第11話 嵐の前の静けさ
合宿4日目。とうとう合宿も折り返しに入った。
今日も相変わらず早朝に1階広場に集合だ。
「今日は俺とザイオンに急用ができたから訓練は休みだ。自由にしていい。」
大君主会議への招集のため、ミルとザイオンは急遽予定を変更した。
「本当ですか!?」
「罠じゃないですよね?」
「本当に急用だから罠とかじゃないよ。」
突然の休みに隊士達は大喜びだ。
「留守番は全軍指揮官で主のスパルームに任せるから。」
ザイオンはそう言うとミルと一緒に会議場まで転移していった。
さて、残されたヴィジ達はせっかくの休みなので、昨日仲良くなったゼノシュとサーガと一緒に観光に行くことにした。
「僕達これから観光に行こうと思うんだけど、フラクタさん達も一緒に来ない?」
「すごく行きたいわ。よければ昨日仲良くなった2人も連れて行っていい?」
「もちろん大歓迎だよ。」
ヴィジに誘われフラクタとネリン、そして昨日仲良くなったらしい2人の女子も一緒に行くことになった。計9人の大人数だ。
「ガイドなら第七階層組に任せてよ。どこに行きたい?」
「そうだね。中心都市は最初来たときある程度観光したから、別の街に行きたいな。」
「OK!とりあえず隣りの大都市『エンタート』を案内するよ。」
観光計画が決まり、みんなはエンタート目指して駅に向かった。
「そういえば、まだお互い名前とか知らないわよね。」
駅に向かいながらお互い自己紹介を始めた。
「確か君達は懇親会のとき少し話したよね。僕と同じ魔法使いなんだっけ?」
「そうそう。ウチの名前はアストラ。雷魔法の使い手よ。そして――。」
「わたしはミカ。黒喰魔法といって、黒い触手みたいなのを操る能力を使うんだよ。」
2人が自己紹介をして、みんなも後に続いた。
「改めて、みんなすごいね。ゼノシュとサーガは懇親会これなくて残念そうにしてたからよかったじゃん。」
「言われてみれば確かに2人って懇親会いなかったよね?」
「そう。合宿が決まったのって合宿開始の一日前だったから、任務の予定を取り消せなくて、懇親会の日は任務から帰って即寝たから行けなかったんだよね。」
ゼノシュがはぁっとため息を吐く。
「俺達もヴィジの初任務の翌日に今日から合宿だって連れて来られたからな。気持ちはわかるぜ。」
「まぁ、こんなこと日常茶飯事だけどね。それより俺達が君達のチームに声をかけたのは、懇親会これなかったのもあるけど、前からヴィジくんと話がしてみたかったんだよ。」
ゼノシュが声をかけた理由を話し始めた。
「俺の従兄弟が零階層にいて、ヴィジくんのウワサを聞いたんだ。まぁ、そもそも君という存在はイレギュラーすぎて常世が大騒ぎする所を祓魔師以外に知られないよう上の人たちが対策するレベルだから、聞かなくても知れてたけどね。」
「そ、そんな事が起きてたのか。」
「まぁ祓魔師の中でもあくまでウワサ程度にしかなってなかったけど、合宿のとき君の存在を目の前にして本当にいるんだなって興味がわいてね。従兄弟はミル様とバグとの関連性を研究するために零階層に行ったから、土産話にもなるかなって思ったんだ。」
「ミル様とバグとの関連性...」
「ああいや、別にミル様や君をバグだと言ってるわけじゃ――。」
「わかってるよ。正直今の常識では僕はバグということになる。でもそんなの関係ないって気づいたんだ。だからミル様がかつて実力で存在を認めさせたように、僕が何者であっても自分は自分なんだって、自身に認めさせると誓ったんだ。自分の正体を自分自身に。僕が僕であるために。そのために僕は祓魔師になったんだ。」
ヴィジはそう言うと、フフッと微笑んで見せた。みんなも微笑み返している。
そんなこんなしていると、駅に到着した。都市間移動のための快速電車だ。みんなは電車に乗り、エンタートに向かった。
「ところで零階層組は娯楽、文化、自然、どこを観光したいんだ?」
電車に乗ると、サーガがそう質問した。
「そうだなぁ。この階層の文化や歴史についてあまり詳しく無いから文化かなぁ。」
「アタシはレイにさんせー。」
「僕もそれで。ヴィジくんとフラクタさんもそれでいいかな?」
「もちろん。私も歴史に興味あるから。」
「僕も。」
「じゃあ、決まりだね。」
「文化観光するならでっかい日曜教の教会に行きましょ。」
観光のジャンル決めが済み、アストラが行き先を提案した。
「あぁ、日曜エンタート教会か。たしか今は使われてなくて、観光用に開放されてるんだっけか。」
「日曜教ってどんな宗教なんだ?」
レイが興味ありげに質問した。
「日曜教はこの天界第七階層の根源である原初の天使の一柱、『ミカエル』を崇拝する宗教で、ミカエルが司る『謙譲』に従って行動するという教えがあるんだ。」
「へぇ〜。俺らは全員零階層出身だから、宗教らしい宗教はないんだよなぁ。」
「あれ?でも前に第一階層出身って言ってなかった?」
ヴィジはまだ会ったばかりの頃、レイが言ってたことを思い出した。
「ああ、それは第一階層にある『家系』ってだけで生まれも育ちも零階層だよ。
ほらっ、俺の首元の象徴、天界第一階層の根源『バラキエル』の神系象徴だよ。」
レイはチラッと象徴を見せる。
「そっか、てっきり移住してきたものだと。」
「まぁ、うちの隊にも別階層の家系は結構いるよ。大昔に移住してきたみたいだね。」
サーガがそう答えた。
色々と雑談をしていると、エンタートの駅に到着した。
「教会は駅から歩いて10分のところにあるわ。さぁさぁ、早く行きましょ!」
「急かすなよアストラ。」
エンタートの街並みもアルゲストと変わらない程の大都会だ。ただ、近未来都市というよりは少し古典的な宗教都市のような雰囲気が漂っている。
「エンタートでもこの辺は歴史深く、ミカのお気に入りの場所なんだよ。遺跡なんかもあるしね。」
「ちなみにウチとミカはエンタート出身よ。」
「そう。ミカはこの辺のことは知り尽くしてるんだよ。だからガイドは任せて。」
「そうなんだ。じゃあお願いね。」
フラクタにお願いされ、ミカが街の案内を始めた。
案内を始めてからしばらくすると目の前にとてつもなく長い階段が見えてきた。
「さぁ、教会はこの上だよ。」
「こ、これを登るのかぁ。」
「777段あるからね。」
「うぎっ!?」
「レイは相変わらず情けないわね。この程度の階段、訓練に比べたらどうってことないわ。」
「た、確かにそうだけど。」
みんなは教会を目指して階段を上り始めた。
「ふゅーっ。9月とはいえ暑いなぁ。」
「暑いというよりキツいんだけどね。」
「ほらもう少しだよ、頑張って。」
レイとウェントは弱音を吐きながらも何とか頂上までたどり着いた。
階段を上り切るとそこにはとても大きな教会がある。青と白で彩られた、とても綺麗な教会だ。
「ここが日曜エンタート教会だよ。中央に本堂、右が食堂、左が聖職者や信者達が泊まる寮、後ろには聖域と呼ばれる御神体のある部屋があるよ。」
「へぇ〜、思った以上に大きいなぁ。」
「そうだね。人も沢山いるし。」
「教会の向かいにある建物はちょっとした教会歴史博物館だから、まずはそこに行ってから本堂を見学しないかい?」
「さんせー!」
ゼノシュの提案でみんなは博物館である程度見聞を広めてからメインの本堂を見学することにした。
「おおー、昔の写真がいっぱいある!」
「聖典やらなんやら、神聖なものばかりだわ。」
中に入ると壁には昔の教会の写真が飾ってあり、ガラスケースに聖典や剣、杖など当時の歴史に関する物がズラリと並んでいる。
「ここにある剣や杖などは全部、かつての聖職者が使っていた『能力物品』のレプリカなんだ。」
「能力物品?」
「能力物品っていうのは、神ノ武器とは違って能力にデフォルトで付いてくるアイテムのことだよ。例えば僕の魔法の杖みたいな。」
ヴィジの質問にウェントが答える。
「そうなんだ。」
「あっ、この写真の真ん中に写ってるのザイオン様じゃない?」
「そうなのだよ。ザイオン様はこの階層のトップ。最も天使に近い存在ですからね。」
「どれどれ?わっ、ホントだ〜。」
「祓魔師について書かれてる聖書もあるぞ。」
「すげ〜!」
その後もみんなはワイワイと博物館を回り、本命の教会本堂に向かった。
本堂に入ると、そこは正面の壁に巨大なステンドグラスで作られたミカエルの絵があり、周りにミカエルの象徴が書かれた柱が6本立っている。
「うわっ、ひっろ〜い!」
「いつ来ても壮観だな。」
みんなは教会の壮大さに見とれている。しかし、みんなが本堂内を見て回ろうとした、その時だった。
ゴゴゴッという地震のような揺れが襲った。
「えっ、なに?地震?」
「なにか嫌な予感がするな...」
そんな事を考えていると、みんなが持っている祓魔師の緊急連絡端末が鳴った。
「こんな時に、この揺れになにか関係あんのか?」
みんなが端末の内容を見ると、そこには恐ろしい言葉が書かれていた。
ヴィジ以外のみんなは青ざめている。
「こ、ここ、これは...」
「ザイオン様達がいないこんなときに...」
「う、嘘でしょ!?これは伝説の...かつて猛威を奮ったあの――。」
「最終発生は革命の時代の末期ごろだったはず...こいつは――。」
「「戦争意志――。」」
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〈主な登場人物〉
ヴィジ〈神ノ加護:霊力支配〉:今作の主人公
レイ〈神ノ加護:神線〉:陽気な性格。意外とまじめ。
フラクタ〈神ノ加護:波動〉:穏やかな性格をしている。
ウェント〈神ノ加護:炎魔法〉:優しい性格の持ち主。頭が良く、判断力に優れている。
ネリン〈神ノ加護:サイコキネシス〉:天真爛漫で活発な性格の女の子。頭はあまりよろしくないが、攻撃力はピカイチ。
ゼノシュ〈神ノ加護:剣神〉:物静か。冷静な判断ができる頼れる兄貴分。背が高く、人間で言う19歳くらいの見た目。
サーガ〈神ノ加護:万糸〉:活発でゼノシュとは正反対の性格。少しおバカ。人間で言う17歳くらいの見た目。
アストラ〈神ノ加護:雷魔法〉:青髪に黄色いメッシュの入った女の子。少しおてんば。人間で言う17歳くらいの見た目。
ミカ〈神ノ加護:黒喰魔法〉:黒髪ショートの女の子。少し変わってるところがある。身長がちっさい。人間で言う13歳くらいの見た目。




