第17話 大魔法『粛清』
次の日、早朝にプリムンズの3人はナリシアに会議室に呼ばれた。
3人はあくびをし目を擦りながら会議室に入る。取調べを終えたのが朝の3時頃だったのでとてもつらそうだ。
「昨日...今朝現場に残って事件の調査をしてくれた祓魔師からの結果報告をする。
まず犠牲者負傷者共に0、家が燃えた以外の被害はない。そして燃えた家は残骸を使って魔法を発動されることを考慮して、祓魔師側で取り壊しと再建を行うことになった。
現場に残された魔力の残穢からその場にいた反神者は3人でほぼ間違いないそうだ。使われた魔法の効果や発動方法、犯人の目的などは現在も調査中。以上が今回の報告だな。」
会議室につくと昨日の夜の調査報告をする。
「同じような事件が他の場所でも起こったと聞いたんですが、本当なんですか?」
「あぁ、それについても話そうと思っていた。近頃起こった事件は3件、いずれも大きな被害は出ていない。1ヶ所は山、もう1ヶ所は荒野だったらしい。
どれも犯人は捕まったが、まだ仲間がいる可能性があるため今後パトロールを強化する方針だ。」
「なるほど。じゃあ今日はパトロールですか?」
「いや、他のヤツらに調査を任せてると言っても主任調査員はワタシ達だから今日は調査の続きだな。
昨日言ってた同僚の魔法使いから情報をもらったから、今日はそいつも連れて行く。」
ナリシアはそう言うと準備をするように促した。
3人がとりあえず準備をして玄関で待機していると、奥から1人の女性が歩いてきた。
「紹介しておこう。ワタシの同僚で『力天者』のステラだ。」
「プリムンズのみなさん、今日はよろしくお願いしますね。」
「「「よろしくお願いします。」」」
「すごい綺麗な人だなぁ(小声)。」
「確かにね(小声)。」
レイはヴィジにそうコソコソ話をする。天使のように美しい姿に見とれてしまったようだ。
「そういえば今日ってどこに行くんですか?また山村ですか?」
そんな2人を横目にフラクタは質問をする。
「そういえば言ってなかったな。今日はあの魔法の正体を探るべく、『魔導書』を持つ貴族の元に行く。」
「魔導書?貴族?祓魔師の本部などには無いんですかね?」
「そもそも魔導書とはあの村人達が使っていた魔除の札のようにそれ自体に術式が組み込まれた魔具だ。ただ魔除の札と違うのはある程度の力を持っていないと扱えないという点だな。
魔導書を扱うにはまず一定以上の『魔力』量を持つことが必須で、正しい呪文の詠唱、手印、動作、魔力操作などの技術が求められる。ルーツなどは長くなるため割愛するが、魔導書は数に限りがあり決められた人しか持つことが許されない。それが代々高等魔法を受け継ぐ貴族なのさ。」
「そう。そして今から会いに行く貴族というのがわたくしのお父様になります。」
唐突なステラの貴族COにプリムンズの3人は驚きつつも何となく納得したようにうなずいた。
「だからそんな透き通った綺麗な声とお嬢様口調なんですね。納得です。」
「ふふっ、レイくんはお世辞が上手ねぇ。」
「はいはい、早く行くわよ。」
5人はナリシアが運転する車に乗りこみ、貴族のいるスペーシア魔王帝国に向かう。
しばらく車を走らせ本部に着くと飛行機に乗り換えた。
目的地付近に着くと飛行機が専用の滑走路に着陸し、5人はスペーシア魔王帝国の中心部にある宮殿に向かった。
「さぁ、ここがわたくしの実家のスペーシア宮殿ですわ。」
宮殿に着くと、そこには本部の3倍はあろうかという超広大で豪華な敷地が広がっていた。遠くの方にでっかい宮殿が見える。
「ひっろーい!!」
「こ、こんなの初めて見た!!ミル軍の本部どころかザイオン軍の本部よりも明らかにデカいよ!」
「すごく綺麗だわぁ。」
みんなは初めて見る王貴族の宮殿に驚きつつ見とれている。
「ここにはわたくし達一族の本家の人達が暮らしています。伯父様であるライト=スペーシア魔王にお父様であるエルク=スペーシア大公。その他にも何人かの親族が住んでいますわ。」
「魔導書を持つ規模の貴族は零階層だとここだけだからな。くれぐれも粗相のないように行くぞ。」
「ま、魔王...」
レイ達はゴクリと唾を飲む。
そして宮殿の中へ入っていき、魔王にあいさつをしに行った。
「初めまして、祓魔師ミル軍ダクラ部隊の『能』であるナリシア・オペティオです。」
「同じく無称号のヴィジです。」
「同じくレイです。」
「同じくフラクタです。」
プリムンズ3人はひざまづいて頭を下げる。すると、
「こちらこそ遠いところからわざわざありがとうございます、ナリシア様。」
と、ライト魔王が頭を垂れ始めた。
ひざまづいた3人はその光景にギョッとして、声にならない声を出してしまった。それにナリシアが、
「あぁ、知らなかったのか。この世界の権力序列は、(原初の天使、悪魔)→大君主→主→能、力→魔王、神王→皇帝→王→権、貴族→大→称号なし――の順番となっているから、今のお前たちの行動は正しいぞ。」
と、教える。
「そ、それを早く言ってくださ〜い。」
レイは少し不満そうにそう漏らした。だけど魔王と聞いて緊張していたのでホッとした。
ライト魔王が顔を上げると、
「お久しぶりです伯父様。ステラ=スペーシアでございます。」
と、ステラがあいさつをする。
「おぉぉ、ステラちゃん、ずいぶん大きくなったじゃないか。会うのは100年振りくらいかな?」
「そうですわね。今日は先日お伝えしていたように、調査のためお父様の魔導書を見せてもらいたくて...」
「あぁ、エルクならもうすぐ来るよ。アイツも君に会いたがっていたから、喜ぶんじゃないかな?」
そんな風に雑談をしていると、ギィッと後ろの扉が開き、1人の男が入ってきた。とても男らしい出で立ちで独特な雰囲気がある。
そして5人の前まで来ると、
「ステラちゃ〜ん、会いたかった〜。」
と、態度を急変させた。
「祓魔師なんてさぞ大変だろう。辛かったらいつでも帰ってきていいんだぞ。何があってもお父さんが守ってあげるから。あ、なんならここに住んでここから通えば...」
((親バカ...))
4人は若干引いている。
「ウォッホン。愛娘との再会が嬉しいのはわかるがまずはあいさつと案内をしろバカ者。」
「あぁこれは失敬。わたしは大公のエルクと申します。
ナリシア様とプリムンズの皆さんですね。話は聞いています。どうぞこちらへ。」
そう言うとエルク大公はみんなを『魔法書庫』へ案内し始めた。
書庫に着くとそこには大量の本が並んでいる。エルク大公はその中から青紫色のオーラを放っている本を取り出した。
「これが我が家に伝わる魔導書。現在の使用者はわたしだ。」
「おぉ〜。」
「実物は初めて見たけど素晴らしいな。」
「まさに魔導書って感じですね。」
プリムンズ3人とナリシアは初めて見る魔導書に興味津々だ。
「五芒星を使っていたと聞いたが、魔法における五芒星は骨格みたいなもので、基本的にどの魔法陣にも組み込まれている。その情報だけで探すのは結構困難だぞ。
あぁ、だがこの世にある魔導書は全て内容が異なるんだが、共通する部分もある。それはいわゆる伝説魔法や原初魔法、大魔法と言われるやつだな。これらの発動方法や条件などは民間にも知れ渡っている。」
「でもそんな魔法、知ってたところで扱えるものじゃ...」
「うーんそうだなぁ。」
みんなは頭を抱える。そしてその日の状況を振り返っていた。するとナリシアが、
「そういえば炎を使って描いていたので炎系の魔法陣という説はないでしょうか?」
と言った。エルク大公はそれを聞いて、
「うーん、炎魔法についてはあまり知りませんが、可能性はあるかもしれませんね。」
と、魔導書をパラパラッとめくった。
「フレイム...炎魔法を使う同僚がいるんですけど、その人は見たことも聞いたこともないと言っていたので。少なくともただの炎系の魔法を応用した感じではないかと...」
しばらくするとレイがそう言い出した。
「ふーん。それじゃあ二級程度じゃ知りえないような高等魔法の可能性もあるのか。」
「二級?」
「魔法使いにはそれぞれに祓魔師とは別の階級があったりするんだよ。称号なしのレベルならだいたい二級くらいになる。
ちなみに神力を使って能力を発動する加護使いは階級があるかまでは知らないな。」
「へぇ〜。魔法の神力バージョンが加護って言うことも初めて知りましたよ。」
「ハッハッハ、この世界はまだまだ知らないことだらけだぞ。『この世の全てを知ることは誰にもできないが、知ろうとすることは誰にでもできる――』、伝説の大魔法使いの言葉だ。素晴らしいだ...ろ...待てよ...!?
その事件が起こった日はいつだ!?」
少し脱線して話をしているとエルク大公が急に表情を変えてそう言い出した。
「えっと、4日前から昨日にかけてですけど...」
「うーん。もしかしたら...もしかしたらだが、あの魔法はただの魔法ではないかも...しれない。」
それを聞いたステラは思い出したように話し出した。
「あぁ、もしかしてあの伝説の魔法使いの...」
「そうだ。」
「伝説の?それってなんて魔法なんですか?」
「それは禁忌とも言われるとても恐ろしい魔法。かつての大魔法使いが使用された中でも桁違いの威力を有した魔法。それが――
大魔法『粛清』。」
少しでも、
「面白い!」「展開が気になる!」
と思ったら、ぜひ☆☆☆☆☆評価、感想で応援お願いします。
ブックマークがいただけると、大変励みになります。
〈主な登場人物〉
ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公
レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。
フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。
ナリシア〈神ノ加護:解析操作〉:ダクラ部隊の能天者。真面目で元気な性格。お姉さん気質で多少厳しいところもあるが優しい。
ステラ:ダクラ部隊の力天者。とても清らかで美しい見た目をしている。その正体は零階層屈指の貴族の娘。性格も穏やかで戦い方も美しい。
ライト:ステラの伯父。スペーシア魔王帝国の魔王だがとても優しく民思い。
エルク:ステラの父。スペーシア魔王帝国の大公。親バカ。




