77 夜中の整備
今俺は、上が黒のアンダーアーマーTシャツに、下がぼふっと、ゆとりのあるカーゴパンツ姿。
もう既に0時を過ぎてやがる。
何だかんだ騒がしかった夕食後、本当はローズクォーツと一緒の時間を過ごしたかった。
ではあるんだが…あの小生意気なレグンがいるせいで、せっかくグラオザーム家に来てもらったのに、客間で各々過ごし、そして俺も自室に引きこもり、魔術媒介武器の手入れ用の使い込んだ、チーク材の作業台で魔銃のメンテナンス中だ。
魔力を帯びた金属を磨くための特殊な布『浄化の布』『宝玉等級:エメラルド』、魔術刻印を調整するための、精密な水晶の道具『調整の水晶』『宝玉等級:サファイア』などが置かれているんだ。
ああ?暑いから『大理石の冷暖炉』『宝玉等級:ルビー』で氷結の冷風を出してるわ。
…グラオザーム家全体全ての床が黒御影石で暗いんだがな、廊下とは違って各個室の壁は重厚なマホガニーの壁板になってる。
何せ『隠蔽の兜』を被ったレグンの戦闘で、レグンの最高位魔術、どうやら水属性を操ってたらしいが、『第6階梯:水:シュトロームランツェ』により左腕を負傷したわけだが…。
あの時にメインでこれまで使っていた『煌きの星』『宝玉等級:ルビー』の魔銃が逝かれやがった。
どうにか直んねえものかと、カチャカチャと弄ってるんだが…ダメだな。
魔道具専門の店に行かねえと無理っぽい。
まぁ…『終焉する星』『宝玉等級:ダイアモンド』の他にも、魔銃が2つあるんだが…如何せんそのネームが、精神が弱っちい俺には合わなくてなぁ。
…1つ『勇気の星』『宝玉等級:サファイア』。
勇気なんて俺には程遠い。
…2つ『運命の星』『宝玉等級:ルビー』。
執行人という運命を呪ってるわ!
…3つ『慈愛の星』『宝玉等級:ダイアモンド』。
はっ!『無慈悲な閃光』の異名を持つ俺に慈愛?皮肉ってんのか。
…もう一丁『宝玉等級:ダイアモンド』があるんだが…あれは非常に強力な分、精神を蝕まれる危険な魔銃何だわなぁ。
仕方ねえ。
代用品の『灯火の星』『宝玉等級:エメラルド』だが、これを暫く使うかぁ。
十分通用するだろ。
はぁ…クッソ。
ローズクォーツと過ごしてえ…。
でも今日は無理だったが、婚約者。
もう暫くグラオザーム家に来てくれるし、明日の上位と最上位クラスの指南でも来てくれる。
レグンはどうすんのか知らねえけど。
ありゃ確かに余りにも見た目が良すぎる。
そりゃ『隠蔽の兜』を使うわなぁ。
クラートの奴も、紅い魔眼に目が行きがちだが、優しくて愛嬌のある顔立ちで甘いマスクをしてんだわ。
けっ!ヴァールハイトの奴もあれにころりと落ちたんだろうが…。
…レグンは来ねえ方がいいだろ。
貴族街であったかつての学園での、無駄に寄ってくるバカ共を追っ払って、それでついた異名が『冷酷なる雨音』…。
ちっ、ふざけてやがる。
てめえらが群がったのが悪いんだろうになぁ。
どっちみち明日も早い。
さっさと寝るか。
俺の寝具は、シンプルだが、がっしりとした作りの上質な黒檀のベッドフレーム。
マットレスはやや硬めだが、最高級の素材だ。
天蓋付きのベッドとか、ふかふかなベッドってどうにも性に合わねえんだ。
「〔コンコン〕」
…あ?誰だよ。
こんな夜中によお。
チタニアか、アウロラか?
「〔や~らしい『無慈悲な閃光』さん…。ま~だ起きてますか~?〕」
…めんどい奴が来たなぁ!
なんでローズクォーツじゃねえんだ!
よし、無視してやる。
「〔…あの~無視しないでもらえます?この可憐な私に無慈悲過ぎません?ああ!な~るほど!こうして焦らして私を虐めて遊んでるんですねえ!や~らしい!!〕」
…しつけえ!
時間も時間だっての!
「〔あらあら?もしかして可憐な私と対面する事に臆しちゃってるんですか~?情けな~い!ほら~早く開けてくださ~い!〕」
「だぁ!!うるせえぞ!!このこん畜生!!」
ドアをバアン!と開け放つ。
そこにはまぁ小生意気で…はぁ、相変わらず見た目は、艶の良い人形のような端整な外見をしてんだわな…。
んで恰好が寝巻の…薄く柔らかい麻のシュミーズかよ。
目の行き場に困るだろうが…。
するとニヤリとしてきやがって、
「あらあら?焦らして遊んで楽しかったですか~?や~らしい『無慈悲な閃光』さ~ん!ふふん!どうですかぁ?中々に魅惑的でしょ~?情欲しちゃいましたか?私、まだ15なんですけど?ロリコンですか?ごヴぇ!?」
「夜中でもてめえは口の減らねえ奴だなぁ!?勝手に訪ねて来たのはてめえだろうがぁ!!」
レグンの頭をもう恒例行事のように小突く。
ああ…もう本当に何やってんだよ。
俺は明日普通に登校しねえといけねえんだぞ?
「痛~い!!そしてガミガミうるさいですねえ。もう夜中ですよ?静かにしてください!ごヴぇ!?」
「てめえの減らず口のせいでこうなってんだろうがぁ!?はぁ…もういいわ。んじゃな。」
よし、ドアを閉じてやる…と思ったら、スルっと隙間を縫って入り込んできやがった!?
「は~い、閉じられる前にや~らしい『無慈悲な閃光』さんのお部屋に侵入成功!!ああ!な~るほど!敢えて私を自主的にお部屋に入れさせるために、お喋りしてたんですね?無慈悲な上に狡猾~!!ごヴぇ!?」
この野郎…うるせえから小突くんだがピンピンしてんだよなぁ。
「おいこらぁ!?てめえ何勝手に入ってきやがる!?ああ…もう面倒くさい事になった…。明日は早いんだぞ!?てめえはどうするのか知らねえがな。ってこらぁ!!俺のベッドの上に寝転がるんじゃねえ!!」
「ええ~別にいいじゃないですか~。美少女がベッドの上にいる、最高のシチュエーションじゃないですか~?ああ!な~るほど!このシチュエーションを作り出すために、この時間まで起きていたんですね~。や~らしい!!ごヴぇ!?」
こん畜生め…ローズクォーツなら最高だが、このレグンには何も思わん。
しかも俺のかけ布団を勝手にくるまりやがって…。
「ああ…もういいわ。何の用があったのか知らねえが、そこで寝ていろ。てめえを退かすのも面倒だからなぁ。俺はそこの革張りのソファの上で寝ているから、静かにしていろ。」
「は?私と言う美少女がや~らしい『無慈悲な閃光』さんのベッドの上にいるのに、何もしないんですか~?根性無し~!!…ぅえ?あの、ちょっと…?」
…そうまで言うならてめえの隣で寝てやるよ!!
こん畜生が!!
俺のベッドの上で遊んでる、この小生意気な奴の密着するように俺は寝転ぶ。
「ったく、うるせえ奴だ。そら、お望みどおりに一緒のベッドの上で寝た感想はどうだ?…てめえは明日は学園に来ねえ方が良いぞ?認めるのは癪だが、てめえは外見が良すぎる。指南どころじゃねえだろうよ。てめえの言う通り『隠蔽の兜』を俺が壊したせいで、余計な事をしでかす奴もいるだろうよ。つうか、てめえとブリッツシュラークの両方の手綱を握んのが、クソめんどい。」
「…ウンシュルトでは良いように使われて、外では私の外見で近寄ってくる人達ばかり。だから私は『隠蔽の兜』を被り、自分を偽りの仮面で覆い隠してきました。そしたらいつの間にか、半分自分が何だったのか分からなくなってきて…。人が怖くなって、傲慢な態度で威圧するようになってました。」
…ったく、急にしおらしくなりやがって。
俺もローズクォーツに似たような事を言ったなぁ。
「(―人間のどうしようもない醜さに触れ過ぎて、そして殺しまくり続けて…半分自分自身が何のなのか、分かんなくなっちまってんのさ。―)」
種類は違えど、レグンも俺と似ている悩みを抱えているか。
「そうかい。レグン、まぁ、俺も同じようなもんだ。執行人の稼業を続けている内に、俺も段々と心が摩耗していった。だから俺も相手を威圧するように口が悪くなっちまったのさ。…兜を被っていた時よりも、てめえのその小生意気な態度の方が、俺は全然好きだぜ?…っておい。何だよ。」
レグンに背中を向けて寝ていたが、背後からレグンに抱きつかれる。
「…『無慈悲な閃光』さん。いえ、レグルスさん…。私、ここまで楽しく言い合い、本音を言えたのはレグルスさんだけでした。クラートお兄様には…嫉妬と憎悪と言う本音をぶつけてしまいましたが。」
「まぁ、俺も案外楽しかったぜ?てめえと言い合うのはよ。食卓も華やかだったしな。魔眼の件については…寧ろクラートがてめえに罪悪感を抱いているだろうよ。そうじゃなきゃ、てめえと争った事を3ヵ月もの間、誰にも言わずに隠していた説明がつかねえからな。だから馬車内でも言ったが、別に時間がどれだけかかっても構わねえから、いつかしっかり対話するんだな。
とにかく俺は明日も登校だ。今度は上位と最上位クラスの魔術科共だ。とっとと寝かせてもらうぞ。」
クラートの奴の苦しみをしっかり理解出来ていなかったのは、俺も同じか。
自分の事で精一杯だったからなぁ。
そんな事を思ってい眠ろうとしていたら…
「…優しい人。レグルスさん…私、好きです。レグルスさんの事が。」
…は?ヤバい事言わなかったか?




