96 ローズクォーツ・ムート
…レグルス公爵様の魔術科指南が終わりまして、私がいつもの日常に戻り、休日のレグルス公爵様と共に学園へ向かいました。
そして学園に近づくに連れレグルス公爵様は少しずつ曇ったお顔を…悲し気な表情を浮かべておりました。
そしていざ最上位クラスの教室に入ろうとすると…レグルス公爵様は今にも泣きそうなお顔でした。
ああ…何て愚かな事をしてしまったのか。
私がレグルス公爵様を好きで欲しいがあまり…無理やりに手を引っ張ってしまった結果が、あの壊れかけてしまったお顔をなされている。
ごめんなさい。
レグルス公爵様…。
謝らなければならないのは私の方です。
あなた様は私がいなければ、崩壊してしまう状況にしてしまいました。
そして教室に入った時…背後で嗚咽声を聞いてしまいました。
「(―ああ、初対面の2ヵ月の混同試合でも思ったが、改めて感嘆したぜ。なら悪いが…最後まで責任を取ってもらうぞ。殺し屋の俺に幸せという、苦痛を突き付けた罰としてな。―)」
…ええ、あなた様を人間に戻してしまったせいで、今にも壊れてしまいそうなのです。
はい、改めて決意を致しました。
幸せを与えた罰として、あなた様のお傍で、闇を血塗られた世界を…一緒に歩みましょう。
ふふ、レグン様もご一緒ですよ。
ご安心してくださいませ。
本日はムート領に戻りますが…何が何でも明日には…再びレグルス公爵様のお屋敷、グラオザーム邸に行きますから…。
そして…一時限目が終了しましたが…あら?居場所を壊してしまったと、レグルス公爵様はご心配されておりましたが…何か私を見る目が優しいですわ…。
カツカツと私の個人用ブースまで、近づいてきます。
「ローズクォーツ。あなた、随分とレグルス公爵を骨抜きにさせたようね?あの恐ろしいグラオザーム家の執行人を…嗚咽させてしまうまでにするなんて。正直関心しましたわよ?」
あら、エスメラルダじゃない。
相変わらずだね。
エスメラルダ・ロルベーア侯爵…。
領地も近いから、うふふ。
幼馴染みたいものです。
どんな相手にも高飛車な…強く出れるあなたが好きですよ?
さらりと腰まで届く金髪に翠玉色の瞳…。
ツンとした強気なお顔。
ああ…親友の前だと素が出ちゃうんだよね!
「エスメラルダ?骨抜きなんて言葉酷くないかな?でも、へへ、そっかぁ。レグルス公爵様…。私をそこまで必要としてくれたかあ!言い方は酷いけど…嬉しい。だって…愛してるからね!」
あ、ちょっと流石にレグルス公爵様に失礼過ぎたね。
「はぁ…ローズクォーツ。普段はシャキッと上品ですのに…私やパールの前だと口調が崩れますわよね。…レグルス公爵が、まぁ正直に言うと、私もあなたにやたらと絡んで鬱陶しいと思っていた、あの6人。それを一切容赦なく処刑した事、実はかなり胸がスッとしておりますのよ?だって本当に頭のネジが飛んでるのかと思う程、まぁ私たち最上位クラスも頭を抱えていましたからね。ま、他にもまだあなたに絡んでいた男がいましたが、あなたの背後にいるレグルス公爵を恐れて、近寄らないですし。」
そうなんだよ!だからレグルス公爵様が心配している程、実は全然気にしてないの!
本当に怖かったからさぁ…私に近寄る男の人…。
もう目が下心でいっぱいだったんだもん!
「そうだね!全然近寄ってこない!だって、私はもう、レグルス公爵様の物だからね!ふふ、最後まで頑なに俺の事は諦めろって…。他の男の人とは全くの正反対で、私をきちんと気遣っての言葉だったから…。へへ。2ヵ月前の試合で姿を見た時さ?あのちょっと怖い雰囲気なのに、私の対応、鍛えられた上品さに感嘆した、って言葉でさ、キュンってしちゃった!ああ…でもどうしよう…。無理やり私がレグルス公爵様の手を引いちゃったから…苦しめちゃってる。」
…今日はずっと『蒼穹の隠れ家』で待ってるって。
燦爛クラスは休日なのに。
私も同じ、早くレグルス公爵様に会いたい。
ムート領に帰らないで、レグルス公爵様とずっと一緒にいたい。
…泣いてほしくない。
レグン様がどうにかレグルス公爵様を支えてくれると思うけど…。
「はぁ…ローズクォーツ。2ヵ月前の試合で手も足も出なかったレグルス公爵を、もうあそこまであなたが追い込んでしまったのだから、早くいつもの隠れ家に行ってきたらどう?もう責任をあなたも取りなさいな。」
やれやれって顔をしてるね?エスメラルダ!
勿論そのつもり。
幸せを与えてしまった罰を、受けに行きますから!
「うん。行ってくるね。ありがとう。エスメラルダ!」
私は20分の休憩時間をレグルス公爵様と過ごしたいので…足早に教室を出ました。
お待ちになっている『蒼穹の隠れ家』まで。
私も知らなかった事ですが…怖がられていたレグルス公爵様の涙を流す姿に、同情だけでなく、少しずつ最上位クラスも変わって行きました。
シリウス主席の最初の祝辞を思い出したのでしょう。
「(―しかし、心に刻んでほしい。力には、必ず責任が伴うということを。―)」
「(―特に、上流科に籍を置く者たち。君たちは生まれながらにして多くの恩恵を受け、この国の中枢を担うことを期待されている。―)」
「(―その血筋は誇りであると同時に、決して逃れることのできぬ『責務』の証だ。家名に甘んじ、研鑽を怠るような者に、この学園に居場所はないと知れ。―)」
「(―民の模範となり、国をその双肩で支える、真の指導者となることだ。―)」
「(―これからの学園生活は、平坦な道ではない。厳しい試練が、諸君らを待ち受けているだろう。―)」
そう、血筋に甘んじて、研鑽を怠っていたんです。
最上位クラスは改めてあの言葉の重みを、レグルス公爵様の処刑劇で思い知ったんです。
だから…最上位クラスはレグルス公爵様を畏怖だけでなく、模範として見るようになりました。




