95 『無慈悲な閃光』の涙
今俺はローズクォーツ共に、城門とはまた別の、上流科校舎エリアに続く『正門(凱旋門)』方面の、『放射状道路』を馬車で移動中だ。
レグンとブリッツシュラークは家に置いてきた。
まぁ、案外ブリッツシュラークはレグンとも仲良く…なってんのか?あれは?
メチャクチャ罵りあっていた気もしなくはねえんだがなぁ。
「(―好きな人に半ば放置されて可哀そうですね!ブリッツシュラークさん!―)」
「(―へ~?レグンっちこそさ~、二股してて恥ずかしくないわけ~?ダサ~い。―)」
「(―あらあらまあまあ?嫉妬ですか~?ブリッツシュラークさん!災厄をまき散らして情けな~い!―)」
「(―へ~?クラっちを襲ったのさ~、レグンっちでしょ~?王族にバラそうかな~。ど~する~?―)」
「(―ちょちょちょ!?勘弁してくださいよ~!冗談じゃないですか~?―)」
…まぁ、ブリッツシュラークもあれだけ言い返せるなら大分復活しただろう。
俺も王族に処刑の件を話に行ってるから、エルナトや他の七公爵家、ヴァールハイトの3年の主席の兄貴にも伝わってる。
ま、妹やスピカにはまだ言ってないみたいだが。
驚いたのが、何をやったんだかクラートの奴め、騎士科に畏怖されて、住み込んでいた寮がバレたらしい。
だからヴァールハイト家に世話になってるらしいな。
…は、クラートの奴と言い、二股して恋仲になっちまったレグンと言い、七公爵家の家に住み込んでるとは…両方とも知らねえなんてよ。
てめえら2人、すぐ近くだぞ?
ま、とにかくレグンも気を遣ってくれたのか、今はローズクォーツと2人きりだ。
今日から…というか本当なら魔術科指南の6日目も7日目も休みだったんだが…学業の始まりだからな。
俺はローズクォーツの学業の終わる、午後3時過ぎまで、学園にいる予定だ。
それに…騎士団が去るからな、ヴァールハイトの兄貴からクラートが見送りに12時くらいに来るとも連絡もあった。
ま、何であれ、今日の最上位クラスの教室でローズクォーツが無事過ごせるか…はぁ、まあ俺の責任とは言え1日確かめると同時に、ローズクォーツの兄、アルタイル会計にも謝罪しねえとならねえ。
「悪いな。ローズクォーツ。俺のせいでもしかしたら…学園での生活が苦しくなっちまうかもしれねえ。だから…」
「大丈夫ですわ…。レグルス公爵様。ふふ、あなた様のおかげで何も怖くも、孤独でもございませんわ?」
…はぁ、気高いねえ。
その腰までふわりと伸びる薄桃色の髪、朗らかさと上品さがいい感じで混ざっているんだわな。
ああ…ついもたれかかっちまった。
…ローズクォーツも俺の肩にもたれかかり合ってくれるか…。
「寂しいな、ムート領に戻っちまうなんてよ…。」
「うふふ。大丈夫でございますわ。婚約者ですから、すぐにまたレグルス公爵様のお屋敷で、お世話になりますわ…。」
俺とは違って、強いんだよなぁ…。
何となくローズクォーツを抱きしめて、彼女も受け入れてくれて…そのまま口付けをした。
「ん…。ふぁ…。好きだぞ。そして…悪い。二股なんてしちまって…。…許してくれなんて言えた立場じゃねえが、居場所を壊した責任を取る。」
「大丈夫ですよ?ふふ、レグルス公爵様の手を無理やり引いたのは私なのですから…。」
学園到着までずっと、お互い肩を寄せ合っていた。
朝の上流科校舎エリアまで到着し、『放射状道路』の広い横の『御車寄せ』付近で俺とローズクォーツは降りる。
はぁ…俺は別に畏怖の目で見られようが知ったことじゃねえし、むしろそれが当たり前だと思っているが、そのせいでローズクォーツまで巻き添えにして、これまでの人間関係を壊したり、そしてこれから先の人間関係の構築に支障が出るとなると…流石に罪悪感でいっぱいだ。
休みだが一応制服姿だ。
手を繋いで広大な白亜の大理石の上流科エリアを歩く。
さて、1年の上流科連中は俺の殺戮をよく知っているだろうが…、他の学年もまぁ知っているだろう。
つうかよお?俺より2~4年だろうと七公爵の俺に楯突くなら、魔術科指南の4日目の殺戮…普通にやるぞ?
…ま、6日目の公開処刑を見た連中も多少はいるだろうから、暫くは七公爵家に反抗するアホはいないだろうな。
ああ、流石に1年校舎まで来ると、目を逸らし、逃げる奴もいるか。
つか、それが当たり前。
今までがおかしかったんだよ、愚か者共がよお?
そのままローズクォーツと共に5階へ。
「え。レグルス公爵様だよ…。」
「今日は休みで来ないはずでは…。」
「まぁ…この前の当日に怖がらせた事のお詫びまでしてくれたし…大丈夫だとは思いますけど。」
「ローズクォーツ侯爵にあまり下手な真似はしないように。」
全く…俺を見てビビってんじゃねえよ。
情けねえ。
楯突きさえしなきゃ何もしねえよ。
はぁ…ま、ホームルームが始まるギリギリで敢えて来たからな。
後は俺が声をかけてやるだけだ。
「んじゃ、ローズクォーツ。学業にいつも通り頑張ってくれ。…俺はまた、あの場『蒼穹の隠れ家』にいるからよ。」
俺の心配と、罪悪感が伝わったんだろうか。
「ふふ。大丈夫でございますわ…。では行って参ります。」
スカートの端を持ち上げて少し屈むような、いつもの上品な仕草。
綺麗だな。
ああ、嫌だな、もう少し居たいな。
けど、引き留めるのはいけねえからな。
待ってるから、『蒼穹の隠れ家』でよ。
俺が頷いて、ローズクォーツは最上位クラスの教室に入っていった…。
あれ?視界がまるでぼやけて見える。
…違う、泣いてるのか、俺は。
どうせまた、1時間もしないうちに『蒼穹の隠れ家』で会えるのに。
そうか…ここまで彼女、ローズクォーツの存在が俺には必要で、ムート領に帰ってほしくないのか。
早く会いたい、そうじゃないと、執行人が出来なくなってしまう。
「…うぐ。ぐす…。ふぐ…。」
…最上位クラスの教室前で嗚咽が出ていた。
おかげで俺は全く周りを気にする余裕がなかったが…そんな俺の姿をこれから教室まで入ろうと登校していた、最上位クラスの連中が…痛々しい目で俺を見ていた。




