97 『無慈悲な閃光』の見送り
ああ?嗚咽を見られていたわ!クソったれめ!
仕方ねえだろうがよぉ?ローズクォーツが今日帰っちまうんだからよ。
ずっと傍にいて欲しくてたまらねえんだわ。
殆どの時間をこの『蒼穹の隠れ家』で時間を潰してたんだからなぁ。
ローズクォーツの好んでた『妖精の涙』って言うグラスの中で七色に光が変わるハーブティーを飲んでたり、後はレグンの良く飲んでた『星屑のソーダ』な。
まぁ…確かに程よい甘さの美味な炭酸飲料だった。
そして、20分の休憩時間にローズクォーツが毎回来てくれるがよぉ?ああ…心が癒されるぜ…。
ああ…レグンみてえに駄々こねてえ。
帰んないでくれねえかなぁ?ま、流石にそれは言わなかったがよ。
もうさぁ…俺にこれ以上苦痛与えねえでもらって良いかよ?なぁ?人生様よお?
俺よぉ…まだやるべき事が残ってんだぜ?
ぐずったブリッツシュラークを、1人にさせるわけにはいかねえからグラオザーム家に泊めてるが、先ずはこいつの心の穴を埋めてやんなきゃならねえんだ。
手っ取り早いのが、クラートに放り込む事だ。
んで、クラートとレグンとの話し合いの設け場を作らねえといけねえ。
ああ…そういや12時過ぎに一般校舎近くの城門から、『琥珀騎士団』の数多くの一団が出て行くってから、見に行きたかったが…離れているからな。
流石に『琥珀騎士団』の一団は見れなかった。
取り敢えず12時20分に1時間の昼休憩があるからよ、遅いかとは思ったが、ローズクォーツと共にちょいと6階の『門』から一般校舎まで転移して、まだ何かあるかと思って遠目から覗いてみた。
したら、ああ…クラートの奴がいたわ。
んで、おいおい…あれがクラートの姉の『雷滅の鬼神』かい。
赤白く輝く『聖銀』製の鎧と、漆黒の刀を携えてやがった。
なるほどなぁ…あれはレグン以上の強さだなぁ。
それから…はぁ、血筋かい。
レグンのまだ幼さを残すお人形のようで、そこに可憐で端整な外見をしているが、それを大人バージョンにした感じか?
腰まで届くふわりと風で揺れる亜麻色の髪を、赤白く輝く特殊なシルクで、髪を結びポニーテール状にしてた。
可憐ではあるが儚くはなく、大人の魅力と艶の良い端整さをこれでもかと、全面に押し出してたぜ。
ま、それはそうと、クラートが珍しくしんみりした感じではあったな。
ついでに何でかエルナトと…ヴァールハイトの兄がいたがな。
ヴァールハイトの兄もまた、ブリッツシュラークと同じく『宝玉階梯:ダイアモンド』だ。
『ダイアモンド』の称号持ちは大抵意味が分からねえからなぁ?
『天元の魔術師団』も称号が一応あるらしいが…『宝玉階梯:ダイアモンド』クラスはなんだ?
どいつもこいつも化け物揃いか?
にしても…遠目からだが、『雷滅の鬼神』もまた規格外だなぁ?『宝玉部会:ダイアモンド』だろ?あれはよ。
ま、そんな事を思っていたら、3人で『中央評議院』…まぁあのヴァールハイトの兄が祝辞を述べてた『アウレリウス中央講堂』に向かって行ったな。
ヴァールハイトの兄曰く、『アウレリウス中央講堂』の上のドーム状になってる場が生徒会室らしいじゃねえの。
…ま、それも今日のあのシリウス主席からの連絡で知った事だが。
どうやら、生徒会にクラートとエルナトを勧誘するらしいな。
その生徒会にローズクォーツの兄、2年燦爛クラスの、アルタイル・ムート会計がいる。
ローズクォーツは生徒会のメンバーのだと知っているのかと尋ねたら、まぁ当然知ってはいたが、『アウレリウス中央講堂』の上に生徒会室がある事は知らなかったらしい。
残りの休み時間は、一般校舎の[カエルス演習場]のある1階の談話室で、二人で肩を寄せ合って過ごしていた。
何せ、騎士科も魔術科も休日でいねえからな。
普通科はいつも通り学業だが、わざわざ演習場のある1階の談話室やテラスで、過ごす奴は少なかろうと思っての事だ。
ああ…いつまでもこうしてたいぜ…。
そして、休み時間も終わってまた俺は『蒼穹の隠れ家』に引きこもる。
…今度は『ドライアドの果樹園から届いた糖蜜漬けの果実』、このメニューを食ってた。
酸味と甘さが程いい…。
もう…終わる。
学園の終業時間が間もなくだ…。
残る上流科の連中もいるかもしれねえ。
だが、もう一旦終業時間と共にローズクォーツの魔導馬車が迎えに、上流科校舎エリアに続く王都の城門、『正門(凱旋門)』の身車寄せに迎えが来る。
嫌だな、まだ終わって欲しくないな、もっと傍にいてくれねえか?
だがついぞ終わってしまった。
終業時間だ。
ローズクォーツが『蒼穹の隠れ家』にやってきた。
…寂しそうな顔だ。
俺は…凄い悲しい。
「レグルス公爵様…。どうかお見送りをしていただけますか?」
「ああ…行こうか。ローズクォーツの兄さんに挨拶もしねえといけねえし…。」
2人でまた手を繋ぎ、『正門(凱旋門)』まで歩く。
ああ…見えたなぁ…あの『空間跳躍馬車』かぁ…。
んで、はっ…随分と幻想的な雰囲気で…麗しい端整な顔立ちをしてるじゃねえの。
ローズクォーツと全く同じ髪色で、耳元は完全に隠れて、うなじ付近まである。
あれがアルタイル・ムートかい。
おっと、近寄ってきたな。
「レグルス公爵殿。俺の妹が世話になったようですね。お礼を言いましょう。」
はっ、結構図太い感じか?見た目と違い中々肝が据わってるな?流石は2年燦爛クラスか。
「いや。俺の方こそローズクォーツには迷惑をかけちまった。礼には及ばない。それと普段の喋り方で良い。」
…ああ、俺の事を値踏み…してるわけではなさそうだな。
単純に無表情がデフォルトなんだろうよ。
「そうか。なら言葉に甘えさせてもらおうか。それで?何処まで本気なんだ?遊びとかではないな?」
まぁ…ローズクォーツの反応も見ていやがるし、一応の確認程度だろうな。
きちんと面倒を見てくれるのかと言う、単純な最終確認程度。
話が早くて助かる。
「ああ。当然だ。遊びな訳がない。正直に言えば、ローズクォーツには帰ってほしくねえと思っているくらいだ。」
…反応を見る限り、どうやら納得してくれたかな?
「なるほど。これは失礼をしたな。それでは俺の妹、ローズクォーツからも聞いてるが、嫁ぐと聞いている。こちらとしても七公爵家と縁を結べる事は光栄な事だ。準備に入らせてもらうが構わないな?」
これは、今朝どう挨拶しようか悩んでいたのが、馬鹿らしくなるくらい本当に話が早いな。
「分かった。全く構わない。よろしく頼む。」
俺がそう言い、納得して頷くアルタイル会計。
そうして…俺の手から離れるローズクォーツ…。
魔導馬車に何だか泣きそうな顔で…。
「ローズクォーツ…。また明日な。また会おう…。」
俺がそう言ってローズクォーツをそっと抱きしめた。
「はい…。レグルス公爵様…。また明日…。」
名残惜しいがお互い離れて…。
まだ…彼女の前で弱い顔を見せられねえ。
そうでないと、きちんと帰れねえだろうがよぉ?
そのままローズクォーツが馬車に乗り込む。
「…済まないな。レグルス公爵殿。また…直ぐに俺の妹を任せる。だから…一時的にムート領に預けるくらいの気持ちでいて欲しい。」
アルタイル会計に気を遣わせちまったかよ。
俺とした事がなぁ…。
「悪いな、アルタイル会計。見苦しい場面を見せちまった。…またな。ローズクォーツ!明日会おう!」
「…はい!レグルス公爵様!また…明日ぁ…ふう、ぐす…。うえ…。」
ああ、なんてこった。
俺が今朝泣いちまったように、今度はローズクォーツが泣いてしまったかぁ…。
「ローズクォーツ。泣かないでくれ。大丈夫だ。俺は…明日も待ってるから。」
「…今一度済まないな。レグルス公爵。また明日も妹を頼む。」
そう言ってアルタイル会計が馬車に乗り込んで、城門まで動き始めた。
ああ…嫌だ。
まだ行ってほしくないのに。
明日もまた会えると言うのに、何でこんなにも悲しいんだかねぇ。
そうしてローズクォーツを乗せた魔導馬車が城門から出て…行ってしまった。
「ロー…ズクォー…ツぅう…。ふぐ…。ぐす…。」
視界がぼやけていっぱいだ。
また嗚咽をこぼしちまってる…。
壊れるわけにはいかねえ。
稼業から逃げたら、これまでの殺戮は何だったのか。
業の重さで押しつぶされる。
精神を病んでまともに生きれなくなる。
俺は…執行人。
七公爵家のグラオザーム家の次期当主。
「レグルスさ~ん!迎えに来ました~!あらあらまあまあ!!…泣いてる姿のレグルスさんも、私は好きです。帰りましょう?我が家へ!」
そんな無駄に明るい声と共にやって来る馬車。
はぁ…別にてめえの家じゃねえだろ?レグンよお?
にやりと笑いやがってよお?
相変わらずの『緋色の魔術師団』の戦闘着かい。
「全く…空気を読まず、ずけずけと入って来るレグンが、俺も好きだぜ?帰るか。レグン。」
ローズクォーツ!また明日会おう!




