召喚獣が還るまで
ヤクザが苦手な方、適当が嫌いな方、DQNが嫌いな方はご注意ください。筆者の文章構成力が低くて申し訳ありませんがお付き合いいただければ幸いです。
とある国の広場の風景
今世紀の勇者が北の魔族を討伐しに行くということでメインパーティのオーディションが開かれていた。昔は勇者一人で悪の竜を退治しに行ったり、勇者抜きでたった4人で世界を救ったりした猛者がいたりと、かなり乱暴なことをやっていたがここ数世紀の間に誕生した勇者は、王様から兵士を万単位で借りて魔王を攻めてみたり、複数パーティで各勢力を各個撃破していくという合理的なスタイルをとっている。
今回のオーディションの目的はボス格の魔族と戦う勇者が直接率いるパーティの選別ということになる。非常に危険で過酷な任務になるが、しっかり働いて生きて帰れれば王様から莫大な恩賞をもらえ、歴史に名を残すことになるため、実に1000人もの応募があった。
「王様も張り切って宣伝してくれたな、これは多すぎだろ……」
あまりの人数に、勇者は各職ごとに話しあって(場合によっては拳で語ってもらい)最高の一人づつを連れて行くことにきめたのだった。
戦士タイソンの場合、200人ほどいた戦士職の参加者をタイソンが片っ端からKOして勇者に声をかけた。ちなみに話合いとか穏便な手段は一切とっていない。
勇者は後方の担架で運ばれていく戦士達を見てドン引きしつつも、大柄で浅黒い肌を持ち、巨大な戦斧を担いだタイソンの少年らしさの残る顔を見て、どこか憎めないな、と思いながらパーティに加えた。
賢者ビルの場合、クイズ大会、魔法の早撃ち勝負、基礎魔術の構築すべての部門で勝利したビルが勇者に声をかけた。
勇者は彼の身に着ける装備品がオリハルコン製の杖、メガネ、魔力増幅用のアミュレットなど、半端なく高価なことを一瞬で看破し、諸手を振って歓迎した。ビルは見た目こそ40台後半に見えるが実はもう500年も生きているらしい。
他にも盗賊や魔法剣士、忍者などがいたが今回の決戦パーティには用途が合わないため、それらの職の人には攻城戦に加わってもらうことになった。
難航したのは召喚士の決定戦だった。
火の魔人や風の妖精などを呼び出して戦う召喚士の火力は上級の魔族と戦う上で非常に重要な戦力だ。今回も50名ほどが参加していたが上位3人の実力が伯仲してるとのことでなかなか勝負が付かなかった。結局3人で対決してもらって一番強い召喚獣を呼び出せる者に来てもらうこととなった。 召喚士オジーはグレーターデーモンを召喚できるらしく、他の召喚士とは雰囲気から違っていた。
彼は懐から触媒となる蝙蝠(生)の頭を食いちぎると、その血を噴霧して空間からグレーターデーモンを呼び出した。髑髏のような頭には捩れた角が生え、暗い眼窩の奥には赤く光る双眸、8mにもなろう巨躯は蝙蝠の翼を生やし、黒金色の鎧を纏っていた。グレーターデーモンが出現した瞬間、周囲の参加者に混乱、麻痺のバッドステータスが大量発生した。
「悪魔か、面白い!」
そう言って狂気の笑みを浮かべた対戦相手のマンソンもそのグレーターデーモンに負けじと注射器を取り出し、自分に注入するとその口から機械じかけの天使を召喚する。歯車や医療機器で出来た錆びた翼を広げた天使の顔は壊れたマネキンのようだった。この天使が出現した瞬間に先ほどの混乱、麻痺に加えて恐怖、病気のバッドステータスがばらまかれた。
……この段階で無事なのは勇者とさきほどエントリーした仲間、そして3人目の召喚士プリムローズだけだった。
プリムローズは内心焦っていた。勇者の仲間を決めるオーディションでまさか魔族より凶悪な召喚獣を2体も召喚されるとは思っていなかった。グレーターデーモンも機械仕掛けの天使も召喚魔法のランク外になる。あまりにも周囲への影響が危険すぎるため基本的には使用が禁止とされている禁術の仲間なのだが、使える者もほとんど居ないためその扱いは召喚魔法とされていない。このクラスに対抗できる召喚魔法はプリムローズには一つしかなかった。自身の召喚獣、火竜アンディの強化召喚。通常よりも複雑な召喚手順により大幅にランクを上げて召喚することができ強力ではあるのだが、反面副作用で何が起きるかわからない諸刃の剣、だがプリムローズには勇者と共に行かねばならない理由があった。
基本動作を行い、空間に魔方陣を描くと火竜を呼び出すために触媒となる竜の鱗を掲げ真名を叫ぶ。
「負けられないんです!!出でよ召喚獣アンドゥッ!!……あぅ……噛んだ」
魔方陣からは濛々たる煙が立ち上り、炸裂音と共に空間が砕け、魔方陣も消滅する。辺りには全てを包まんといわんばかりの黒い煙だけが残った。
こともあろうにプリムローズは最後の最後でアンディの名前を……よりによって真名を間違えたのだった。
「嘘……」
召喚魔法を失敗すると使用者の魔力は空になってしまう。プリムローズはしばらく召喚自体ができなくなってしまった。
そのころの都内某S区のヤクザのマンション
「おうおう、アンディは良い子だな」
190センチの長身、ヘアスタイルはオールバック、左頬には十字の刀傷を持った若いヤクザがペットのイグアナ『アンディ』にハツカネズミを狩らせて遊んでいた。アンディは不思議なイグアナで、鱗は赤、口からたまに火を吐く他、背中についた羽で部屋の中を相当な速さで飛ぶことができる。ある日このヤクザ、安藤 富士雄が他のヤクザの組との抗争の最中に道端に落ちていたところを拾ってきたのだった。安藤とアンディは相性が良かった。腹の減るタイミングが同じ、肉が好き、暴れるのも好きと、まるで兄弟のような錯覚すら覚えるほどに行動が一致した。ときどきアンディが消える日もあるが翌日には大体部屋で寝転がってる。安藤も時々なじみのキャバ嬢の部屋に転がり込んでは家に帰ってきて寝転がってるからか、その姿を見るとなぜか和むのだった。この日も敵対組織に勝ち込みをして殺伐とした気分の安藤はアンディに餌をやりながら次のシマの拡大と、新しいシノギをどうするか考えていた。ボーっとしながら日本刀の手入れをしていた安藤はアンディの足元に発生した魔法陣が不安定に自分の足元に移動してくることに気が付かなかった。
「ん?」
一瞬足元が光ったと思った安藤はそのまま爆発に巻き込まれたのだった。
再びある国の広場
異常なエネルギーに反応したグレーターデーモンが煙の中のプリムローズめがけてその豪腕から生える鉤爪を振るったが、煙を通り抜けたその手首から先は切断されていた。
グオオオオオオオオッ
そんな声を上げながら痛がるグレーターデーモンンに反応して機械仕掛けの天使もその煙に体当たりを仕掛けたが、その結果は天使が三枚卸になっただけだった。召喚獣のダメージのフィードバックでマンソンが気絶、オジーは怒りからグレーターデーモンに再度の攻撃を命じていた。
「Kill them all!!」
デーモンに無差別殺戮魔法の命令が下る。
辺りを爆破する強力な魔力を行使するためにデーモンの全身から魔力が立ち上る。
しかしデーモンはオジーの命令を実行する前に砕け散っていた。
何が起きたか周囲の誰にもわからなかった。
煙が晴れるとぺたんと座り込んだプリムローズと日本刀をぶらさげた安藤が立っていた。
倒れている参加者を病院に運び終えた王様の部下達がオーディションの終了を告げると広場の賑わいも散り散りになっていった。
結局大惨事になりかけたものの召喚士にはプリムローズが選ばれたのだが……。
広場近くの酒場にて
「で、この召喚獣は還せないのかな?」
顔の引きつっている勇者は安藤を見ながらプリムローズに聞いてみた。
それもそのはず、安藤はすさまじいほどの殺気を出しながら勇者にメンチを切り続けていたのだ……。
「えーと……暴走召喚だったんで私のLVが召喚獣より上がらないと還せないみたいです」
プリムローズは申し訳なさそうに愛想笑いを浮かべて見せる。
「あ、そうなんだ……でレベルいくつ上げればいいのかな?きっとこの戦力ならこのクエストが終わるまでには到達できるよね」
勇者は内心早くしまってくれ、というか空気に耐えられない、と思いつつも新たな仲間への配慮からにこやかに語りかけてみた。
その間、安藤のメンチ切りは容赦なく続く。
賢者ビルがさりげなくイモのフライを食べながら走査魔法スキャニングを安藤にかける。
緑のグリッドが安藤に走り、上から下までを光線が通過して安藤のステータスがホログラムのように空間に投影された。
名称:安藤 富士雄
種族:召喚獣
ステータス
LV99
HP50000/50000
MP0/0
攻撃力999:魔力0:速さ999:体力:999知能3:運0
戦闘コマンド
『チャカ』(懐から黒い武器を取り出し敵を殺します)
『ドス』(懐から剣を取り出して敵を刺し殺します。)
『長ドス』(長い剣を取り出して範囲内の敵を斬り殺します。)
『バラす』(敵を解体します)
『ヤクザキック』(全ての内臓を損傷させます)
※ステータス異常全般に強い、通常攻撃に即死攻撃付与
ステータスを見て全員が絶句する…
賢者ビルはもう一度スキャニングを実行したが同じ数字が表示された。今度は声を出して驚愕を表した。
「……なんだこのステータスは、こんなの見たこと無いぞ!?」
普通の人間の場合ステータスは上限255程度で止まるのが当たり前である。逆に下限は30前後のはずだが、人間の外見をしながら攻撃力が桁外れ、それなのに知能が3しかないという…おまけに一切の魔力を持たないことも不可解な存在だった。ちなみに勇者は全ての数値が200を超えている。
ステータスを見てついに安藤が声を発した。
「おい、コスプレ野郎共……」
その言葉の意味がわからず一同怪訝な顔をしたものの全員が安藤に注目する。
「ここぁどこだ?家に帰せコラ、ウソついたらぶっ殺すからな、あぁ?」
一気に捲くし立てた安藤はマジ切れしていた。意味がわからないところに呼び出されて勝手に酒場に連れてこられてじろじろ見られてる状況が不愉快でならなかったのだ。特にリーダー格と見られる勇者の存在が安藤の大嫌いな正義とか善とかそういうオーラを発していていけ好かない。召喚したプリムローズの存在なんてこれっぽっちも意識されていなかった。
ほとんど勇者に向けた殺気だったが、そのあまりの剣幕にプリムローズが半泣きになりながらアンディ召喚の失敗について恐る恐る話始めた。自分を取り巻く状況がどんなものだか説明を受けて安藤は眉間に深い皺を刻みながら深刻に悩み始めた。しばらくして安藤はこう言った。
「つまり、お前らに協力してそこのクソガキを鍛えないと俺は家に帰れねえってことか?」
「クソガキじゃないです!ちゃんとプリムローズという名前があります!」
「あぁ~ん?失敗して責任も取れない奴はクソガキで充分だろ?」
完全に見下し、蔑んだ視線で侮蔑の眼差しをぶつけられてプリムローズはついに泣き出した。
「泣きゃ済むと思ってる辺りがガキだよな……へっ」そう言うと安藤は席を立った。
「どこへ行くつもりだ?」
タイソンが安藤の腕をつかんで引き止める
「小便だよ、手ぇどけろデカブツ」
そういうとタイソンの腕を力尽くで外して酒場のマスターにトイレの位置を確認しにいった。
「まあ、戻ってきたら俺から説得してみるから、とりあえずよろしく頼むよ」
イライラしてるタイソン、わなわなしつつ有り得ないと呟くビル、まだ泣いてるプリムローズを前にして勇者は自分がしっかりせねばと思うのだった。
結局小のついでに煙草を一服してきた安藤は少し落ち着きを取り戻していた。
「なんかけったいなところに呼ばれちまったがあいつらの面倒みてやらんと帰れなそうだしなぁ……気に食わなかったらボテくりまわしたればええか。あ~めんどくさ」そう呟いて煙草をポイ捨てするとトイレを後にした。
戻ってきた安藤に改めて勇者が話をすると、非常に面倒くさそうな表情で、先ほど聞き損じた質問を改めて聞いた。
「で、クソガキのレベルはいくつ上げればいいんだ?」
安藤を元いた場所に還すためにはプリムローズのレベルを99まであげないといけないことがわかっている。
「クソガキじゃないです。プリムローズです……今のレベルが95なので後4です」
さっきまで泣いていたり、肩で切りそろえた髪はピンク色、外套とローブの上からも大した肉付きがないのとブーツの足首の細さといい、外見が女の子女の子してることでもっとレベルが低そうに見えていたが、意外にもプリムローズはパーティで2番目にレベルが高かった。ちなみに勇者はレベル98、ビルはレベル92、タイソンは91である。
これには安藤も少し関心してみた。
「ほう、ただのクソガキじゃなかったのか。……4くらいならすぐ上がるだろうから付き合ってやるかな」
まともにパーティとして機能するか不安だった勇者は安藤の参加表明にほっとすると同時に、今後の作戦会議を始めたのだった。
「それじゃあ、明日は王様に出撃することを話し、北のペンタグラム城へ向かおうか。今のところ先発隊が城周辺まで攻めてるらしいから後続の部隊を編成しておいてもらってドサクサにまぎれてボスを倒しちゃおう」そう勇者がまとめたところで酒場に兵士が駆け込んできた。
「勇者様、大変です!町の中に魔物が出現しました!!現在町の守備隊で応戦していますが応援をお願いします!!」
「なんだって!?くそ、また住民を魔物に変えたのか……魔族め!」
そもそも今回の勇者の遠征の理由は、北の魔族が人間を魔物に改造することが流行っているのが原因だった。事態を重く見た王様は北の魔族のボス『魔人キャンサー』の討伐を決定したのだった。
安藤はそんな背景は知らずに、すぐさま飛び出していった。とりあえず魔物がどんなものか知りたかったのだ。
安藤はこちらの世界に来てから絶えず視界に様々な文字が表示されることに気がついていた。
実は酒場にいる客からプリムローズなども含めて仔細にステータスが表示されていた。ただ、安藤はこの世界の文字がわからなかった。ただ、なんとなくヤバそうなものの表示がどぎつい赤で表示されるということだけはわかった。
最初に呼び出された時は視界に赤いマークが立て続けに表示されたのでそれを攻撃したらグレーターデーモンを倒せていた。広場にいた兵士の一人が4mくらいある白と赤のまだら模様の肉の巨人に殴り飛ばされると、瞬時に兵士の下に表示されていた緑のバーが無くなっていった。兵士はピクリとも動かなくなる。
「おいおい、ゲームじゃねえんだぞ……」静かな怒りを感じながら安藤は肉の巨人に向かっていった。
広場にいた兵士のほとんどは壊滅といっていい隊列を立て直そうと必死に槍を突き出していたが、複数出現した肉の巨人の暴虐の前にはあまり意味が無かった。そんな様子がそこかしこで展開していたが、勇者が駆けつけると兵士達の顔に生気が戻る。
「みんな下がっていてくれ!必殺、ディバインウェポン!!」
勇者は兵士達を下がらせると神の力を宿らせた必殺の剣を肉の巨人に叩き込んだ。そのまま駆け抜けた勇者は次々に肉の巨人達を切り倒していく。
腹部で一刀両断にされた巨人は上半身が落下して地面に叩きつけられたが、上半身だけになっても近くにいた兵士に襲い掛かろうとする。
「オラァ!!」
タイソンがその上半身に全力の戦斧をぶつけると肉の巨人は完全に停止したのだった。
「ヘルファイヤ!!」
ビルが地獄の業火を出現させて一瞬のうちに2体の肉の巨人を引火させる。勇者パーティの活躍で押されていた兵士達も体制を建て直し、勇者の切り倒した肉の巨人達に止めを刺していく。
そんな中プリムローズは安藤の姿を探していた。安藤はまだ知らないが、召喚獣は召喚者から離れると大きくパワーダウンしてしまうのだ。また召喚者は召喚獣のダメージの10分の1を受ける。もしHP50000の安藤が瀕死になるようなことがあれば5000近いダメージがプリムローズに襲い掛かることになる。プリムローズはレベルこそ高いがHPは3000しかないため、その場合は死んでしまう。どちらも命にかかわる問題だった。
安藤は肉の巨人3体が、逃げ惑う人々を食い散らかしているのを止めようとしていた。巨人の足元には残骸と化した親子が血溜りとなっていた。
「やめろっつってんだろうがぁっ!!」
安藤が全力で殴りつけようとしても肉の巨人にはまるで効果がなかった。と言うかプリムローズから離れたことで安藤の肉体の密度はスカスカになってしまっていた。そのため攻撃がすり抜けてしまう。しかし肉の巨人が暴れるたびに舞い起こる風圧は容赦なく安藤の体にダメージを与えていく。肉体の密度が低い分少しの力でもダメージになってしまうのだ。
「クソが!!」
スーツの上着が破け、背中からは竜の刺青が露になる。頭から血がしたたるがその血すら薄い、安藤は自分が何もできないまま死ぬのかと目の前が暗くなり始めた。
「あーっ、いたぁっ!!」
安藤が覚悟を決めようとしたその時、そこかしこがボロボロになったプリムローズが安藤を発見した。その瞬間安藤に一気に力が戻る。実体感を増した安藤を見たプリムローズは安藤に攻撃コマンドの選択を告げる。
「召喚獣:安藤、攻撃スキル『長ドス』実行!!」
次の瞬間安藤の手には日本刀が握られていた。
「こいつは……へ、よくわかんねえがありがとよ!」
そう言うと安藤は長ドスで目の前の肉の巨人をなますにした。
様子の変わった安藤めがけて他の2体も安藤に襲い掛かるが、安藤はこれを軽々と回避する。
「スキル選択:『ヤクザキック』『バラス』実行!!」
続けざまにプリムローズが攻撃スキルを選択すると安藤の足が光り、ヤクザキックを繰り出す。一体の内部構造に壊滅的な被害を与えるともう一体を手当たり次第に切り刻んで解体した。
「ふーっ……こんなとこか」
3体の肉の巨人を倒した安藤とプリムローズはその後、勇者と合流して全ての肉の巨人を葬っていた。
事後処理を兵士達に任せ、勇者が怪我人の治療をしようとしたところでそいつは現れた。
「人間のくせにやるな。だが俺がここに来たからには今日で貴様らも御終いだ」
先ほどの肉の巨人と同じ質感、灰色の肉の塊に赤と黒のまだらが絡む超肥満体、頭部に目はなく、むき出しの歯茎からは汚らしい涎がたれている。サイズは8mにもなろうかという人間を悪意でこね回したような姿の魔族『キャンサー』が空間を転移して広場に現れたのだった。
「何故貴様がここにいる!?」
今キャンサーのいる城は数万の兵士に囲まれ一進一退の攻防を繰り広げているはずだった。
「知れたことよ。この俺が貴様らの先発隊を全滅させてきたのだ。貴様ら虫けらと遊ぶのも飽きたのでな、一気に攻め滅ぼすことにしたのだ」
そう言うとキャンサーは超高重力を発生させるマイクロブラックホールを作り出し、広場に落とそうとした。
「死ね」
「させるか、フリーズ!!」
キャンサーのマイクロブラックホールが効果を発揮する前にビルが時間停止の魔法を行使する。
「ふん、小ざかしい!!」
さらに魔力を膨れさせたキャンサーは自身の血管を無数の蛇として放射状に射出した。勇者とタイソンは飛来する肉の蛇を片っ端から切り落とすが、キャンサーの肉の蛇は数を減らさない。多くの兵士達が倒れていった。
勇者の後ろにいた安藤とプリムローズはお互いに顔を見合わせると頷き合う。二人の意思がはじめて同調した瞬間だった
「攻撃スキル選択『チャカ』実行!!」
安藤は懐に出現した黒いハンドガンを横向きに構えると、キャンサーに向かって引き金を数回ひいた。
果たして射出された弾丸は拳銃のチャチな弾ではなく、一発一発が火竜のごとき特大のオーラだった。火竜がキャンサーに接触したその瞬間、特大の火柱が天まで焼き尽くすように燃え上がり、連続して着弾した火竜はその数だけ空に火柱を吹き上げたのだった。
チャカを撃った安藤も、効果をあまり考えてなかったプリムローズも、勇者ですらもあまりにもいきなりすぎる必殺にしばし呆然としていた。
テーテレッテー!!
そんな奇妙な効果音が勇者達のレベルアップを告げた。それはキャンサーに止めをさした証明だった。
「お、やったんじゃねえか?」
安藤はプリムローズから4回効果音が鳴ったのを聞いた。
まさかと思い、ビルがスキャニングをかけるとプリムローズのレベルは確かに99になっていた。さりげなく勇者とビルとタイソンもレベルが99まで上昇していた。レベル20だった兵士ですら60を超えるほどに成長していた。キャンサーを倒したという経験値は莫大なものだったのだ。町のあちこちでテーテレッテーという音が聞こえてきた。
「やったぁ!!これで安藤も元の世界に還してあげられるよ」
プリムローズはかつて自分のいた村を襲ったキャンサーに復讐をするために勇者のパーティに参加しようと考えていた。若干予定していたよりも早くそれを実現できたのは安藤の桁違いの攻撃力のおかげだったことに素直に感謝をした。
「お、悪いな。だがよ、俺が帰っちまったら戦力減っちまうけどいいのか?」
協力して修羅場を潜り抜けたせいか、帰れることが決まった安藤は、プリムローズ達と別れを惜しむような心境になっていた。ただし、自分が倒したのが何だったのかまるでわかっていなかったが。
「それならキャンサーを倒したことでもう遠征の必要もなくなったので大丈夫だと思います」
勇者にそう言われ、まあそれならそれでいいかとあっさり気分を切り替えた安藤の体が突然光った。テーテレッテー
……光が収まった後には安藤の背中の刺青が派手になっていた。
「まさかな……」
ビルがスキャニングをしたところ
名称:安藤 富士雄
種族:召喚獣(極道)
ステータス
LV100
HP55000/55000
MP0/0
攻撃力1100:魔力0:速さ999:体力:999知能30:運0
戦闘コマンド
『チャカ』(懐から黒い武器を取り出し敵を殺します)
『ドス』(懐から剣を取り出して敵を刺し殺します。)
『長ドス』(長い剣を取り出して範囲内の敵を斬り殺します。)
『バラす』(敵を解体します)
『ヤクザキック』(全ての内臓を損傷させます)
※ステータス異常全般に強い、通常攻撃に即死攻撃付与、瀕死になると一回だけHP全回復。
というステータスが表示された。
「えい」
プリムローズが試しに送還術を試みたが黒い煙が出ただけだった。
「……レベルアップおめでとう!」
「あれか……これはやはり帰れねえのか?」
額から一筋の汗を流し、聞きたくも無い祝福の言葉を放った一同に、安藤は極上のメンチを切ってみせた。
後日、勇者と別れた安藤とプリムローズは南の強い魔族を狩ってレベル上げをしようと旅立っていったがそれはまた別の御話。
駄文読破おめでとうございます。人生の無駄遣いの感想をお聞かせください。……すみません、冗談です。読んでくれてありがとうございます。さて、ここでは少し設定というかネタの解説をさせてもらうつもりです。本編で書くと説明臭さが爆発してしまいますからこちらを使います。
まず勇者についてですが勇者という生き物はこの世界では死ぬまでは名前がありません。死ぬまで冒険をして最後に業績から名前を贈られます。勇者は生まれたときから勇者として作られるのですばらしいステータスの代わりに他の人々のためのスケープゴートとして生かされます。なお先代の勇者はドラゴンスレイヤー・アンディだったりします。これ重要なので覚えておくとテストに出ます(オイ)
次にレベルについてですが、基本的に才能や宿命によって上限が決まります。これは重要な隠し設定ですが、村人Aみたいな人はLV5とかで生涯を終えます。基本的には村人LV99とかあっても意味が無いからです。ただ、世界のどこかにはたま~にやたら強い村人LV99とかもいます。これはこの世界の例外です。レベルが上がるということはその人の存在価値の上昇を意味するのでパラメータが上がります。生まれたときから存在価値の高い王族とかは最初からレベルが80超えてるのがほとんどです。
魔法についてですが、賢者レベルになると回復、蘇生、精霊、暗黒、神聖、無属性とさまざまなジャンルの魔法が使えます。基本的にMP消費で実行しますがMP0になると昏睡します。気合を入れてHPも消費することで大技が使えます。
オジーとかマンソンは例の人たちです……(汗)知らない人はオジー 蝙蝠を丸かじりとかでググルといいんじゃないかと思います。マンソンはマリリンってつけるといいです。あの人たちのルックスはそのままファンタジーに行けると思います。
ではまた別のお話もお付き合い頂ければ幸いです。