計画は止められない。たとえ大君主であってもなぁ!」
「ふん、くだらない戯れ言を...」
「俺たち上級隊士の力を甘く見るなよ。」
双方の間に冷たい空気が流れる。
「いけぇお前ら!計画完遂は目の前だぁ!!」
「俺達もいくぞ!こんなふざけた計画絶対に止めるんだ!!」
掛け声と共に激しい戦いが始まった。
「聞こえるか?こちらA班。交戦を開始した。」
ナリシアは責任者としてみんなに無線を繋ぐ。
〔こちらD班。こっちも今交戦を開始したわ。〕
まだ魔方陣が完成していない地点AとDは交戦が始まったようだ。どちらも森で自然に囲まれており、煙が広がっている。
D班の責任者はステラだ。
〔こちらE班。今のところ異常はない。一応村人の避難は終えている。〕
〔B班も異常なし。〕
〔C班も同様です。〕
他の班と連絡を取っていると、
「おいおいよそ見なんてずいぶん余裕じゃないかぁ!!」
と、敵が攻撃をしてきた。
「くそっ、約3km後方の高台から指揮をとっていたのにもうここまで...」
あたりを見渡すと森は燃え、山は崩れ、大地がひび割れている。
「力の強さは能と比べても頭2つくらい抜けてるけど...こいつら...前戦った3人より格段に強い...」
「ハッハッハ、今のオレ様達は能天者並の力を持っている。楽しませてくれよ!!大地魔法。」〈大地の怒り〉
「なんの...」〈熱操作〉
そうしてナリシアも戦いに参戦した。
一方ステラ達も交戦を続けている。
「星魔法。」〈星明の戯れ〉
「ぐぁぁぁ!!」
「ふぅ〜。倒すのは簡単だけど、殺さないようにしないといけない分大変だわ。それにミル様の大切な自然を傷つける訳にも行きませんし...」
「ステラ!こっちも手伝ってくれ!!」
「あっ、はい。わかりましたわ。」
こっちも苦戦しつつ確実に敵を倒していっている。
「こっちは何人か負傷してる。応援を読んだ方がいいんじゃないか?」
「そうね。そちらから何人か応援に来てくれないかしら?」
〔了解。〕
他の班と連携を取りながら、1人、また1人と倒していく。
そんな中ナリシア達はある違和感を覚えていた。
〔ステラ。ヤツらと戦ってるとき、何か違和感がないか?〕
「違和感?」
〔あぁ、なんか戦いに計画性がないというか、倒される前提で突っ込んできてるような。〕
「言われてみれば、確かに最初に大技を打って気を引き付けたあとはひたすら逃げたり、それなのにこちらが攻撃をすれば簡単に倒されたり...」
〔それに人数も少なすぎるよな。最初は15人くらいで、あとからぞろぞろ出てきて今30人程になった。それでもそっちと合わせて60人ちょっと...必要な魔力量を全然満たしてない。〕
「そうねぇ。あっ、わたくしは戦いに戻らないといけないので何かわかったらまたご連絡を。」
ナリシアとステラは何か嫌な予感がしていたが、そのまま交戦を続けていた――。
戦いが始まってしばらく経ったころ、本部に1つの人影が近づいていた。
監視塔にいた5人はその気配に気づき正門の前まで降りてくる。すると、正門の前にある長い階段の奥の暗闇からコツコツと誰かが登ってくる音が聞こえ始めた。
「だ、誰だ!そこにいるのは!」
レイがそう叫ぶと、
「いやいやすまない。ちょっと急用でね。」
と、女の声がして、その姿が見え始めた。
その女は白いミル軍の隊服を着ていて肩にはダクラ部隊のシンボル、胸には『力』のエンブレムを付けている。
長髪で年齢はナリシアやステラより少し年上くらいに見えた。
「ダクラ部隊の...先輩?」
「こんな人いたっけ?」
レイとネリンは顔を見合わせる。
「何のようですか。ここに他の隊士は来ないことになってるんですけど。」
ウェントは少し怖い声でそう問いかけた。
「あぁ、あたしはエネ。さっきステラにちょっとした頼み事をされてね、ここの監視塔に用があるんだ。だから少しの間ここかりるね。」
エネはそう言うと5人の間を通って門をくぐろうとする。
「ステラさんに言われて...そういうことなら...」
レイが納得していると、いきなりウェントが無言でエネめがけて攻撃を放った。
ドォンと煙が舞う。
「!?ちょっとウェントくん!?」
「なにしてるの!?」
4人がウェントの行動に驚愕していると、
「何をするつもりなんだ。」
と、ウェントが話始めた。
「さっき気配を感じたとき、僕はナリシア先輩とステラ先輩に確認をとった。『誰か監視塔に来る予定はありますか?』と。2人とも無いと答えた。つまりお前が言っていることは嘘だ。ここに何をしに来たんだ!」
ウェントが少し声を荒げてそう言うと、
「はぁ、大人しくしていれば痛い目に合わずに済んだものを...」
と、煙の中からエネが出てきた。身体は無傷だ。
「少し警戒を怠ったな。」
そう言って指をならすと本部の周りに結界が張られた。
「その隊服...まさか力天者を...」
「ん?あー違う違う。これは紛れもなくあたしの物だ。」
「どういうことだ。」
「察しの悪いガキだな。あたしは元ダクラ部隊の力だったんだよ。」
「「ッ!?」」
5人はその言葉に思わず息をのんだ。
「あなたがこの事件の主犯ってわけですね。なぜこんなことを...」
「...いいだろう。聞かせてやろうじゃないか。あれはまだあたしが入隊して間もない頃――。」
ウェントの問いにエネは動機を話し出した。
「あたしは飛び級で権になり、さらにすぐ能となった。その成長ぶりを買ったのかあたしはダクラ部隊にスカウトされ、あの人の近くで働くようになった。」
「あの人って...もしかしてミル様のこと?」
「そう。あたしはあの人を尊敬していたし、崇拝していた。あんなことがあるまではね――。
力へ昇格したある日、仕事でたまたま天界第三階層に行く機会があって...本来、零階層の隊士は出禁になってるんだけどその時はあたしだけ許可されて...その時知ってしまったの。あの人があんなことしてたなんて!」
エネは話しながらだんだん感情的になり始めた。
「あんなことって、ミル様の因縁の話ですか?」
「第三階層の大君主と因縁があるのは知っている!ダクラのやつにそう教えてもらったからな。『システムの墓場』送りにされた経緯を!でも肝心なところは詳しく知らないとはぐらかされた。」
その話に5人とも心当たりがあり、ウッと息が詰まった。
「確かにダクラ様は『ある大事件』としか言ってなかったな...」
「本当は全部知っているのよ。あの2人は恐ろしい人達だ。あたし達をだまし続けて。だから一度闇討ちしようとしたけど失敗して捕まってしまった。
『憎い同僚がいたから報復しようとした』って嘘ついたから罪が軽くなって、除隊と対能力者専用の刑務所に入れられるだけで済んだわ。そしてそこで志を同じくするものと出会い、長年計画を練り、出所後も仲間を集めて、今日という日を迎えた訳よ!!」
「だ、だからって第三階層で得た情報が印象操作かも知れないし...」
「だったらなんであの人は罰せられたんだ!!ただの第三階層の大君主の私情じゃない。全ての大君主が集まる裁判で裁かれたんだ!!今まではただ危険なバグとして濡れ衣を着せられのだと思っていた。でもあんなこと...疑う余地のない証拠を提示されて、信じない方が難しいんだ!!わかったら邪魔をするなぁ!!」
エネはついに攻撃をしてきた。
5人は何とか攻撃を避けたが、エネの圧倒的な覇気に足がすくんでいる。
「結界のせいで外と連絡が取れない。」
「てことは、ぼ、僕達だけでこれを相手に...」
「現役でないと言っても元力天者...」
「くそっ、まだ入隊したばっかなのに。」
「フ、フッフッフ。おいおいどうした?ビビってるのか?」
エネはやる気満々だ。
「やるしか...ないみたいね...」
絶望の中、ついに5人vs事件の主犯エネの決戦が幕を開けるのだった――。
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〈主な登場人物〉
ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公
レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。
フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。
ウェント〈神ノ加護:炎魔法〉:優しい性格の持ち主。頭が良く、判断力に優れている。
ネリン〈神ノ加護:サイコキネシス〉:天真爛漫で活発な性格の女の子。頭はあまりよろしくないが、攻撃力はピカイチ。
ナリシア〈神ノ加護:解析操作〉:ダクラ部隊の能天者。真面目で元気な性格。お姉さん気質で多少厳しいところもあるが優しい。
ステラ〈神ノ加護:星魔法〉:ダクラ部隊の力天者。とても清らかで美しい見た目をしている。その正体は零階層屈指の貴族の娘。性格も穏やかで戦い方も美しい。
エネ:元ダクラ部隊の力天者。ものすごい才能を持っていたが、ミルの過去を知ってしまいミルに強い嫌悪感を抱いている。




