第18話 伝説の大魔法使い
「カタルシス?なんかどこかで聞いたことある用なないようなぁ。」
「あぁ、聞いたことあるな。」
プリムンズの3人はあまり知らないようだが、ナリシアは知っているみたいだ。
「そうね。ナリシアちゃんなら知ってるはず。」
そして、ステラがその大魔法について説明し始めた。
「大魔法『粛清』。これはかつて貴族でありながら史上最強の主と呼ばれた、天界第三階層の祓魔師が使用した大魔法で、その魔法使いは第三階層では学校の歴史で習うから知らない人はいない偉人よ。
その名はカタルシア=ペイシェン。根源魔法という『事象の根源』を操る魔法を使用したの。例えば相手が能力を発動してもその根源となる天賦力を操作して能力を無効化したり、時に生命の根源、人なら心臓、天地者やバグなら核を破壊し即死させることもできたらしいわ。その力はほぼ因果律操作と言っていいでしょう。
そんな彼にもある悲劇が訪れます。」
ステラはそう言うと静かにレイの方を向いて、
「レイくん。約74億年前に第三階層で何があったか知ってるわよね?」
と、質問してきた。レイは突然の質問に少しキョドりながら、
「えっ、え〜と...あっ、革命戦争ですか?」
と答えた。ステラはニコッと笑い、話を続ける。
「そう。数万年に渡った大規模な革命戦争の発端は小規模な権力争いだったの。当時は各国の代表より祓魔師の下級隊士の方が権力を持っており、『ただ力を持って生まれただけの一般市民が偉そうにするな!』って各国の王や皇帝などの代表が、祓魔師に不満を持って攻撃し始めたの。もちろん能力を持たない一般兵がどれだけ集まろうと、たった数人の祓魔師によって鎮圧されたわ。
だけど、武力行使で鎮圧したことによって各国の反発が強まり、能レベルの強さを持った貴族の魔法使いや加護使い、さらには魔王や神王までも戦争に参戦。戦場は混沌となったわ。
何度も代表同士で話し合いをしたけれど、結局はまとまることなく、冷戦と熱戦が繰り返されながら戦争は終わらず、最終的には第三階層の約6割に上る国々が戦争に参戦したの。その数約3000ヶ国。
そしてその影響で――。」
「戦争意志『アレス』が発生したという訳ですか。」
ステラに続けてレイがそう言い、ヴィジ達は納得したようにうなずいた。
「この前見たのでしょう?だけど当時発生したのは、合わせて約1400億人分の『念』を持った2体のアレス。ψ級に匹敵する怪物に多くの犠牲者が出たわ。
アレスはとてつもなく重いバグで、物理攻撃は愚か概念攻撃すら、この世のシステムの範囲内にある以上バグで上書きされてしまう絶望的な敵だったの。
そんな時、当時大君主の側近だったカタルシアは、持っていた魔導書に書かれた魔法を自身の魔法と組み合わせてある魔法を生み出したの。
自身の持つ『諸悪の根源を消す』魔法を応用して『自身にとって悪となる存在を消す』魔法を作り出した。それが大魔法『粛清』よ。カタルシアはそれを使った反動で力の大半を失ってしまったけれど、アレスを撃退し戦争も収めることができた。これがカタルシアの伝説ね。」
ステラの話が終わるとプリムンズ3人はヤンヤヤンヤと拍手をする。
そしてナリシアは、
「その魔法が今回の魔法だと言いたいのか?いまいち話が見えないんだが。」
と、ステラに質問をした。ステラはコクリとうなずき詳細を話し始めた。
「さっき話した粛清だけど、もちろん無条件で発動できるはずもなく、色々と条件付けがされているのよ。それが『発動の時は中秋の名月の夜、深夜0時から丑三つ時。方角は北を上に。骨格となる魔法陣は祝福の炎。』という感じで...」
「なるほど。でも事件が起きたのは中秋の名月じゃないし、何より規模が小さくないか?確か粛清って消したいものを魔法陣で覆う必要があったはずだが。」
「そう思うわよね。でもこの条件には抜け穴があるの。
まず発動は複数人でも行えるということ。この魔法は念を材料として発動する能力なので、同じ思いの人達が集まって発動させることができるの。その必要な魔力量はカタルシアの8割。平均的な能天者の約100倍ね。
そして魔法を発動するのは中秋の名月の日だけど、発動の準備をするのは深夜0から丑三つ時というところを守っていれば問題ないの。
それに、粛清の魔法陣は6つの五芒星を使うのよ。」
「発動の準備...まさか!?」
ナリシアはステラの言葉で何かに気づき、急いで事件の場所を記した地図を取り出した。
「この赤い点はこれまでに起こった火事の場所を示している。この3点を頂点とする三角形を描いたとき、その内角は...36°,72°,72°か。」
そして能力で三角形の内角を測る。
「確か正五角形で1つの頂点から右回りにA,B,C,D,Eとすると、△BCEの内角もそれぞれ36°,72°,72°,となる...」
「「!?」」
ナリシアの言葉にみんなはハッとする。
「つ、つまりあの魔法陣は本命の一部でしかなく、大魔法の魔法陣はあの五芒星を頂点としたさらに大きな五芒星ということですか!?」
「恐らく...儀式の順序的に頂点が5つ揃った時点で魔法が発動可能になるのでしょうね。でも何のために...」
ナリシアは地図に目をやる。
「印の位置はどれも本部がある自然都市『ミルキーウェイ』の端の方にある...都市全体を囲うように...もしかして!?」
「えぇ、6つ目の五芒星は5つの小さな五芒星を頂点とした都市を覆うほど巨大なもの。
今まで捕まった反神者の約8割が天界第三階層の象徴を持ってました。第三階層の大君主は昔からミル様にとても深い因縁を持っているため、その過程で反神者達はミル様を恨み、ミル軍の隊士を恨み、この階層を恨み、本部もろとも消し去ろうとしたのではないでしょうか。魔法の効果は『自身にとっての悪を消す』ですからね。」
「今日は9月20日...今年の中秋の名月は21日...つまり猶予はあと約14時間。
もしその話が本当なら大変なことになるわ。今すぐ隊士集めて見張らせましょう。幸い座標はわかってるから。」
ナリシアは今すぐに仲間を集めるため急いで帰る準備を始めた。ヴィジ達やステラも帰る準備をする。
「という訳なので、ワタシ達はこれで。」
「なんだか大変みたいですね。大魔法が発動されれば止めることはできません。どうかお気をつけて。」
「ご忠告ありがとうございます。まだ確定ではないため、随時情報を送るので何かわかったらご連絡お願いします。」
「任せてください。」
ライト魔王とエルク大公にあいさつをすると、5人は飛び出すように宮殿を離れ、スペーシア魔王帝国を後にした。
支部に戻るとすぐさま部隊全員を招集し事情を伝え、作戦会議が終わり次第残りの魔法陣の予想地点と既に完成した魔法陣の場所に待機してもらうことになった。
そして残った下級組5人を車に乗せ、
「他の部隊からの応援も呼んだ。ダクラ様はミル様と大事な会議に地界まで行かれているため今回は手を貸して貰えないかもしれない。ワタシ達だけで頑張るぞ。」
と、ナリシアは声をかける。すると、
「もちろんですよ。」
「この前の合宿で僕たち強くなりましたから。」
「任せてください。」
と、5人は十分に気合を入れて応答した。
「まぁ、お前達は主戦場ではなく本部の留守番だ。ミル様達が留守とはいえ何があるかわからんからな。あの人はいつ帰ってくるかもわからんし。普段門番をしている隊士も戦いに参加してもらうから本部にはお前達だけしかいないが大丈夫か?」
「「はい!」」
5人はナリシアに連れられ本部に向う。
「じゃあ頑張れよ。何かあったら報連相を忘れるな。」
本部に着くとナリシアは持ち場へと戻って行った。
「まさか大魔法なんてね...」
本部の上の監視塔に登ってしばらくすると、ウェントが口を開いた。
「粛清のこと知ってるのか?」
「うん。あまり知られてないんだけど、魔法って本来、地界由来の力で天界で魔法を使ってるのは代々魔法を受け継いできた家系だけなんだよね。つまり僕の実家もそこそこデカい家系で、ある程度魔法に関する知識はあるんだ。」
「あぁ、確かにステラさんも貴族出身だし、大魔法使いカタルシアも貴族だったな。」
日も落ちてきて少し肌寒い秋の風が塔に流れ込む。
「...これからどうなってしまうんだ。」
決戦の時が近づいてくるにつれ実感が湧いてくる。
「大魔法を使おうとしてる人達だから、きっと相当な数で襲ってくるはずよね。」
「そうだね。発動に関わる人達はみんな魔法陣の範囲内にいないと行けないから。」
「大丈夫...かな...」
「きっとね...」
5人は本部の監視塔から自然都市と呼ばれるにふさわしい広大な自然に囲まれたミルキーウェイの静けさに身を任せていた。
嵐の前の静けさと言うべき、決戦の前とは考えられないほど心地よい風がみんなの前を吹き抜けていく。
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〈主な登場人物〉
ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公
レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。
フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。
ウェント〈神ノ加護:炎魔法〉:優しい性格の持ち主。頭が良く、判断力に優れている。
ネリン〈神ノ加護:サイコキネシス〉:天真爛漫で活発な性格の女の子。頭はあまりよろしくないが、攻撃力はピカイチ。
ナリシア〈神ノ加護:解析操作〉:ダクラ部隊の能天者。真面目で元気な性格。お姉さん気質で多少厳しいところもあるが優しい。
ステラ:ダクラ部隊の力天者。とても清らかで美しい見た目をしている。その正体は零階層屈指の貴族の娘。性格も穏やかで戦い方も美しい。
ライト:ステラの伯父。スペーシア魔王帝国の魔王だがとても優しく民思い。
エルク:ステラの父。スペーシア魔王帝国の大公。親バカ。




