79 執行人と貴族社会の禁忌
6階、『白銀の回廊』を俺は歩いてる。
ああ…『聖銀』の白銀の耀きと…左窓と天窓の日の光を浴びながら。
例え貴族の者であっても、下位の者が上位の者…特に七公爵家に楯突こうものなら、それは万死に値する。
俺がローズクォーツを連れ出すと言う、非礼な真似をしていたとしても…。
数分前の殺戮は、執行人としての俺の沁みついた通常行動だった。
掟を破った者を処理する、冷静さと手際の良さの殺戮…。
公爵家の者に意見するにしても、もし俺ではなく、ヴァールハイトやブリッツシュラークであれば、事を穏便に済ませていただろう。
だが…意見、いや、俺にとっては七公爵家に楯突いたと考えているが、よりにもよって殺しの達人の、グラオザーム家の俺だったのが、奴らの不運。
貴族の者としてのプライドと、王都ではない貴族街では、あのような場面は日常茶飯事だったのだろう。
しかし…残念ながらここは王都、ルミナス王国の心臓部。
その心臓部での、あの抗議は俺にとっては国を蝕む病魔と捉えてしまった。
だから執行人として、病魔を取り除く作業…殺戮を行った。
躊躇いはまるでなかった。
あれだけ人殺しに嫌気がさし、心が摩耗していて尚、簡単に殺しと言う行動を起こせてしまった。
…ローズクォーツになんて説明するんだ?俺の行動によって、彼女の学園での居場所をなくさせてしまった。
はは…こんな大変な出来事を起こして尚、普通に魔銃を制服に取り付けたホルダーに収め、平然とした顔で歩いている。
…気づけば「聖銀」製の教室扉の前。
どうすんだ?今しがた殺害を起こした奴が普通に教室に入ろうと言うのか。
燦爛クラスの皆にはなんて言えば良いんだ?リゲル先生には、どんな面下げて会おうと言うのか…。
「レグルス…。色々な考えで頭が回らなくなっているだろうが…先ずは一度教室に入りなさい。」
どれくらいぼさっと立っていたのか、いつの間にか後ろにリゲル先生がいた。
「……分かりました。」
…教室にはエルナトにブリッツシュラーク…後は今日はスピカも来ているか。
クラートとヴァールハイトが教室内にいないが…。
「先生。昨日はお休みしてすみません。今クラートとノートさんがホームルームに間に合わないと、伝言を預かっています。この後は騎士科の指南に向かうはずです。」
そうか…。
きっと、この6階のサロンで対話をしているのだろう。
仲直り…出来ると良いな、クラートとヴァールハイトは。
俺はあの2人の漫才コンビが気に入っている…。
はっ…今しがた殺しをした身で、何を他人の心配なんてしているんだろうか。
「そうか…。スピカ。伝言の件は承知した。特にお咎めをするつもりはない。一先ずはホームルームが先だ。」
クラートとヴァールハイトはやはり、教室に現れなかった。
「エルナト、スピカは先に騎士科の指南へと[カエルス演習場]に向かいなさい。後にクラートとノートも向かわせる。
…それと、レグルスとアトリアの両名は、魔術科指南に向かってもらいたかったが…一度待機だ。それではホームルームを終了とする。」
そのままエルナトとスピカが教室から出て行った。
「え~せんせ~?待機って~、どういう事ですか~?」
「…アトリア。君だけ先に魔術科の上位、最上位クラスまで向かわせたいのだが…君1人だと危ないからな。だからレグルスに面倒を見てもらっていたのだが。
しかし…今そのレグルスが不調なのだ。」
はは…学園で殺しを、学生が学生を殺すなんて考えられないだろうな…。
何やってんだ?俺、どうしたら…。
「レグっち…?ど~したの…?顔色が悪いよ…?」
「っ!!ブ、ブリッツシュラーク!お、俺は…っ。」
学生殺しを平然と、やってのけたとでも言うつもりか?
冷や汗が止まらない…。
クソ!もう稼業の性で身体が勝手に殺しに動いただなんて、言えるわけがない!
「…アトリア。七公爵家に強気に出てくる貴族たちが、最近多い事は耳にしているな?例えば、2年の燦爛クラスで生徒会書記のウェズン・ツー・ノルム公爵にも、反感を持っていたりなどな。」
リゲル先生が冷静に話を進めている…。
どうしよう…。
「…確かにそ~ですけど~、確かに不思議だな~って、思ってたんですよ~。でも~、それとレグっちに~、何の関係があるんですか~?」
「…貴族社会で、下位の者が上位の者に歯向かおうものなら、万死に値する禁忌である事は知っているな?特に七公爵家に楯突こうものなら、侯爵以下は簡単に鎮められる。だが…何故かここどうも先ほどの、ノルム公爵の例に洩れず、強気に出てくる下位の者が多いのだ。どうも裏で『紫苑騎士団』が関係があるのではないか、と。
昨日、レグルスが最上位クラスで、ローズクォーツ侯爵を連れ出した件についても知っているな?」
やめてくれ…。
もう、追い込まないでくれ!
「レグルス…。別に君を責める気はない。もう近いうちに、あるべくして起こってしまった事だろう。アトリア。君にも関係のある事だから良く聞くように。
本当についさっきの出来事だ。昨日のローズクォーツ侯爵を連れ出した事に反感を持った、6名の最上位クラスが、レグルスに抗議をしたらしい。言わばグラオザーム公爵家に歯向かったに等しい。
ミリアルデ侯爵、シュラハト侯爵…。それと伯爵の者が4名。この6名をレグルスが執行人としてその場で魔術による銃殺刑を行った。」
「は、はは…。ブリッツシュラーク…。俺は殺戮をした…。魔術科指南なんて出来る立場じゃねえ…!」
もう俺は顔を伏せてしまって、先生もブリッツシュラークの顔もまともに見れない…。
「もう既にグラオザーム家には連絡が行っている。この6つの貴族家は七公爵家に歯向かった者として、近いうちに潰される事になる。改めて七公爵家、及びルミナス王族に歯向かう事の愚かさを知らしめるため、一家公開処刑になる可能性もある。
レグルス。顔を上げなさい。最近の治安の悪さは私も頭を悩ませていた所だ。レグルスには辛い思いをさせてしまったが…レグルス。君のあの行動に間違いは無かったと、私は確信している。これで下位の貴族達も少しは大人しくなる可能性がある。
教師である私が責任を果たせず、君に押し付ける形となってしまった。君だけが思い詰める必要はない。レグルス、君の担任教師は私だ。私もこの不始末の責任がある。どうか許してほしい。」
…何故?どうして俺を責めない…。
「レグっち…。多分、あたしも~、同じ立場ならやってると思うよ~?だからあんまり自分を追い込みすぎな~い!!魔術科指南、行くんでしょ~?待たせてる子もいたよね~?早く迎えに行こ~?あたしも一緒に行くからさ~。」
「レグルス。この件についての議論は、ここでは一度止めよう。頭を冷やすと言う意味で、アトリアの言う通りに指南に向かってみなさい。」
…レグンとローズクォーツを迎えに行かないと。
「…はい。指南に向かいます…。」




