第16話 反神者
「五芒星...これはただ事ではないぞ。」
上空から見下ろすと、燃え上がる炎は4人のいる北側をてっぺんに大きな五芒星を描いている。やはり村人達は何も気づいていないようだ。
「あれは一体何なんですか!?」
「これは恐らく魔術の儀式で使われる魔方陣の一種。目的はわからんが魔法が発動されればただごとでは済まないだろう。とにかく敵を見つけるぞ!」
「「「はい!!」」」
ナリシアと3人は犯人確保のため動き出した。
「依代は壊されていない...やはり外から強引に破られたか。
ワタシ達に気づいたとしてもまだ遠くには行ってないはずだ。東西南北それぞれ分かれて行動しよう。イヤホン型無線機で連携をとりながらいくぞ。」
結界を張っている依代のところまで来ると、四手に分かれて行動を開始した。
「犯人を見つける...捜索範囲は広いけどこんな時こそ訓練した『気配感知』を使うんだ。」
ヴィジはそう言うと感覚を研ぎ澄まし、気配感知に全力を注いだ。
(集中しろ...集中しろ...)
犯人を見つけるため南へ走り続けて村の外まで来ると、急に横から気配を感じ足を止めた。
(!?今なにか気配が――。)
するとその瞬間、後方でボボッっと音を立てて火が一斉に消えた。
「なんだ!?」
〔何が起きたんだ!?応答して報告を...〕
〔わかりません。突然火が消えました。〕
〔私のところも同じです。〕
(今の気配...偶然ではないよな。)
ヴィジは即座に気配のした方に走り出した。
(儀式が終了したのか?それとも中断?なんにせよ犯人確保を...)
そう考えながら走っていると前に誰かがいる。よく見ると黒いローブを着て、手に杖を持っている2人の男と1人の女のようだ。いかにも魔法使いらしい格好をしている。
「みんな聞こえる?犯人と思われる人を発見しました。」
〔でかした。すぐそちらに向かう。〕
ヴィジが報告をしていると、
「あーあ、見つかっちゃったか。変な気配がしたと思ったらやっぱいたんだね。祓魔師。」
「ホントだよぉ。天賦力制御が上手いのね。でも儀式は完了したしー、ここでおいとまさせてもらおうかなぁー。」
その魔法使い3人が逃げようとすると、上からドーンとナリシアが降ってきた。
「はやっ!?」
「何よ。アイツらがとろいんだ。
...で、コイツらが主犯者ってわけね。」
ナリシアが相手をキッっとにらんで威嚇する。そして交戦に備えて結界を張った。
「ゲゲッ、こいつ相当強いっすよ。兄貴どうします?」
「ふん。相手は上級隊士1人と下級隊士1人だけだ。敵の能力を見つつ、3人で一気に攻めるぞ。」
「わかりました。」
「おっけーですぅ。」
しかし相手は退くどころか交戦体制をとってくる。ヴィジも負けじと交戦体制に入ろうとするが、
「まてヴィジ、お前はワタシのサポートだ。前線はワタシが張る。そしてレイ、フラクタ、聞こえてるか?お前たちは他の仲間が居ないか捜索を続けろ。」
と、ナリシアに止められた。
「わか...りましたけど...僕の能力はサポート向けではないですし、それに...」
「こいつらは恐らく『反神者』。自身の能力を悪用して犯罪などを起こす我々のもう1つの敵だ。
でも解析で大体の実力は把握しているから安心して。悪く言えば今の君では戦いの邪魔になるでしょうし、それに...出来ないと決めつけるのはよくないって教わらなかった?」
(そうだ...もっと想像力を働かせないと。)
ヴィジはナリシアの言葉で合宿中ミルに言われたことを思い出した。
「何ブツブツ言ってんだ!死にたいのか?」
「兄貴、手始めに連携技で...」
「わかってる。いくぞ。」
色々考えているとさっそく反神者達が攻撃を始めた。
「黒縄魔法。」〈黒縛〉
「等活魔法。」〈断罪〉
「焦熱魔法。」〈深黒炎〉
身動きを封じてからの斬撃と炎の同時攻撃。目にも止まらぬ華麗な連携にヴィジが驚くも、ナリシアは余裕の表情で、
「甘いわ。もう解析は終わってる...」〈削除〉
と、全ての攻撃をかき消した。そして相手が驚いている隙にナリシアも攻撃をする。
「気流操作。」〈風ノ太刀〉
「うわぁ!見えない斬撃がぁ。」
「少し腕が切れましたわぁ。」
「落ち着け、ただのカマイタチ現象だ。攻撃をかき消されるなら数で攻めるぞ!」
相手も負けじと反撃をする。1対3の激しい攻防にヴィジはただただ立ち尽くすことしか出来ない。
割って入ると足でまといになると自覚しているからだ。
「これなら...」〈白炎〉
「能力操作。」〈絶対的反射〉
もはや結界内全てが危険度MAXなほどの戦闘にヴィジは手を出せないでいる。
「ハァハァ、この女の能力は一体なんなのよぉ。」
「ハァ、ハハッ、さてなんでしょうねぇ。」
しかしここに来て双方に疲れが見え始めた。人数差もありナリシアの方がキツそうだ。
「奴は疲れている。このまま押し切るぞ!」
そうこうしていると再び相手の攻撃が始まった。
若干ナリシアが押され始めているのが見てわかる。
(ど、どうすればいいんだ。サポート...相手はまず黒い何かで体を拘束してから攻撃するスタイル...試す価値はある。)
ヴィジは自分の手の延長に自在に操れる縄をイメージした。そしてそれを相手に巻き付けることに集中する。
「こならどうだ!」〈惡魂乱れ裂き〉
「くっ。はっ!しまった!」
ものすごい数の連撃にナリシアが体制を崩した。それを狙って相手は一斉攻撃に入ろうとする。
ナリシアがもうダメかと思っていると、
「すぅー...いまだ。」〈霊縛〉
と、ヴィジがオーラの縄で相手3人を拘束した。
「なっ!?」
「なんなのこれぇ!?」
「くそっ、やれれた!力が入らない。」
それを見たナリシアがでかした!っと声を上げた。
「分子操作。」〈ラストプラズマ〉
ナリシアの攻撃に相手は吹き飛ばされ地面に倒れ込む。
それを専用の縄で縛り、ついに犯人を確保することができた。
「あー、レイ、フラクタ、犯人を確保した。ワタシの所まで戻ってきてくれ。
そしてヴィジ。助かったぞ。やれば出来るじゃないか。」
「いえ、こちらこそ先輩のおかげで成長することが出来ました。いつか肩を並べて戦えるくらい強くなって見せます。」
「フフッ、期待してるぞ。」
しばらくしてレイとフラクタが到着し、3人を他の祓魔師に預け支部に戻った。
支部に戻ると反神者達が連れてこられるのを待ち、今回の事件の詳細をまとめた。
「3人とも今日はご苦労だった。まさかこんな大事になるとは思ってなくて、すまなかったな。」
「いえいえ、反神者が俺たちの敵ならばいずれは戦うことになりますし、いい経験になりました。」
「それはそうと、あんな魔法陣で一体何をしたかったんだろう。」
「アイツらが話してくれるかわからないが、聞いてみないことには始まらないわね。」
色々話をしていると、反神者達を乗せた車が到着し、反神者達は取調室に入れられた。
4人も取調室に向かう。
「さぁ、一体何を企んでたのか洗いざらい話してもらうよ。」
「ふん。話すことなんてなんもねぇよ。」
「まぁ、そう言うだろうな。」
ナリシアが尋問をするも、案の定口を割らない。
「でも話した方が身のためだぞ。精神系の能力者を使えば何考えてるかわかるんだから。今言った方が罪が軽くなるかもね。」
「無論、対策済みだ。」
「魔法使いの同僚に聞いたんだけど、あの魔法陣は未完成だそうじゃない。君達の目的は潰えたのになぜ黙る必要があるのかしら?出所した時にまたやるため?」
「何を聞いても無駄だ。」
その後も取調べを続けるも、ついに完全黙秘のまま終わりを迎えた。
その日の夜、ヴィジとレイが部屋に戻るとおかえりとウェントが出迎えた。
「いや〜今日は疲れたよ。」
「全くだ。ただの火事かと思えば妙なヤツらが絡んでたし。」
「大変だったね。あー、火事といえば僕の友達が住んでる近くの山でも火事があったらしい。他の場所でも――。」
「物騒な世の中になったもんだ。」
「でもその火事はでっかい五芒星を描いていたらしい。犯人は捕まったらしいけど。レイくん達の件と同じ集団かもね。」
「アイツら仲間いたのか。同時多発的に魔法を発動するつもりだったのか?」
今日の出来事を話しているうちに、2人は疲れが溜まっていたのかそのまま寝てしまった。
この時は事件がまだ終わりではないことを誰も知らなかった――。
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〈主な登場人物〉
ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公
レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。
フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。
ナリシア〈神ノ加護:解析操作〉:ダクラ部隊の能天者。真面目で元気な性格。お姉さん気質で多少厳しいところもあるが優しい。




